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89.兄妹は東京ダンジョンで、巨大樹を刈る

 

 顔を隠しながら帰ってきたハルをひとしきり慰めた後、近くにいた人に現在の状況を聞いてみた。

 その人曰く、東京ダンジョンには『893』や『大和撫子』を中心としたたくさんの探索者が殲滅にあたっているが、現状、複数のモンスターが地上に出てきてしまっているらしい。

 探索者の殲滅速度が間に合っていないのか、最悪こちらの想像もできない事態になっている可能性もある。

 電子機器の使えないダンジョン内では情報伝達の手段は無く。だからと言って1度転移で帰ってきてしまえば、その日はもうダンジョンの奥へと戻ることができない。

 結局話を聞いて分かったことはほとんどなかった。そもそも柵の外にいる野次馬は探索者ですらない人が多いように見える。

 そうであればモンスターの危険度なんて分からないし、情報を聞いたところで状況を判断した詳しいものなど聞けるはずが無い。


「で、ハル。どうする?」


「ダンジョンに入る人の確認はできてなさそうだよね。入れたら森林かな。そこから上に上がるモンスターを追いかけて上にいく。逆でもいいよ」


「上から攻めてくと、弱いモンスターに足を引っ張られて進めない可能性もあるんだよな。地上はそっちの方が安全かもしれないが、奥にいる探索者のサポートはできないな」


「じゃあ、奥からでいっか」


 ダンジョン内での動き方を決め、すぐに近くの公衆トイレに入り着替えを済ませる。

 ダンジョンからモンスターが出てきている現状、当然のごとく前に使った更衣室は使えなくなっていたのだ。

 着替えた装備はいつもの装備の上から黒いパーカー。フードを深くかぶり、顔を隠した。

 着替えた服や持ってきたものはすべてアイテムポーチに入れてパーカーの下に隠した。


「じゃあ、行くぞ。何か言われる前に突っ切る」


「おっけー」


 2人とも武器は持たずに、柵の人混みに隙間が空く瞬間をうかがう。そして。


「今だ‼」


 ゴブリンが柵を乗り越え、柵のこちら側に落ちた瞬間、俺たちは走り出す。人混みはゴブリンから距離を取ろうと、柵までの道を作ってくれる。

 ゴブリンが起き上がると同時にハルがその頭を踏みつけ、柵を跳び越える。あとに続いた俺は周りから見えないように一瞬だけ取り出したナイフでゴブリンの首を軽く斬りつけ、そのまま上に跳ぶ。若干距離が足らなかったので柵を掴み体を持ち上げ、柵の奥に着地する。

 後ろでゴブリンが黒い霧になったのを見届け、周囲で驚く探索者を横目にダンジョンへと入る。


 俺たちが森林へと転移するとそこは、いつもの森林でも、モンスターの消えた俺たちの家のダンジョンとも違う光景が広がっていた。

 森林の入り口となる洞窟の出口には、10数人の探索者が集まり、森林の方へと攻撃を放っていた。


「あー、これはまずいな。対応しきれてるか?」


「うーん微妙だね。敵が強すぎるし、明らかに見たこと無いモンスターだよね」


 洞窟の外に陣取っていたのは3体の巨大なモンスター。おそらくそのすべてがユニークモンスターだろう。

 1体目は赤い熊。大きさは5メートルほどだろうか。2体目は白色の土竜。地面に潜るつもりは無いらしい。そして最後の1体が銀色のトレント。

 ユニークモンスター以外は全く姿が見えない。すでに森林の他のモンスターはすべて討伐されたか、上へと向かってしまっているのか。

 土竜と熊による近距離攻撃に加えトレントの中距離の攻撃で手が出せなくなっているらしい。


「ハル、どれをやる?」


 俺たちが1体でも潰せば他の探索者の負担は少なくなるだろう。それならば他の探索者が相手をするのに一番厄介なのはどれか。


「じゃあ、トレントやろっか。見た感じ、他の探索者は近接戦闘が得意な人が多そうだから」


 ハルが指さした探索者の中にはネットニュースで見た覚えのある、パーティが2つ。『893』と『大和撫子』だ。そして。


「ん? あれ、五十木さんか?」


「あ、ほんとだ。盛岡で会った人だね。ここにいるってことは結構強いんだね。じゃ、行こっか」


「了解。ついてこいよ」


 俺は探索者の横を走り抜け、3体のモンスターの前に躍り出る。

 前方から迫る熊のこぶしを右手に持ったナイフで受け流し、体を捻ることで土竜の爪を躱す。そして。


「『強斬』」


 アイテムポーチから出した刀を抜き、そのまま伸びてきたトレントの枝にぶつける。

 斬り飛ばすには至らなかったが鈍い音と共に枝の動きが鈍る。


「てー、りゃぁ‼」


 動きが鈍ったトレントの顔にハルがトンファーを叩きこみ、そのままトレントの横を通り過ぎる。


「距離を取るぞ」


「おっけー」


 十分すぎるほどにトレントの気を引いた俺たちはそのまま森林の奥へと走る。

 後ろからは木をなぎ倒しながら追いかけてくるトレント。

 1分ほどだろうか。真っ直ぐと逃げたが、他のモンスターの気配はなく、森林の入り口からも見えないほどには離れた。


「よし、これだけ離れたら十分だろ。ハル頼んだ。【チェイン】【カース】」


 トレントを黒いものが包み込む。


「すぐに済むから任せて。【ディカプル】【崩壊】」


 トレントの動きが完全に抑え込まれ、その体は10の黒い球体によって押しつぶされる。


「これで終わり。【獄門】」


 押しつぶされるトレントの下に黒い穴が開き、トレントの抵抗を完全に無視して吸い込んでしまう。


「おわったね。帰る?」


「まあ、これだけでも退治しとけば他も楽になんだろ。警戒しながらゆっくり戻るか」


 他人の目が無くなり、やすやすとユニークモンスターを討伐した兄妹は、戦闘の疲れなど感じさせずにのんびりと戻り始めるのだった。


発売中‼

今更、発売祝いで行った焼肉おいしかったです。

挿絵(By みてみん)

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