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90.兄妹は再び彼女と出会う

9月になりました。今日から秋です。

長らくお待たせしました。

本当にお待たせしました。


 森林から出ようと、歩いていれば遠くから戦闘音が聞こえてきた。見てみれば先ほどの2体のユニークモンスターを相手に立ち回る探索者たち。


「ほっといても大丈夫かな」


 ハルが呟くと同時に熊が膝をつき、剣で首を斬り飛ばされる。


「まあ、苦戦はしてなさそうだな。疲れてはいそうだが、大怪我をすることは無いだろ」


「そうかな」


 爆発音と最後の1匹である土竜の悲鳴が聞こえる。

 土竜もそこそこの傷を負っているのだろう。


「じゃあ、俺たちは1階層目指して確認か?」


「そうだね。行こっか」


 俺たちは戦闘をしている彼らに見つからないように、屈み、茂みに隠れてそっと抜けようとする。その時だった。


「きゃっ」


 探索者が戦っている方から可愛らしい声が聞こえてくると同時に、俺たちの視界に人が倒れこんでくる。


「あぶねっ」


 俺は慌てて手を伸ばしその体を支える。ステータスのおかげだろう。倒れてきた彼女は地面にぶつかることなく止まる。しかしこれは予想外だ。


「「あっ」」


 ハルと俺の声が重なる。

 人間誰でも倒れるときは近くにあるものを掴もうとするだろう。今回はそれが俺の頭だったというだけ。偶然だったのだろう。ただ今回はその偶然を呪わなくてはいけない。

 彼女の手はしっかりと俺のかぶるフードを掴み、剥いでいた。俺と彼女の目がしっかりと合う。


「こんにちは。五十木」


 俺は苦笑しながら告げたのだった。


「行け。とどめだぴょん吉‼」


 男の声に並び土竜の悲鳴。そして倒れる音が聞こえた。どうやら土竜も倒すことができたらしい。

 五十木さんは何度か俺とハルを見て、はっとしたような表情をする。


「君たち、実家で会った子だよね。あれ? でもその服はさっきの人たちで、あれ? そしたらさっきのモンスターは?」


 俺の顔はしっかり覚えていたようで混乱している五十木さん。


「あれ、五十木さんどこいきました? 無事ですかー」


 戦っていた別の探索者が、五十木さんのいないことに気付いたのだろう。周囲を見ながら五十木さんを呼んでいる。


「あ、すいません。さっきの人、きゃ」


 返事と一緒にさりげなく俺たちのことを話そうとしていた五十木さんの肩を、ハルが慌てたように引き、そのまま口を塞ぐ。

 そのまま人差し指を口の前に持ってくるとジェスチャーで静かに、と伝える。

 さすがに俺が女性を掴むわけにもいかないので注意を引くために、アイテムポーチの中にあったものを適当に遠くに投げる。


「っ‼ なんだ‼」


 一斉に武器を構え音の鳴った方向を向く探索者たち。ただそれにも例外がいて。


「ハル、下がれ」


 そのことに気付いた俺が無理やりハルの手を引く。五十木さんがハルの手から離れ、ハルが1歩下がる。次の瞬間、寸前までハルの頭があった場所を銀色の動物が通り抜けた。


「あっぶな。あれ、経験値ウサギ?」


「なんでこんなとこにいるんだ? めちゃくちゃ強いし」


 ウサギはまるで五十木さんを守るかのように俺たちの前に立ち塞がる。

 おいしい経験値を見つけた、と刀を抜こうとして止める。


「おにい、惜しいけどなんか事情がありそうだし。それに戦ったら私たちのことバレそうだから逃げよ」


 先ほど音に気を取られていた探索者たちも、モンスターがいないことに気付き始めている。


「そうだな。すいません。俺たちのことは言わないでくれると嬉しいです。俺たちはあなた達の味方なので」


 俺はそう言い残し、森林から出るために走り始める。


「絶対に犠牲者だけは出さないでね。バイバイ。おっとあぶない」


 ハルも軽く手を振りながら走り始める。そこに隙を見出したのだろう。経験値ウサギの蹴りがハルの顔に向かうが、笑顔のまま顔を傾けることで難なく躱す。

 攻撃が当たらなかった経験値ウサギはそのまま、探索者たちの中に突っ込んだ。


「うわぁー」


「どうした‼ ってぴょん吉かよ」


「おぉう‼ なんだ、ぴょんちゃんか」


 後ろから驚いたような声が聞こえてくる。運のいいことに経験値ウサギが目を引いてくれたらしい。俺たちのことはばれていなかった。


「五十木さんまた転んだんですか?」


「いやぁ、つまずいちゃった。ははは」


 五十木さんが俺たちのことをごまかしてくれる声が、俺たちの下まで届くことは無かった。




「で、ハル。どうする」


「まあ、とりあえずは最短ルートで地上まででいいんじゃない」


 俺たちは森林から15層へ向けて長い階段を上っている。とはいえ、最初のようにまじめに歩くこともなく、高く跳んだり、壁を蹴ったりとアクロバティックに上っている。

 ステータスが上がったからこそできる早業だ。おかげで普通に階段を上る数倍の速度で上ることができている。


「ハルは道、覚えてるのか?」


 ふと疑問に思う。ここまでの道は一度しか通っていなかったから。


「ばっちり。逆に最短ルート以外は覚えてない」


「じゃあ、いつも通り道案内は頼んだ」


 最後のジャンプをして15階層に着けばすぐにボス部屋を転移で抜け、14層へ走り出した。

 地上へ向かうモンスターを一方的に倒すために。



 自分たち以上の敵がいるとは、思わずに。



 洞窟の一部。それは地面が真っ赤に染まった異質の場所。

 モンスターの断末魔が洞窟の中に響き渡り、その声すらも何かが引き裂かれるような音と共に途切れる。

 くちゃくちゃと、ぴちゃぴちゃと。液体が滴る音と、咀嚼の音が響き渡る。

 しかし、その音を聞くものは。もう、いなくなっていた。


買ってくださーい

挿絵(By みてみん)

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