93.兄妹のこれからを兄は考える
長い間、更新が滞ってしまい、申し訳ありません。
そして重大発表。
ついに、地下室ダンジョン2巻目が発表になりました‼
一本の腕がキーボードとマウスの間を移動する。
パソコンのモニターに表示されるのは、各国の被害状況だった。
日本ではダンジョンから溢れ出したモンスターは少なく、逃げ出したモンスターもほとんどが討伐されているらしい。
とはいえ、逃げ出した数も詳しくは分からないようで、まだ、ダンジョンの外にモンスターがいる可能性は高いらしい。
モンスターが大量に溢れた国では、ダンジョンの周囲をモンスターが自由に動き回っているそうだ。
また、そのようなモンスターの溢れ出した国で、顕著に起こっている現象はダンジョン範囲の拡大。
人やモンスターのステータスが有効になり、強化される範囲が少しずつ広がっているのだ。
その現象は、日本のように溢れ出させたモンスターの少ない国では、進行が遅いらしい。
ネット上では、その範囲からモンスターが抜けることで、広がっていくのではないか。という見解が語られていた。
となれば、ほんの少しずつではあるが、範囲の広がりが止まっていない日本のダンジョンは、未だ外にいるモンスターが残っているということの証明にもなる。
実際、街の中に発生した東京のダンジョンは、日本の中で最も進行が遅い。
「それだけでは無いはずなんだよなぁ」
小さく呟きながら、パソコンを閉じる。
時計を見てみれば24時。ハルはとっくに寝ている。俺は地下室から上がる階段に腰掛け、パソコンをしていた。
閉じたパソコンを横に置き、スマホを手に立ち上がる。ダンジョンの入り口のすぐ横に立ち、唱える。
「【パワー】」
体に力が湧いたのを確認し、1歩下がる。体がダンジョンの範囲から出たところで、ステータスや魔法の力が抜けるのを感じる。
「ダンジョンから出たモンスターの影響だけだとすれば、家のダンジョンの範囲が広がっている説明がつかないよな」
壁に掛けたカレンダーを一瞥し、先ほど置いたノートパソコンを抱え、1階に上がる。数日前には年も明け、左手の無い生活にも慣れてきた。
とはいえ、腕を無くしたことの不便や、ダンジョンの危険を再確認したこともあり、あのキメラと戦った日から、ダンジョン探索は1度もしていない。
金庫に入れた装備も出されることはなく、ハルもダンジョンに入りたいとは言わない。
そのハルはダンジョンができる前のように、のびのびと暮らしている。俺のために布団をひいてくれるようになったし、最近は料理にも手を出し始めた。
なんとも言い難い味では、いや、なぜかよく覚えていない味だったが、妹にこうして気を使ってもらっているというのは嬉しいものだ。
テーブルの上にパソコンを置き、置いてあったコップに水を汲み、水を飲む。乾いた口を水が潤すのを感じながら、物思いにふける。
現在の俺たちの資金源は、ダンジョンのアイテムを売ることだった。まだまだ、売っていないアイテムはたくさんあるから、しばらくは容易に暮らせるが、一生は難しいだろう。
それにすべてが今のままの値段で売れるわけではない。今回のスタンピードのようなことがあったのだ。探索者をやめる人もいるかもしれないが、それ以上に意欲的にダンジョンに潜る人が増えることだろう。
きっと、どんどん新しいアイテムが発見され、その質も上がっていく。そうなれば、今は何百万と高い額で売ることのできるアイテムも、いつかはそこら辺の店で売っているものになるのかもしれない。
さらに言えば俺たちのダンジョンは、モンスターがほとんど湧かなくなっていた。
スタンピードが終わった現在、どうなっているのかは不明だが、まだモンスターの湧きが遅いのであれば、ダンジョン探索をするにしてもメインを東京に変えなければいけない。
そうするのであれば、ほかの探索者に合わせて徐々に強くなっていくように見せる必要がある。問題点は山積みだ。
だが。
あくびが出る。
さすがに眠くなってきた。
「明日あたりハルとしっかり話すか」
俺はそう、小さくつぶり、布団に入るのだった。
布団は、しっかりと冷え切っていた。




