98.兄妹は魔法について考察する
長らくお待たせしました。
4月に入り、新年度が始まります。
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「おにいは魔法ってなんだと思う?」
ハルは胸元に浮かばせた炎の玉を左右に揺らし、首を傾ける。
「そもそもステータスって何かな、とか。じゃあスキルってなんだろう、とか」
「前に考えても分からないってことにならなかったか」
「まあ、そうなんだけどね。段々情報も出てきたしそろそろ今ある情報で推測しない?」
「あー、そういうことなら。俺も前から思ってたことがあるし」
魔法やスキル、ステータスなどについて頭の中で考えをめぐらす。
「俺が前から思ってたのは魔法についての不自然さだな」
「どの部分について?」
「そもそも魔法がなんなのかってのは置いておくとして、俺が疑問に思ったのは魔法陣だな」
俺たちがまだ1桁台の階層を探索しているときに見つけた魔法陣。俺たちは今でもその魔法陣を使うことで魔法の威力を強化している。
「なんで魔法陣を通して魔法を使うと威力が上がるんだ?」
ハルは小さく【ボム】と唱えると手の上に火の球を浮かべ、それを少し離れた場所へ飛ばす。
地面にぶつかった魔法は小さな爆発を起こす。使った魔力の量が少なかったのだろう。普段の【ボム】よりは威力が低く設定されていた。
「同じ魔力の量でもう一回やるね」
ハルは右手にトンファーを持ち【ボム】と唱えた。トンファーに刻まれた魔法陣を通して使われた魔法は先ほどより少しだけ強く光り、地面に着弾すると、先ほどより強い爆風を起こした。
「そもそも魔法陣なしで魔法が使えるってことは、魔法の構造には魔法陣が関与していない可能性が高い」
「魔法陣を通した魔法も通してない魔法も使ってる感覚は同じだからね」
「魔法を科学に当てはめるのも変な話ではあるが、魔法陣自体が魔力を増幅しているというのもおかしい」
「エネルギー保存のなんちゃらってあったもんね」
「そもそも考え方が間違ってる可能性も十分あり得るが、俺は素手で使った魔法を電気が流れている電球みたいな感じで考えてる」
「どういうこと?」
ハルは首をかしげながら手の上でくるくるとトンファーを回す。
「魔法陣が魔法を効率化してるってのも考えたんだが、だとしたら魔力を知覚できる俺たちが違和感を覚えると思う」
「まあ、違和感ぐらいはあるかもね」
「だから魔法は電球。電球の光を強くしたかったらより多くの電気を流すしかない」
「または電球そのものをもっと効率のいいものに変えるかだね」
「LEDとかな。でもそれだと違う魔法を使っているのと同じになる。でも光の強さは変えられなくても、感じる光を変えることはできるだろ」
「例えば?」
「懐中電灯とか、街灯だな。あれは光を1方向に集めることで光を強くしてる」
「つまりおにいが考えるには魔法陣がそういう工夫だってことだね。だからなんの魔法でも同じように効果が出てくると」
ハルはそっかー、と呟きながら何度か頷く。
「仮定の部分が多いけど、まあ納得はできると思う」
ハルは数秒考えこむような姿勢を見せ、すぐに険しい表情で顔を上げる。
「おかしくないか?」
俺はすぐに刀を抜き周囲を見渡した。俺の索敵範囲には何もいない。
「何もいない?」
ここは森林。モンスターの出現頻度が非常に高い階層だ。なのにモンスターが全く感じられない。
周囲のモンスターはすべて狩った。数分前に。
「おにい、私の索敵範囲にも何もいない。すぐに帰るよ」
「了解。走るぞ」
森林からモンスターがいなくなったのは、この前のスタンピードの時。スタンピードの予兆は感じなかった。
俺たちはすぐに転移陣まで移動し、地下室に戻った。
1階層には普通にモンスターがいた。ダンジョンの入り口に集まっているなどということもなかった。
東京ダンジョンでの事件が頭に残っているから、異変を詳しく調べもせず帰ってしまった。おそらくその判断は間違っていない。
ダンジョンとは本来それぐらい警戒して挑むものなのだろう。
だが、後から考えてみると随分と焦っていたのがよくわかる。
なぜなら。
「なぁ、ハル。リムドブムルはどこ行った?」
森林の象徴でもある龍が消えたことにさえ気づいていなかったのだから。




