ある傭兵の独白
読んでいただけた方に感謝を
俺がアイツに初めて会ったのは、アルベルヌの攻防戦のさなか、敵の傭兵団に襲われたと言う村に救援に行った時だったな。
俺も傭兵になりたてで、まだエリオットの後ろをひょこひょこと付いて行っていた。
あ、エリオットってのは俺の師匠な。傭兵の。
ある一件の家の前まで来た時、床の一か所だけ燃え残っている場所があるのに俺は気が付いた。巧妙に隠された蓋を開けると、奥の方にちっこい白いのが見えたんだ。
慌ててエリオットを呼んで、傭兵団の中から人を集めて貰った。
アイツは敵の傭兵団に襲われた村の隠し井戸の中で震えていたんだ。
水の中には桶が浮いていて、それに掴まって何とか耐えていたらしい。
傭兵である俺たちの姿を見て、始めは驚いて震えていたが、味方だと分かるとホッとしたようで、底に溜まってる水の中に沈んで行きやがった。
見てらんねえと思った俺は、そのまんま井戸に飛び込んでアイツを助け上げた。
上で見てたエリオットたちがすぐ引き上げてくれなかったら、俺もヤバかった。水は凄い冷たくて、鎧を着た俺の身体はあっという間に動かなくなった。
よくこんな所で耐えてたなって思ったさ。
気絶したままのアイツを助け上げて、濡れた服だけ着替えさせる。
服はその辺りに散らばってた。女物ばかりだった。
村の様子はそりゃあ酷い有様だった。
俺も傭兵だから、そう言うのは見慣れてたつもりだったけど、あの村で起こったのはただの略奪じゃねぇ。何か恨みでもあったんじゃねぇかな。
…詳しくは話したくねえな。もう思い出したくも無ぇ。
見てえってんなら、傭兵になってみりゃ良いさ。俺みたいにな。
それからか?
ああ、なんだか懐かれちまったみたいでよ。俺が引き取る事になった。
エリオットには俺にはガキの面倒を見るなんて無理だと言ったんだが、
お前も子供みたいなもんじゃねえか、家族の面倒を見るんだと思えって言われてな。
その子に歳を聞いたら、12歳とか言うじゃねえか。俺はまだその当時15になったばっかでよ。ほんとに変わらねぇの。
エリオットは二人もガキの面倒なんざ見れねえよとか言うし、団長は団長でお前ならもう一人前だとか言いやがる。
要は面倒臭えから押し付けられたんだよな。
そうそう。足手まとい。
傭兵はヤバいと思ったらすぐにケツを捲らなきゃ生き残れねぇ。国や領主の為に死すとか甘ぇ事言ってんのは、騎士だけで十分だ。
俺たちは戦争を商売にしてる。だから負け戦は商売にならねぇ。金を払う奴が死んじまうからな。
そんなケツを捲る時に、足の遅いガキが一人いるとそれだけで追手に追いつかれたりする。勝ち戦の最中なんてよ、頭がイカレちまってるから、動く者皆殺そうとするからな。
俺らだって必死さ。
しかも俺たちは戦利品や何かを大体貯めこんでる。逃げる時はそういうモンも抱えて逃げなきゃならねぇ。
ガキなんて背負ってる余裕なんざ無ぇんだよ。
おう…そうだな。
そんでそのガキ…。そいつを俺が面倒見ることになったんだが、こいつがまた出来た奴でよ。俺より全然年下だってのに、洗濯から料理までこなしやがってな。
面倒は見れねぇとか言ってたエリオットまで俺の家に喰いに来るようになりやがってよ。エリオットは都合の良い時だけ俺をガキ扱いすんだよな。
俺に取っちゃ感謝しなきゃならねぇ師匠だけどな。
家? ああ、俺たちだって根無し草じゃねぇ。団として定住している場所はある。そうじゃなきゃ俺たちに依頼も出来ねぇだろ?
そう。そこで俺も15になったと同時に家を貰ってよ。前に居た団員で死んじまった奴のだけどな。そこに二人で住むようになったんだ。
ま、言われた通り兄弟が出来たみてぇなもんだ。
…また話が逸れちまったな。
それでな、ソイツが家に来てからよ。部屋も掃除されるわ、服も綺麗になるわ、料理は美味いわでよ。俺もちっと頑張らねえとなって思った訳さ。
水浴びの回数を増やされたのはちょっと嫌だったけどな。あいつ俺の背中を流そうとするしよ…。
それから俺は随分頑張ったと思う。
正直ヤベえなと思う時もあったけど、何とか生き残ってこれた。
家で待ってるアイツを困らせる訳にゃいかねぇからよ。
そしたらよ。今度はソイツも傭兵になるなんて言いやがってな。そんときゃ大喧嘩さ。そしたらな俺にだけ危ない目をさせるなんて嫌だとか言い出しやがんの。
そんときゃうるせえって一喝して止めさせたんだけどな。
いつの間にか勝手にエリオットに剣やら傭兵の流儀だかを教わってやがってよ。
ま、エリオットも歳だしもう引退するだのなんだの言ってたから、あいつに自分の全てを教えるつもりだったんじゃねぇかな。
そんな事を知らなかった俺が戻って来る度によ、アイツ強くなって行きやがるの。
力もどんどん強くなって行くしな。
そんで、とうとう半年前に剣の勝負で俺は負けた。アイツももう18になったからな。
15の時から傭兵としては一人前だったし、俺から何も言う事も無かったからよ。
そしたらよ。なんか俺に嫁になれとか言いやがる。
勝負を見てた団員の連中も囃しだすしよ。
雰囲気的にもうハイって言うしかねぇだろ?
俺も一応女だからな。もう少しこう…何とかならなかったのかなとは思ったさ。
ま、俺も一緒に住んでて嫌じゃ無かったしな…。
ああ、迎えに来やがった…。
懺悔するつもりが世間話になっちまったな。
ほんじゃ神父さん。結婚式の段取りは頼むわ。
いかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけたなら幸いです。