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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
1章 貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ
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08.兄妹はダンジョンでスキルを見つける

 ゲームセンターから帰ってきた俺たちはいつも通り、夜ご飯を食べ風呂を沸かす。はずだったのだが心境の変化でもあったのだろう。俺の毎日のランニングにハルもついてくるという。

 確かにダンジョン内でもハルの体力面では気になる部分があった。殴り殺すという武器を使ってるからかダンジョン内での力の変化。仮にこれをステータスとすると、ハルは既に俺を超えるほどに力が成長しているもののそれを維持することができていないように思えた。

 俺の場合だと小さい頃からやっていた合気道や最近のランニングで体幹が鍛えられているので無駄な体力の消費が無く移動ができるのだ。しかしハルにはそれが無いということを前にハルに話したことがある。

 それを思い出したのが今回のランニングをするという変化の影響になったのではないだろうか。

 そんなこんなで、ボスを撃破してからの二日間を休憩としてだらだらと過ごしたり、俺は日雇いのバイトを入れたりと気ままに過ごした。

 そして今日。ボスを倒してから初のダンジョン探索となる。というわけで俺は昼のお弁当と朝ご飯を作りながらこんなことを考えているわけだ。朝ごはんはちょっと贅沢に目玉焼き。昼は塩お握りだ。

 ハルが起きてきて一緒に朝ごはんを食べる。寝ぼけてはいたものの朝ごはんに卵を使っていることは喜ばれた。卵って案外高いのだ。

 ダンジョンに潜るのはいつも通り朝食を食べてから1時間半後。慌てて準備をして忘れ物をするのもまずいし、時間を空けすぎてもだらけると判断しての時間だ。いつも通り洗濯などの家事を済ませて武器の調子を確認する。そうこうしていると90分はあっという間に過ぎていく。

 そういえば今日からダンジョン探索の前に準備運動をすることになった。なぜ今までしていなかったのかとなるが忘れていたのだから仕方がない。具体的な運動は、地下室の物を全部1階に上げて準備運動をした後、汗をかかない程度の素手での軽い組手。

 お互いの体の調子をそれで確認した後にダンジョンに潜るのだ。もし相手が体の不調を訴えていなくとも、組手をした相手が、ダンジョン探索は危険と判断した場合にはその日はダンジョンに入らないというルールも設けた。


 というわけで今は地下室で準備運動をしてハルと向かい合っている。軽い組手ということでハルの拳が飛んでくるが軽く流す。数分程攻防入れ替えでそれを行った後、装備を着込む。

 さすがにダンジョンの外でハルの攻撃をまともに食らうことは無かったし、寸止めにはしたが攻撃が決まらないこともなかった。

 そして準備を整えた俺たちはダンジョンへと潜るのだ。


「よし、準備完了。ハル、大丈夫か、忘れ物は無いな」


「勿論、私も終わった。今日は1,2,3層は駆け抜けて4層でリハビリ程度に戦闘をしてからボスの確認もかねて5層に入るんだよね」


「あぁ、二日空けていきなり新しい階層に入るのも不安だしな。またボスが出てるかもしれないし」


「じゃあ、行こっか」


 ハルの合図でダンジョンに入ると今日は俺が下がる。二人とも前衛ができる後衛なのだから、どちらが前に出ても変わらないはずだ。ただ俺の方が急所を狙った隠密型なのに対しハルは威力を追求した前衛特攻型であるという違いがあるだけで。

 軽く駆け足で進みながら敵を排除していく。基本はハルのバールで一発。敵が二匹以上いた場合には俺が後ろから鍬で殺す。結局4層でのリハビリも含めて俺たちが攻撃を受けることは無く、それどころかモンスターが攻撃の体勢をとるときには殺しているというなんとも訓練にはならない状況が続いていた。

