78.兄妹はトラップを完成させる
大変お待たせしました。
投稿ペースを上げるために頑張っていきます。
「おにい、そろそろ魔力溜まらない? 水溜まりも結構でかいんだけど」
「んー、道全体を覆うだけなら足りるんだが、素材が溜まったら『錬金』で強化するだろ。それならできるだけ温存しておきたいんだよな」
「このトラップが効かなくなるぐらいまで?」
「そうだな」
意図せずに溶けた金属によるトラップを作り出した俺たちはリビングからテーブルと座布団。キッチンからお茶とフライパン、油を持ってきた。
テーブルと座布団をダンジョンの入り口に置き、フライパンには油を引く。フライパンは熱され溶けた金属の近くに置いておき。
「ハル、もっかい家戻る」
「分かったー、危なそうだったらフライパン下げとくね」
俺は家に戻りキッチンから食器と箸。まな板と包丁を持ってくる。
「よし、この暇な時間使って夕食にしよう。今日は焼肉だな」
「おぉー良いね。フライパンも温まってきたよ。というか少し熱すぎ」
俺はハルのアイテムポーチを借り、そこから大量の肉を取り出す。
リムドブムルの肉。俺たちが今まで食べた中では最も美味しく、それであって部位破壊では一欠けらしか手に入らないため食べることができなかった高級品だ。
「おにい、早く焼いてよ」
俺が包丁で肉の表面の部分を落としているとハルが急かしてくる。切った部分を処分するのは勿体ないが地面に落ちていたのだからそのままでは食べられない。
一回り小さくなった肉をハルに渡せば、ハルは箸を使いフライパンで肉を焼いていく。
ほいっと、テーブルの上を滑らせハルに皿を渡せば、焼けた肉が順番に乗せられていく。ダンジョンの中にはモンスターの雄叫び、悲鳴。そして肉の焼ける音が鳴り響く。
今更、モンスターの声程度で食欲が阻害されるわけも無く、その香ばしい匂いに胃が空腹を訴える。
しばらく肉を焼いていれば皿には肉が積み上がり、それ以上肉を焼くことができなくなる。
そうすれば俺たちはテーブルに向かい合わせに。それでいてモンスターに背を向けることが無いように座り手を合わせる。
「「いただきます‼」」
時間が無かったので肉に合わせるものは1つもなかったが、リムドブムルの肉はそれでも美味しい。
おそらくこの、リムドブムルの肉はいまだ市場に出回ってはいないだろう。誰も食べることのできない高級肉を、貧乏な俺たちがたらふく食べているという事実がさらに肉を美味くする。
そして、もう1つ。
「心なしか魔力の回復が早くなってる気がするんだが」
「あー、それはそうかもしれないね。今まで、この肉をこんなに食べる機会が無かったから知らなかったけど、そういう効果もあるのかな?」
「もしかすると俺たちが気づかなかっただけで他のモンスターの肉も効果があったりするかもな」
そんなこんなで肉を食べていくがトラップを突破するようなモンスターは中々現れない。他のモンスターに吹き飛ばされるなどして偶然トラップを越えた僅かなモンスターも立ち上がりもせずに武器を振るだけで死んでいく。
実力でトラップを越えるモンスターが現れ始めたのはそれから数十分後。既に肉は腹いっぱいになるまで食べ終わり、片づけを終えてしばらくしてからだった。
暇だったので、リムドブムルのドロップしたスキルカードを分け合い、さすがに地面にひいた座布団の上でモンスターを退治するのもどうかと、ハルが前にDIYで作った小さな椅子も持ってきた。
「おにい、段々落ち着かなくなってきたしトラップ作れる?」
ハルは少し前から【ボム】を使うのを止め、錬金で使いやすいように冷やしていた。既に金属の水溜まりは融け、重なり、小さな塊のような形で道を埋め尽くしている。
「魔力も回復してきたからな。素材もこんだけあれば余裕だろ」
俺は金属の塊に先程拾っておいたモンスターの角を差し込み手を当てる。
「じゃあ、私も新しい魔法使ってみるね。リムドブムル倒した時に手に入った新しい魔法があるから」
ハルもトンファーを前に向ける。
「じゃあ、私が魔法を撃つからその後ろにトラップよろしくね」
ハルはすぅっと息を吸い、唱える。
「【獄門】」
トンファーの先からビー玉程度の大きさの黒い玉が現れると、それはゆっくりと、それでいて真っ直ぐ、前方の地面に飛んでいき、まるで浸み込むかのように消えていった。
そして、バチバチというはじける音と共に、黒い電光が現れ、それを追うように、黒い穴が広がっていく。それは道を覆うほどまで広がり、動きを止めた。
「設置型の魔法か?」
「そうみたい。私の使える魔法の中でも一番魔量の消費が多いよ」
「じゃあ俺もしっかり仕事しないとな。【バインド】」
地面から生えるようにようにして現れた茨をできるだけ密に道を塞ぐように動かしていく。そして。
「『錬金』」
一瞬にして茨が融けかけた金属の茨に変化する。融けかけの金属は、茨同士を強力に繋ぎ、より強固な壁にしていく。
「よし。これでしばらくは持つだろ」
「さすがにね、また1時間ぐらいは放置かなー」
「1時間ぐらいだといいけどな」
ダンジョンの道には底の見えない真っ黒の穴が開き、それを跳び越えた先には強固な茨の壁ができている。これは知恵無きモンスターは勿論、そこらの探索者であっても越えるのが難しいほどのトラップであった。
「さて、茶でも飲むか」
「そうだね。ダンジョン出てすぐの床にパソコン置けばダンジョンの中から動画見れるかな」
兄妹は悲鳴すら上げること無く死んでいくことになったモンスターなど気にも留めずに自らの席へと戻り、おしゃべりを始める。
兄妹が世界の変化に気づくのは数時間後、いや数日後になりそうだ。




