79.兄妹はごわごわの強敵と戦う
3/10 冬佳のステータスの間違いを修正しました
「あ、レベル上がったよ」
「あー、俺もさっき上がった。動いてないのにレベルが上がるのはいいな」
「そうだねー。お喋りしてお茶飲んでるだけだもんね」
段々とやってくるモンスターが大きくなり凶暴になる。今来ているモンスターは13階層ぐらいだろうか。ほとんどのモンスターが【獄門】の穴を跳び越え【バインド】による茨の壁に体当たりした後、やはり穴に落ちていく。
モンスターの個々の速さも上がったため処理速度も上がり、経験値もどんどん入る。現在のステータスはここまで上がった。
名前 :ハルカ
技能 :魔法・工作
魔属性 :崩・爆・電
レベル:82
強度 :95
魔量 :202
スキル:看破・魔弾・暴走・魔法合成・陣作成
魔法 :ボム・タイムボム・インパクト・ナンバー・プラズマ・亀裂・剥離・障壁・崩壊・獄門
パッシブ:魔力回復・察知・工作・魔力操作・二重属性
名前 :トウカ
技能 :付与・錬金
魔属性 :無・呪
レベル:82
強度 :120
魔量 :170
スキル:隠密・座標・物質認知・支配・ショートカット
魔法 :スピード・パワー・ガード・バインド・チェイン・スロー・ロス・アンプロテクト・カース・封魔・セーフゾーン
パッシブ:把握・加速・錬金
リムドブムル戦で俺たちが手にした魔法やスキルは4つ。
ハルは【獄門】と『陣作成』で俺は【封魔】と【セーフゾーン】だった。
看破で詳細を調べてみれば、思いのほか有効なものばかりであった。
『獄門…獄への扉をひらく』
『陣作成…空中に3次元までの魔法陣を編む』
『封魔…自他共に魔法・スキルの使えない空間を作り出す』
『セーフゾーン…モンスターに気付かれることのない範囲を作り出す』
こんな状態なのでそれぞれの検証はできていないが、かなり強力であることは分かる。
【獄門】は見た通り強力な設置系魔法で、『陣作成』は前に見た聖母の守護杖についていた立体型魔力増幅陣が使えるのだろう。
【封魔】に至っては制限は有るのだろうが、魔法主体のモンスターに対し、近接技能の探索者といる時に使えば、モンスターの攻撃を完封することもできるだろう。
【セーフゾーン】も森林のようなすぐに帰ることの難しいような広い階層で簡単に休憩を取ることができる。大事なのはどれくらいモンスターに気付かれないのかと、広さ、魔力の消費量だが今の状況では確かめようがない。
そういえば、【獄門】に落ちたモンスターのドロップ品だが、何故かハルの近くの地面から湧き出ていた。
あまりにも量が多く、手作業でアイテムポーチに仕舞うのが面倒なので、アイテムが湧き出てくるところにアイテムポーチの口を下向きにして置いてみれば、出てきたアイテムは全て勝手に収納されるのでそのまま放置してある。
【バインド】と『錬金』で作り上げた茨はモンスターが強くなるにつれて強度が足りなくなってくるので、罅が入る度により強力な素材で『錬金』し直していた。
「ん? おにい強そうなのが来てる」
ハルが突然立ち上がるとダンジョンの奥の方へとトンファーを構え、そう告げる。
「そうか。あー、俺の方にも感じた。大型獣系のユニークだな。大きすぎて回避は難しい」
「トラップは持つ?」
「無理だな。【獄門】に落とせればなんとかなるかもしれないが、茨の方は必ず破られる」
モンスターは道を曲がりながらも、迷うことなく真っ直ぐとこちらへ向かっているのが『把握』のおかげで分かる。ついでに言えばそのユニークモンスターは容赦なく他のモンスターを踏み潰しているらしく、次々と雑魚モンスターの反応が消えている。
「どうしても、受け止めきらなきゃいけないか。ダンジョンの外まで逃げるのは駄目だよね?」
「下手したらモンスターが壁にぶつかった衝撃で家が倒壊するだろうからな」
「宝具も使っちゃったから使えないし。大変だなぁ」
作戦を練っていると土煙が見え、遠くにユニークモンスターが顔を出す。
「熊だね。私が魔法で勢いを殺すから、おにい受け止められる?」
ユニークモンスターは真っ黒の巨大な熊。体も大きいがそれ以上に爪や牙が大きく、目は真っ赤に染まっている。毛皮もふさふさというよりはとげとげしているような感じだ。
「できるかどうかは置いておいて、それしか方法は無いだろうな。行くぞ‼【スロー】【パワー】【ガード】」
熊の速度が若干落ち、俺は攻撃力と防御力が上がる。
「りょーかい、『陣作成』」
ハルの前に光の粉のようなものが浮かび上がり、見覚えのある図形を描く。ハルはその図形に優しく手を当て、不敵な笑みを浮かべた。
「行くよ。【障壁】そして【崩壊】【ディカプル】」
熊の前に光の壁ができるが、一瞬の拮抗の後に破られてしまう。だが。
「なんだ‼ これ」
俺は目の前の光景に驚きの声を上げてしまう。
俺の前にあるのは10個も重ねられた魔法、【崩壊】。
本来敵を包み込み攻撃するはずの魔法は何故か、重なることで壁となり熊の突進を受け止めていた。
「【ボム】も面白い使い方ができたからもしかしたらと思ったけど。正解だったね」
【崩壊】が重なってできた黒い壁は段々と熊の足へ伸び、ダメージを与えていく。
「【崩壊】の対象をモンスターにしないで空間に全力で使ったらどうなるかと思ったけど、実際にこういうことって起こるんだね」
よくは分からないが、どうやら【崩壊】が重なっている部分の空間がねじ曲がり、そこに小さなループする空間が生まれているらしい。だから熊はいくら走っても前に進むことができない。
「おにい、もうそろそろ限界」
ハルの声に頷くと刀を抜き、地面を蹴る。【崩壊】の壁の横を走り抜け狙うは熊の手足。
刀に付与してある『強斬』の力を乗せ、順々に手足を切り飛ばす。素の状態であれば切り飛ばすことなどできなかっただろうが、その手足は【崩壊】のお陰で脆くなってきていた。
「これで終わりだな」
四肢を切り裂いた俺は熊がまともに動けなくなっていることを確認し、後ろから押す。その先はトラップに使っていた【獄門】
熊は抵抗することもできずに【獄門】へと落ちると、数秒の拮抗の後、消え去った。
「ぎりぎりだったねー」
「スタンピードよりモンスター1体がやばいってどういうことだよ」
熊を倒し終え一息ついた俺たちは、背後から聞こえるモンスターの雄叫びに気づき、慌ててトラップを作り直すのだった。