 この前ボスを倒したときには気づかなかったがレベルも上がっているのだろう。体が軽くオーバーキルをしてしまいそうになる。ゲームでのオーバーキルとは違い、下手にオーバーキルをしようものなら返り血で血まみれになるだろう。だから急所を刺してそのまま転がすという戦法を取っているわけだ。

 ハルは打撃の武器なので返り血はあまり飛ばない。しかしなんとも、午前中をすべてリハビリに使うつもりだったのだが手ごたえがまるで無い。このままではリハビリの意味がなさそうだ。正直これでは適当に棒を振り回していれば勝てる気がする。


「おにい、もう5階層行かない? ここで戦ってても意味ない気がする」


「そうするか。俺もだんだん飽きてきたし、このまま戦ってると調子乗りそうなんだよな」


「じゃあ、とりあえず門を見てみよ」


 ハルはくるりと方向転換すると目の前にいたゴブリンを吹き飛ばし、5階層へと降りる階段の方へ向かっていく。地図の丸暗記はさすがにできないとはいえ、自分で地図を作っているからか地図の大体の内容が頭に入っている。

 とはいえその場で書くわけでもなく、帰ってから大体こんな感じと書いていくわけだから少しずれる部分もあるが、そこはハルのおかげでかなり正確な地図ができているだろうと思う。GPSが使えないどころか、方位磁石も使えないので、ダンジョン内の地図を正確に作ろうとしたらかなり大規模な作業になるのではないだろうか。

 向きを調べる人と距離を調べる人。幸い坂は無いようなので角度を調べる必要はないがそれに加えてモンスターを撃退する人もいなければいけないわけで。おまけに言えばダンジョンは結構広い。俺たちもレベルアップで体力が増してなかったら辛いだろうと思う。

 モンスターを瞬殺しながら階段に向かいダンジョンを駆け抜けると早々に5階層のボス手前の部屋に着く。周囲を見渡すと部屋の隅に不思議な幾何学模様がある。というよりあれは。


「魔法陣?」


「まあ、ダンジョンでこの模様といえばそういうことだよな」


 今までも魔法陣は何度も見ている。とはいっても、ハルのボムと俺のスピードを使うときに現れる二種類だけなのだがそれを見たときにも思ったのだが、


「やっぱこの魔法陣も同じ形だね」


「やっぱ魔法陣自体に深い意味は無いんだろうな。なんのための魔法陣なんだか」


「魔力を魔法というか、現象に変えるための媒体とか?」


「あー、そういう可能性もあんのか。もし魔法陣に意味があるならってことにはなるがな。人には成せない超常現象なんだから神様がかっこつけて意味なくやったって可能性もあるわけで、まあ推測はできないってことなんだろうな」


「うん、前例がないから検証のしようがない。でも、そろそろ現実逃避やめてあの魔法陣に乗ってみようよ」


「やっぱやんなきゃ駄目か? 気分はよくないがスルーしてボスともう一度戦うって手もあるんだが」


「はーい、行くよーおにい」


 ハルからせっせと背中を押され魔法陣の上に立つ。って結局魔法陣の上に乗るのは俺が先なんだな。そして予想通り魔法陣が光るので軽くハルを押して魔法陣から離れさせる。次の瞬間には視界が変わり、変わり?

 魔法陣が光った後若干の浮遊感と共に視界が変わったような気がしたのだが周囲には先ほどと同じ部屋の光景が広がっている。何が変わっているかといえばボス部屋に入る門が無いことだろうか。他には。


「あぁ、階段が降りる階段になっているのか」


 先程の部屋では部屋から見ると登りの階段があったのだが、この部屋には下りの階段がある。だとすればここはやはりボス部屋の奥なのだろう。前回はしっかり確認はしていなかったので分からないが、おそらくボスを倒すとここに来る魔法陣が使えるようになるのだと思う。


