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6 お茶について

「地蔵堂ー。来たぞー。ごめんくださーい」

 今日も今日とて私は夢の中、地蔵堂邸に来ております。

 いやーそれにしてもこの前は、地蔵堂邸以外の場所に来てろくな目に合わなかったな。そう考えるとやっぱり落ち着くな、ここは。

 …でもなんかいつもと違うような…あ、クラシックが流れてない。じゃあ地蔵堂は不在かな?でも玄関の鍵空いてるし…。

 いいや。上がっちゃえ。ごめんくださいっと。

 応接室の襖を開ける。でもやっぱり地蔵堂はいない。どこ行ったんだ?あいつ。

 火焔型土器には蜜柑の代わりにおせんべいが入っている。これでも食べて待ってよ。あー暇だなー。

 …そうだ、この機会に地蔵堂邸を探検してみようかな。玄関と応接室、居間に縁側しか知らないからな。ほかの場所がどんなになってるのか気になる。

 応接室の奥の襖から廊下に出る。応接室の向は扉のない入口にのれんがかかっている部屋。失礼しまーす。ここは…お勝手?というより、給湯室かな。電子レンジやポットに並んでコーヒーミルが置かれているところが、地蔵堂っぽい。

 その隣は…あ、ここは覚えてるよ、居間だ。開けてみると、こたつはもうしまわれていた。それでもやっぱりここは、テレビとかごみ箱とか、ちゃぶ台におかれたままの空のマグカップとか、生活感があるなあ。

 居間の隣はっと。おや。廊下がT字に交差してる。左は…きっとこの間お酒を飲んだ縁側だろう。じゃあ右は…。

 右を見ると、廊下の一番奥の部屋の襖の隙間から明かりが漏れているのがわかった。地蔵堂、あんなところにいたんだ。何の部屋だろう。襖を開けると…

「さぜーーん!」

 地蔵堂が飛びついてきた。

「ちょっ、地蔵堂、落ち着いて!わたしわたし!」

「牧ヶ花!…いやあ失敬。佐善が来ると思ってたもので」

 …ほんとに璃子ちゃん相手だと変態的だなあ。

「はあ、まったく…。ねえ、誰が来るとかって、分かるものなの?」

「うーん…なんとなく、そろそろ来るかなーって思うくらい」

 ふーん。そんなものか。

 そういえば地蔵堂、この間のけがは大丈夫だったのかな?見たところ普段と変わらないけど。

 とかって思ってたら、再び襖があいた。

「さぜーーん!」

「わっ、抱き着くなよ!」

「じゃあ佐善が抱きしめて♡」

「気持ち悪いな!」

 ほんとに璃子ちゃん相手だと変態的だなあ!地蔵堂と璃子ちゃんによるいつものネタとやらが繰り広げられる。もう璃子ちゃん、来て数分で疲れ果ててるよ…。

「はぁ…はぁ…それにしてもこの家…茶室なんてあったんだね…」

 茶室?そうか、この部屋は茶室なんだ。六畳の空間に床の間まである。

「佐善が来るかな、と思って。どうぞ一服。牧ヶ花もぜひ」

「え?わたしもいいの?作法とか知らないけど…」

「どうぞお気になさらず。私の佐善とのスキンシップも、お気になさらず」

 それは気になっちゃうかな…。

「正客は佐善が入りなよ」

「そうだね。それがよさそう」

 二人が慣れた様子で畳に座る。

「ねえ、地蔵堂も璃子ちゃんも、茶道は経験者なの?」

 聞きながら、わたしは璃子ちゃんの隣に陣取る…これでい合ってるのかな…?

「こいつとは高校のころ同じ部活の同期だったって話はしたよね」

「私と佐善は、高校時代茶道部だったんだよ」

 そうだったんだ。それで地蔵堂は着物が板についてるんだね。

「私以外周りが女子ばかりで、肩身が狭い思いをしたものだよ」

 …そうか…それでこじらせたんだね…。

 それにしてもこんな風にお茶を出してもらえるのって初めてだな。

 畳の上の一ヶ所に、いろいろと道具が並べられてる。わたしだって釜と茶碗と柄杓くらいはわかるけど、それ以外の道具は名前も用途も全然わからない。こんな時は知ってる人に教えてもらおう。わたしは地蔵堂の動きを見ながら、隣の璃子ちゃんにいろいろと質問する。

「ねえ璃子ちゃん。あの釜の隣の陶器の入れ物は何?」

「水指だよ。あれに水を入れとくの」

「じゃああの陶器の小瓶みたいなやつは?」

「茶入だよ。お茶を入れとくの」

「じゃあその茶入の上に不安定にのってる耳かきみたいのは?」

「…表現どうにかならんのか?」

 うう…ごめんさない。見たままを聞いてしまった。

 そうこうしてるうちに地蔵堂がお茶を出す。ようし。ここから先は璃子ちゃんの動きを真似したらいいんだね!…でも意外とやること多いな…。ん?どうしたの璃子ちゃん。私にお茶碗を渡してきたけど…。戸惑ってたら璃子ちゃんが解説してくれた。

「回し飲みするんだよ」

 へえ、回し飲みするんだ。なんかイメージと違うな…。

 って何これ!どろっどろじゃない⁉ちょっと地蔵堂!全然イメージと違うんだけど!

「薄茶の方が一般的だろうね。それは濃茶って言って、そういう物なんだよ。私も最初はびっくりしたけど、これがまたおいしいんだよね」

へ、へえ…。じゃあ、いただきます。わたしは恐る恐る濃茶を口にした。

「…見た目に負けず劣らず…衝撃的な味…」

 なんか背中にぞわっと来るんだけど…。

「初めて飲むとそうなるよな」

 うう…璃子ちゃん…平気な顔でそう言うけど…これ茶道あるあるなの?

「そうだね…おい、口直しになんか出したげて」

 璃子ちゃんが地蔵堂に口直しを要求してくれた。うぅ…ありがとう。

「うーん…惣菓子以外だと、今うちには何もないな…」

 そこを何とか地蔵堂…なんら水でいいんだけど…。

「あ、そういえば、今イナゴの佃煮があったな…」

 それこそそういうもんの代表格じゃねえか!

「えー…イナゴの佃煮おいしいのに」

「茶道はさておき、イナゴはうまいな」

 ちょっと璃子ちゃん、何地蔵堂に加勢してるの!イナゴはぜひご遠慮させていただきたいよ…。

「一回騙されたと思って食べてごらんよ。おいしいから」

「まあ、足とか口の中で引っかかったりするけどな」

 もう誰か助けてー!


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