81.兄妹は世界を・・・
お待たせしました。
年度末って忙しいなーと執筆をさぼっていたらいつの間にかこんなに時間が。
近くで鳴る電子音に薄く目を開く。横を見ればハルが眠っていた。日はすっかりと昇っており、時計を見れば正午を過ぎた頃だった。
「っと、電話、電話」
俺は慌てて身を起こし、俺を起こす原因となった電子音、電話の下へと向かう。
「はい、もしもし。木崎です」
バイトも前に怪我したときに辞めてしまっていたので、何の電話かと思う。電話をしたのは久しぶりだ。
『おう、久々だな。冬佳。そっちは無事か?』
電話の先から聞こえてきたのは何度も聞いた。だが、最近あまり聞くことの無かった親父の声だった。
「親父か。久しぶりだな。で、大丈夫って何がだ。無事暮らせてはいるぞ」
『あ? お前らテレビでも見てねえの? そういや住んでる場所の近くにもダンジョンはねえもんな。一番近いのは東京か?』
「そうだな。で、ダンジョンがどうした?」
親父に聞き返しながらパソコンを開き検索ページを開く。
『マジで知らねえのかよ。いいか。家は手放すつもりで荷物纏めとけ。お前ら探索者だったよな。武器は手放すな』
俺は話を聞きながらダンジョンと検索しようとして手を止める。そのまま下に書かれていたニュースへと目を向けた。
『ダンジョンが氾濫した』
親父の言葉と共にネットの映し出されたニュースの文字が俺の昨日の記憶を呼び覚ます。
「ダンジョンで大規模なスタンピードが起こったのは知っていたが。それか」
『まんま、それだよ。世界中でダンジョンのモンスターが地上に出てきた。ん? どうした』
電話口から親父の声が遠ざかり、小さく別の音が聞こえてくる。
『隊長、手伝ってください。このままじゃ突破されます』
『俺はもう隊長じゃねえっつってんだろ。あと少し耐えろ。すぐに行く』
再び電話に口を近づけたらしく音量が戻る。
『いいか、冬佳。忘れるな。何故か地上に出たモンスターの弱体化が薄い。それと、ダンジョン付近で少しだがステータスを使用できる。これがどういう意味か分かるな』
本来モンスターは地上に出れば力が10分の1へと弱体化する。探索者はダンジョンの中でしかステータスの強化が発生しない。となればそこから導きだされる答えは。
「地上が少しずつダンジョン化してる?」
『正解だ。地上のダンジョン化がここで止まるのか、地上が完全にダンジョンになるまで続くのかは分からねえ。だからこそお前に言う』
「あ? なんだ」
『本来こんな仕事に就いてた俺が言ってはいけないことなんだがな。冬佳』
親父が電話の向こうですうっと息を吸う音が聞こえた。
『お前たちだけでも生きろ。何がなんでもだ。絶対に死ぬなよ。じゃあな』
電話は向こうから切られたようでツーツーと音が鳴っている。
「ん、おにいどうしたの?」
その声に振り向いて見ればまだ布団をかぶり、そのまま上体を起こしたハルがこちらを見ている。
「緊急事態だ。説明するからすぐに着替えて装備を整えてくれ」
ハルは寝ぼけ眼でぼーっと俺を見つめ、目を擦ってから再び俺を見る。はっきりした目で俺を見てなんとなく雰囲気を悟ったのだろう。布団から跳ね起きる。
「おにい、おはよう。顔洗って着替えるから装備の準備しといて」
ハルはそう言い残すと洗面所へと消えていく。
「さて、俺も早く荷物をまとめるか」
俺は金庫を開け、装備を取り出す。そして。
「あぁ、俺も着替えてねえや」
普段着へと着替えを始めるのだった。
「よしこれで準備完了だね。で、おにい何があったの? なんか家の物も減った気がするけど」
ハルは不思議そうに周囲を見回している。俺は既に家の荷物のいくつかをアイテムポーチに入れ、いつでも家を出れるように準備を進めていた。
「じゃあハル。落ち着いて聞いてくれ。下手したら俺たちの生死に関わることだ」
俺の言葉でゴクリと唾を飲んだハルは頷く。
「分かった」
俺は先程親父と話をしたこと。今現在世の中で何が起きているかを説明した。
そしておそらく昨日のスタンピードがそれであったことも。
「だから装備の準備と脱出の準備か。でもおにい。ここって比較的安全じゃないの? ダンジョンから結構遠いし」
実際俺はモンスター自体はそこまで危険視していない。自分だけ生き残ろうとするならば、地上でステータスがあまり意味を為していない状態でモンスターが現れてしまっても地下室のダンジョンに逃げ込めれば安全だからだ。
昨日のスタンピードを見る限りダンジョンの外に出ようとしているのは16層。森林までの雑魚モンスター及びユニークモンスターのみ。
基本的にはステータスが機能していれば容易に討伐できる。眠くなってもボスの手前と奥の部屋にはモンスターが来ないのでそこで寝れば問題ない。
ただ、そんな俺たちでも勝てないものがある。
「物資が圧倒的に足りないんだ。すでに店は買い占めが起こってるだろうし、ダンジョンでドロップする食べれるものは肉程度だろ?」
「ん? 食べ物はあるじゃん。ってそっか。野菜が無い」
「あと水とか塩もだな。食欲は大丈夫でもそれだと栄養失調で死ぬか、栄養失調が原因のミスでモンスターに殺されるだろうな」
「まずいね」
「まずいな」
ハルはうーんと唸りながらパソコンを使って情報を調べている。
「実際一番まともな方法は人がいるところに避難することなんだよな」
「でもそうするとしばらくは動けなくなるよね」
「まあ、自由に生活して広々と寝ることはできないだろうな」
「だよねー。それはやだなー。ん?」
ハルが調べる手を止める。
「おにい、強い探索者の人は皆ダンジョンに入ってモンスターの討伐をやってるんだって」
「だろうな。自分にできることがあるんだからする人はいるだろ。それがどうかしたか?」
そう聞き返してみればハルはにやっと笑みをこぼす。
「私たちって強いじゃん」
「そうだな」
「今まで自分をごまかしてたけど、たぶん世界でもかなり上位に入ると思う」
「前のアンガス傭兵団を見る限りだとそうだろうな」
「だからさ、おにい」
この後ハルが言い放った言葉は何故か俺の胸へとストンと落ちた。
「世界、救ってみない?」
そういえば20日以上前に執筆スタートから1年が経ってましたね。
祝、執筆活動から387日ぐらい?
締まらないな~