「おっと、おにいはどうしたの。ん? さっきの部屋、じゃないか」


 後ろから押すような衝撃を加えられバックステップを取りながら後ろを見るとハルが立っていた。そしてその足元には魔法陣。

 なるほど。俺はさっきまで魔法陣の上に立っていたから次にその魔法陣に転移してきた人に押し出されたのか。改めて考えてみるとかなり危なかった。もし後から転移した人と重なってしまう仕組みだったら笑い事じゃない。よっぽど運が良くない限り二人そろって即死だろう。


「他には特になさそうだね。じゃあ探索行こっか」


「了解。ここからは俺が前で行くぞ。奇襲に対応しやすいからな」


「毎度のことだし分かってる」


 ダンジョンの中は今まで通り洞窟になっている。ただ変わったことといえば若干暗くなったような気がすることと、道が広くなったことだろうか。道が広くなったのは偶然か。それともここからは戦闘が激しくなるからなのか。できれば前者が良かったのだが。


「おにい、そこの角の奥から三匹来てるよ。こっちに気が付いてるみたい」


「やっぱ、この階層になると敵の索敵能力も変わるのか。この形は、モンスターは獣型だから気をつけろよ」


 ハルに言われて索敵に集中すると自分の索敵範囲に入る。四足歩行の軽やかな気配に、肉食系の獣の類のモンスターだと見当をつけ、鍬を構える。

 すぐに角からは狼のモンスターが飛び出してきたので、不意打ちで一匹を殴り飛ばす。よし警戒どころか受け身のようなものも取っていない。当たった感じ体が丈夫なようにも感じない。


「ハル、案外弱いから突っ込むっ‼ 下がれ‼『スピード』」


 弱いと思っていた狼の足が唐突に光り、爪が光る。その体は速度を増し、その爪は威力を増して三つの体が襲い掛かってくる。とっさに爪を鍬で受け止めるが予想以上の振動に鍬から手を放しバックステップで下がる。


「魔法陣が出てなかったから魔法じゃないよな」


「定番だとスキルってとこ?」


 ハルの横まで下がり鉈を抜く。鍬は狼に蹴飛ばされて狼の後ろに行ってしまっている。これが偶然なんて可能性は低いだろう。おそらくこいつはかなり知能が高い。しかし、だからこそ面白い。

 つまらない日常に興奮を注いでくれる適度な恐怖。絶望ではなく高揚感。だからこそ自分を試したくなる。ハルのために自分が大けがを負うわけにはいかない。それがプレッシャー? ちょうどいい縛りプレイだ。


「ハル悪いんだが鉈貸してくれ。あと、魔法で援護頼む」


「ん、分かった。けがしないでね」


 ハルと短いやり取りをして両手に鉈を持つ。さあ、やるか。


「『スピード』」


 一言はっきりと唱え、狼の前に立ちふさがる。足と爪の光は消えているが先程のを見ていると魔法より発動が早いように思えた。それはおそらく詠唱が必要ないから。

 だから油断はしない。常にスキルを使われていると思って行動した方がいい。まずは先手必勝。

 体勢を落とし、唐突に前に飛び出すと先頭にいる狼は思いきり蹴飛ばす。唐突な武器以外の攻撃に警戒したのか再び狼の足と爪が光る。しかしそれを気にせずに鉈を振るうと、それが当たった狼はいとも簡単に切り裂かれ死んでいった。


「よし、防御力はあがってない」


 次の狼の攻撃を避けるとともに後ろから飛んできたボムが狼を吹き飛ばす。


「あと一匹だよ」


 後ろからかかる声を聞き、戦闘に復帰してきた先程蹴った狼に向けて突っ込む。爪が光ったので攻撃を受け止めるなんて愚策は取らず、アニメの見様見真似と合気道の経験を活かし横から叩くことでずらす。

 狼の重い攻撃はそのまま受け流され、そうなれば後に残る弱い体のみ。振り下ろしたもう片方の鉈は狼の首をしっかりと落とした。


 狼は黒い霧となって消えていき、そしてそこには一つの白い塊が残ったのだった。


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