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2 通販について

 わたしは牧ヶ花麻希。地方の大学の三年生。文学部に所属している。身長は159cm。髪型はボブカット。好きな色は赤。趣味は…クラシックを聴くこと。最近共通の趣味を持つ友人を亡くした。…が、すぐに再会した。いや、あれを再会と呼べるのなら、だけど。

 その再会したらしき友人というのが地蔵堂真一。大学では同学年で、確か日本史を専攻していた。一見すると真面目な大学生なのだが、中身はなんていうか変な奴。いや、死んだ人を悪く言うもんじゃないか。生前のあいつも、別に悪い奴ってわけじゃなかったしね。

 それにしても、この間の夢は何だったのだろう。起きてからは特に何ともなかった。強いて言うなら、夢の記憶がやけに鮮明なくらいで。不思議な夢を見た、くらいに思って生活している。

 さて、もう夜も遅い。今日はそろそろ床に就こうと思う。さすがにあんな夢、そう何度も見ないでしょ。あー今日も疲れた。お布団お布団っと。おやすみなさい――――――


 ――――――ここはどこだろう。見たことのない…いや、ごく最近見た記憶のある景色。飛び石の道。平屋建ての日本家屋。さては。

 そうかこれは夢だ。今わたしは絶賛イン・マイ・ドリーム。そしてどうやらこの間と同じ夢を見ているらしい。…一応確認のためにほっぺたをつねっておこう。今後のわたしのために。

 っていうことはあれか。この平屋建て家屋の中に、もしかしたら地蔵堂が…。よし行ってみよう。

お、玄関先からかすかに音楽が聞こえてくる。やっぱりご在宅ですね。でもこの間とはなんか違うような…。あ、これあれだ。ブラームスの交響曲第一番だ。どうやらまるっきる同じ夢ではないらしい。

 玄関を左に曲がってすぐの部屋、だったよね。お、やっぱりブラ一だ。ハンス・フォン・ビューロー曰く、ベートーヴェンの第十番。

 襖を開けると、中の人物がこちらに気付いて声をかけてきた。

「お、牧ヶ花、ごめんください。一週間ぶりってとこかな?ようこそ、地蔵堂邸の応接室へ」

「地蔵堂!」

 やっぱり地蔵堂だ!よかったまた会えた!

「じゃああれだね!この間の夢も現実だったんだね!」

「難しい言い方をするね。夢は夢だよ。試しにほっぺたつねってあげようか?」

 いやそれはもういい。さっき自分でやったし。

 そうか。夢の世界であることに変わりはないんだ。夢なのに現実…難しい。

「夢だけど、真実はであるって言えばいいかな。夢の世界と死後の世界はイコールなんだよ。この世のすべての夢は、現実世界の人間が死後の世界にちらっとお邪魔してるって感じ」

 なんだかちゃんと整理しようとすればするほどこんがらがりそうな話だ。

「っていうかあんたさ、この間も不思議だったんだけど、なんで和服なの?」

 浅黄の襟の襦袢に紺の長着と物は違えど地蔵堂は今回も和服だった。

「ん?いや、キャラデザの都合で…」

 活字が並んでるだけの本作にキャラデザもくそもあるか!

「ほんとはただの趣味。和服が好きなの。でも大学生の身では何着も手に入らなくてね。死んだ今になって毎日着てるよ」

 ってことは生前も毎日着たかったのか…。

ん?なんか引っかかるな。わたしはふとした疑問を口にしてみた。

「まるで死んでから着物を手に入れたみたいな言い方だね」

「ここの物はほとんどこっちで手に入れたものだよ」

「ってことは最近手に入れたわけでしょ?その割にはずいぶんいろいろあるけど…」

 テーブルやいすといった家具もあれば、CDやレコードも目に入る。あの世でも買い物とかできるんだろうか。

「ここにあるほとんどのものは通販で。スマホでぽっちっと」

 冥土の近代化!

「スマホあるんだ…。なんかイメージと違う…」

「現実世界にある大抵のものはこっちにもあるよ」

「じゃあ外に行けばお店とかもあるの?」

「あるにはある。でもほとんどスマホでぽっちっとしてるけど。…物なら通るみたいだからね…」

 なんか変な言い回し。でも気にしないことにした。この変人のこういうの気にしてたら時間の無駄だということは、身にしみてわかっている。

「ねえ他には何買ったの?」

 あの世ブランドの品は気になるなあ。

「メイドイン冥土が気になる…だと⁉」

 わたしそんなことは言ってない!冥土の「め」すら言ってない!

「そうだね…居間に行けば、もっといろいろあるかな」

 そう言って地蔵堂は応接室の奥の襖を開け、家の奥へ移動し始めた。応接室は私がやってきた玄関側の襖の向かいにも襖がついている。わたしもついてこーっと。

「なんだか一気に生活感が出てきたね」

やってきたのは、地蔵堂が居間と称する八畳ほどの部屋。春先だというのに、まだこたつが出されている。しかも天板に蜜柑が何個か散らばってるし。

「このこたつも通販?」

 言いながらわたしはこたつにもぐって蜜柑をひとつ取る。くつろがせていただきます。

「もちろん」

 地蔵堂は四つん這いで部屋の奥の押し入れをごそごそやりながら答える。

「こたつは現実世界から持ってこれないよ。棺に収まらない」

 こ、こたつが乗った棺…。何そのシュールな光景。っていうかご遺体が腐りそう。そんなお葬式が実際にあったら笑いこらえるのに必死だわ。

「あったあった」

 地蔵堂が何かを引っ張り出してきた。ごつごつした見た目。細部にまで施された文様。こ、これは…。

「火焔型土器」

なんでそんなもんもってんだよ!

「いやあ縄文人が出品しててね。見た瞬間ぽちっと」

 縄文人が通販に出品!これまたシュールな…。

「冥土っぽいでしょ」

 確かに。縄文人とネットでつながれるなんて、死にでもしないとできないわ。

「でもそれ、何に使うの?」

「…確かに。どうしようね?」

 ほんとなんでそんなもん手に入れたんだよ…。

「よし、こうしよう。机に散乱する蜜柑を…一つにまとめて…ほら、蜜柑かご」

 …なんていうか、またもシュールだな…。

 最近再会した友人、地蔵堂真一。一見すると和服の変な奴。中身もなんていうか変な奴。


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