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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
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72.兄妹は作戦を立てる

長らくお待たせしました。

「さて、結局傭兵団の攻略は役に立たなかったな」


「そうだね。ネットの様子だとまだ帰ってないみたいだし。あ、遅れて勇者御一行と葡萄会のメンバーが東京ダンジョンの森林に向かったらしいよ」


「まあ、普通の戦いができる人から見ればあの戦い方はお手本になるだろうからな」


「私たちは後衛2人だからね」


 俺たちは傭兵団の戦いに飽きてしまい、自分たちの参考になることはないだろうと判断し、家に帰ってきていた。

 まだ、傭兵団の帰還情報がネットに流れていないのだから、まだ戦っているのだろう。本当に、長すぎる。

 あれが本当の戦略を練るというものであって

 俺たちの戦術は所詮力任せの戦術でもなんでもなかったというのは分かったが。まぁ向こうの方法を真似できないのだから仕方がない。


「とりあえず今日分かったことを纏めていくか」


「そうだね」


 まずは。

 森林の一番奥にある石像に攻撃し、既定の言葉を宣言する。

 そうすることでリムドブムルの強度が低下し、危険である逆鱗が消失する。


「ただ、これで強度が低下しても俺たちが接近して戦えるわけではないんだよな」


「私たちより強度が高い、傭兵団の人でもそこまで攻撃が通ってなかったもんね」


 このことから考えてみると、強度低下以前のリムドブムルのステータスは、そのレベルの人たちの間では無敵となっている可能性が高いと感じる。

 元々リムドブムルの魔量が高いから俺たちの魔法攻撃ならダメージを与えられるが、普通、その攻撃がリムドブムルに当たることはない。

 理由は単純に距離。魔法というものは思うほど速くないし、精度も高くはない。言うなればあれだ。ピストルで1キロ先のものを撃てというようなものだろうか。たくさん打てば1つぐらいなら当たるかもしれないが、結局威力が足りない。

 俺たちの場合はそれを無理やり、座標のスキルで当たるようにしているというわけだ。


「私たちも結構惜しいところまでは行ってるんだよね。もう一回最初と同じ魔法が撃てれば勝てる」


「魔玉も結局駄目だったんだよな」


「逆鱗で作ったやつも、まだ使ってないしね」


「あれは使い捨てだからな。ここぞというときに使いたい」


「ゲームだとそのまま使わずにラスボス倒しちゃうんだけどね」


 前にガン・セーンを倒して手に入れた宝玉(中)。

 あれならば魔力の補充ができるのではないかと思ったのだが。結果は半分成功。

 中に入れられる魔力は1人の魔力でしかなかった。つまり2人の魔力を宝玉に入れるのは不可能だし、1つの魔玉から2人が魔力を取り出すのも不可能だと。


「ハルだけ、魔力を回復しても、リムドブムルを殺しきるには足らないんだよな」


「私はいけると思ったんだけどね。強化の付与と無形の鎧が思ってたより大事だった。あと、支配」


 ハルが、魔玉から魔力を補充し、放った特大の魔力はリムドブムルの放つブレスとぶつかり、容易に止められてしまった。それはそうだ。

 付与による威力の上乗せどころか、無形の鎧で表面を覆うこともしてない。そもそも、支配で魔法を圧縮していないのだから、魔法に含まれた魔力の密度が小さい。

 その程度の魔法ではリムドブムルにとどめを刺すことができないのだ。


「まあ、とりあえず俺たちにとってリムドブムルの弱体化は意味が無いな。遠く離れていると魔法が弱くなるわけでもないし」


「そうだね。強いて言うならリムドブムルが地面に落ちた時のダメージが大きくなるぐらい?」


「元があの強度だから、変わらないだろうな」


「だよねー」


 雑談を挟みながらもリムドブムルに向けた作戦をメモしていく。

 話がだんだんとまとまっていき、その作戦の全貌を決め終えるまで約30分。戦闘に慣れた兄妹とはいえ、作戦立案は初心者だ。悩んだところでいい作戦が浮かんでくるわけでもない。

 そもそも人数が2人で、使える手段も数えるほどしかないのだから案をえり好みすることもできないわけで。


「結局は力押しか」


「これぞ脳筋って手段しか取れないのか? 俺らは」


「まあ、せっかくの龍の逆鱗で作った物も危険物だからね。あの作り方ならダンジョンでも使えるはずだし」


「俺としては、ハルが作り方を知っていたことが驚きなんだが」


「理論が分かってたら材料さえあればモドキなら作れるよ」


「そんなもんか?」


「そんなもんだよ」


 俺たちはメモした紙を片付け、いつも通りご飯を作り、食べる。

 今日の夕食は、明日に控えたリムドブムル戦への願掛けも含め、人化牛のカツだ。

 本来ならばリムドブムルと戦うことなど死にに行くようなものだ。世界で見てもリムドブムルを死者0で討伐できる団体など、数えるほどしかいないのだから。それを2人で挑むなんて正気の沙汰じゃない。


「でも、別に怖いわけじゃないんだよな」


 1日の日課がすべて終わり布団の中に入った俺はそっと呟く。ハルは横の布団で静かに寝ている。

 ハルには言わなかったが今日の傭兵団の戦闘を見て思ったことがあった。彼らは彼らなりに周囲を警戒し歩いている。

 何がなんでも絶対に死んでやるものかと。自分で危険に立ち入っているくせに、しっかりと生にしがみ付いているような。そんな真剣さ。

 彼らの場合はそれが金をかけた十分な準備になるし、レベル上げに繋がり、力となる。

 それに対し、俺たちはどうだろうか。俺たちにとってダンジョンとは何か。

 ダンジョンとは、食料を求める場所で、自分を磨く場所で、暇つぶしの。

 娯楽だ。

 ゲームであり、そこに命を懸けたことはない。死にかけたことがあると、命を懸けたことがあるのでは大きく違いがある。

 誰にでもとは言わない。それでも結構な人が死にかけたことはあるのではないだろうか。そこまで重度なものでなくても。なんなら餅がのどに詰まって数秒間息ができなかったとか、プールで足を攣って溺れかけたとか。もっと重度であれば、階段から転落した、車に轢かれたなど。

 それでも、餅を食べるにも、プールで泳ぐにも道を歩くにも死ぬことなんて考えない。

 俺たちにとってダンジョンに潜るというのはそのようなものだ。喉元過ぎれば熱さを忘れるとはよく言ったもので、俺も明日死ぬとはみじんも思っていない。


「それがまた良いところなんだけどな」


 臆病になるのは良い。安全を気にして、ある程度は臆病でいなければ死ぬことになると、アニメや小説でよく聞く。

 ただ、俺は、そうでもないのではないかと思う。現実は物語ほど危険やイベントで埋め尽くされているわけではない。それに危険な物語の間の平和な日常が、物語では書かれない日常が、人の生活を彩るのだ。と思う。

 イベント、変化に美を求める物語。平穏無事に美を求める現実。良いのかはわからない。

 ただ。俺たちはダンジョンを娯楽だと、ゲームだと思っているからこそ、その価値ある日常をダンジョンに費やす。それは仕事としてダンジョンに潜るより、よっぽど有意義ではないだろうか。


「まあ、リスポーン禁止縛りプレイはきついよな」


 俺たちが、明日死ぬことはない。


何故か、いい展開になりそうなところでスランプです。

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