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16 男友達について➁

「あの、帝釈天。その金髪とか、どうして…」

「俺の趣味の話か?まあこれは…話せば長くなるんだがな…。おい地蔵堂!バーボンくれ!」

「はいはい。少々お待ちを」

 地蔵堂が応接室を後にする。帝釈天、わたしが知らなかっただけで、地蔵堂邸の常連だな。ちゃんとくつろぎ方を心得てる。

「その昔…どのくらい昔だったかな…まあ千年かそこらは昔になるかな」

 だいぶ昔から入ったな。

「そのころの俺は、修羅道で戦ったり、仏教を守護したり、戦ったり、戦ったりして、暮らしていた」

 ずいぶん戦ってるな。

「しかしそれも終わる。今から百数十年昔、空蝉で言うところの江戸時代?が終わると、一気に冥土の近代化が進んだ。冥土のシステムもずいぶん変わった。針山とか血の池とかむごいやつはやめようって話になって、修羅道もなくなった」

 え?じゃあ帝釈天はもう戦うことができないじゃない…。

「そう。そして俺は、やることがなくなった。かつてともに冥土を治めていた仲間たちは、新体制下でも要職に付いたりしたし、俺にもそういう道はあった。でも俺は、それまでとは違うことがしたかった。そして俺は、懐かしの戦場、思い出の地、かつての修羅道の跡地に新しくできた『修羅道博物館』の館長になったんだ!」

 帝釈天が、博物館の館長⁉このマッチョな帝釈天が⁉

「何だ?なんか言いたいことでもあんのかよ」

 こんなこと言うのは失礼だと思うんだけど…。

「帝釈天が博物館の館長!似合わねーーー!」

「でしょ!」

 バーボンをもって、地蔵堂が応接室に戻ってきていた。それにしても、即肯定とは…!

「何だよお前ら。そろいもそろって…まあいいけどよ」

 帝釈天が少し不服そうな声を出しながらバーボンを受け取った。

「続けるぜ。俺は『修羅道博物館』の館長になったわけだが、これが…全く客が来なかった。展示はそんなに悪くなかった…と思う。義経と教経の戦いを再現したパネルなんて、そりゃあリアルなもんだった。…でも常に閑古鳥が鳴いてたな」

 なんで?館長が館長っぽくないから?

「それはもういいだろ!…いや、実は修羅道跡地に建ったのは博物館だけじゃないんだ。修羅道跡地っつっても、結構広くてだな、刑務所も建っちまってよ」

 修羅道跡地に刑務所…。なんか順当な感じ。

「地獄跡地の刑務所よりは小規模なんだがな…。おかげで元修羅道は治安も悪いし、人も寄り付かないしで、当然博物館の客も来ねぇ。それでも細々とやってたんだが、ついに去年たたんじまったよ…」

 帝釈天、ちょっと寂しそう…。そりゃそうだよ。全然お客さんが来なかったとはいえ、百数十年続けたんだもん。寂しくもなるよね。

 それにしても、冥土にも経営破綻とかあるんだね…。

「いや、飽きたからやめただけだ」

 飽きただけかよ!

「百年以上やって分かったんだ。これ客こねえと面白くねえってな」

 百年でやっとわかったのかよ!

「そんなこんなで俺はフリーの神になったわけだが…やることもないし、この機会にちょっくら遠出でもしようかと思ってよ。どうせだから行ったことのない所に行きてえなぁ。よし、冥土を出て現実世界に行こう、とか思って」

 帝釈天が現実世界に⁉久美ちゃんみたく、冥土の住人が現実に行くのって大変なんじゃないの?

「俺は帝釈天だぜ。そこらのやつとは格が違うんだよ!人間のふりして現実世界に行くなんざ、造作もねえ」

 流石、帝釈天!

「んでもって現実はいいとして、問題は現実世界のどこに行くかだ。東洋はよく知ってるし、まあわざわざ行くこともねえかなぁとか考えて、よし、ここはひとつ、アメリカってとこに旅行してやろうかって思ってな!」

 長期休暇の大学生か!

「アメリカはすげーぞ!ニューヨークなんざ、見たこともねえくらいシャレオツなところでよ!ロスもよかったな。マイアミのビーチとかもう、極楽かと思ったぜ。いやリアルに」

 極楽って、マイアミみたいなの…?

 でも、そうか。なんとなくわかってきたぞ。

「ビーチで日焼けしてよ。波が出ればサーフィンしてよ。くぁーーー!たまんねぇーーーーー!向こうで髪も金に染めてやったぜ!」

 帝釈天の趣味…アメリカかぶれなだけだ…。

「帝釈天がなんでそういう格好してるのかは分かったけど…。でもどうして地蔵堂の所に?」

 帝釈天が地蔵堂邸に出入りしている理由はいかに。

「それは私から」

 答えたのは帝釈天じゃなくて地蔵堂だった。

「私が死んだとき三途の川まで行く道中で、アメリカ帰りの帝釈天とばったり会って、意気投合したんだ」

 地蔵堂がアメリカかぶれの帝釈天と意気投合?なんかすごく趣味が合わなさそうな感じだけど…。

「そんなことねぇぞ」

 今度は帝釈天。

「真一はあれだろ?三百年前とかにできた曲とか好きなんだろ?結構最近の曲じゃねぇか」

 だめだ。理解できない。クラシックを最近とか普通の、しかも現実世界の人間には言えないわ…。

「それにほら、ベトベンっつったか?つまりありゃぁ…いかしたロックってとこか?」

 そんな簡単にベートーヴェンをまとめんな!楽聖だぞ!楽聖なめんなよ!

 まったく…。今かかってるのがそのベートーヴェンの曲だってこと、知ってか知らずか…。

「音楽はソウルだぜ!たとえば今かかってるピアノ曲で言ったら…情熱的ってとこか?」

「さすが帝釈天!わかってるね」

「おう!真一!」

 地蔵堂と帝釈天、堅く握手を交わしてるよ…。合わなそうに見えても、意外と気が合うのかもね…?



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