表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
71/132

71.兄妹は戦闘に呆れ、飽きる

「グギャギェガーー」


 木々を切り開いて作った戦場に傭兵団のメンバーが集まる。隊長アンガスが指示をしているが英語が分からないのだからなんと言っているのかは不明である。


「うーん、何気に私たちってリムドブムルと真っ向から戦ったことないよね」


「そうだな。不意打ちで離脱か、最初からひたすら逃げることしかなかったからな。どんな戦い方をするのか楽しみだな」


「だねー」


 俺たちは現在、戦闘の余波を受けない程度の距離まで離れ、木の上でその戦闘を観察している。

 邪魔な葉っぱは手で引きちぎったこの程度ならば戦闘に参加したことにはならないだろう。

 とりあえず戦況を理解するためにも20人の傭兵団のメンバーの技能を再確認しておこう。

 技能とは、剣・盾・拳・弓・槍・棍・罠・狩人・魔法・回復・付与、の11個。役割や、得物が違うので知識があれば簡単に見分けることができる。

 前衛の技能と弓は持っているもので知ることができるし、罠、狩人は常に走り回っていて、罠は何か罠になるようなものを持っていることが多い。後衛魔法は、攻撃する魔法が一番前に出て、その後ろに回復と付与が付くことが多い。正直付与と回復はあまり区別がつかないのだが。

 で、傭兵団の場合は、前衛が15人。だが全員が幅の大きい武器を持っていて、拳の人はいなかった。これだと攻撃というより守りを固めることを意識したような装備だ。カウンターを狙っているか、守りが固く攻撃を受けるのを厭わない馬鹿者か。

 まあ、戦闘の素人でないのだから後者はないだろう。そして後衛は前衛のすぐ近くに身を隠し、攻撃を受けないようにしている。

 普段は言葉の通り前と後ろで前衛と後衛を分けることになるのだが今回の敵は超火力で上からの攻撃だ。普通とは異なった陣を組まなければいけなくなるのだが。手慣れた動きだった。


 隊長が何かを叫んだ。いや、号令か。そのタイミングで上空のリムドブムルが咆える。声ではなく攻撃としてのブレスだ。すさまじい魔力と振動が傭兵団に降り注ぐが、守りを固めた彼らにそれが届くことはなかった。

 そのままリムドブムルは上空を通り過ぎるが、彼らは何もせずにただ守りを固める。今の位置であれば確実に攻撃を叩き込めたと思うのだが。魔法と弓なら簡単だろう。


「なんで、魔法撃たないんだろうな?」


「さあ、さすがにあの距離なら当たるよね。私たちがいつも当ててる距離より、圧倒的に近いんだし」


 俺たちが普段狙うリムドブムルは敵対する前の状況なので、木の頂上よりもはるか上空を飛んでしまっているが、今のリムドブムルは木の頂上すれすれを飛んでいる。それこそ俺たちより強度が高い傭兵団の前衛技能の人たちなら、直接攻撃を叩き込めるような位置だ。


 旋回し戻ってきたリムドブムルが次は空気の玉を吐き出す。まるで爆撃のようなそれは高密度の魔力を含んでいるが、隊長の指示と共に、魔法で威力を弱められ、再び前衛の人たちに軽々と止められていた。


「あれって、スキルも使ってないんだよな」


「うん。付与で強化もしてないし。素の強度が高いのと」


「装備が良いってことか」


 傭兵団は既にリムドブムルを討伐し、25層のボスと戦うまでに至っている。当然のごとく俺たちよりも良い素材を手に入れていることだろう。

 さらに言うのであれば彼らの強さは世界一。資金もたんまりあるだろう。お金があれば自分たちが入手できなかった名前付きの武器を手に入れることも可能だ。

 売る人がいるのかと聞かれれば微妙なところではあるだろうが。


「おー、次は強風だね」


 考えているうちにリムドブムルは上空で次の攻撃を放っていた。翼に魔力を纏わせて強風を起こしている。

 ダンジョンに潜り力が増えているとはいえ体重は何も変わっていないのだから、強風だと普通に吹き飛ぶんだよな。

 しかしそこらの台風を遥かにしのぐ強風でさえ、武器を地面に刺したり、全員で固まることで、吹き飛ばされることを避けている。

 それからどれくらい時間が経つか。リムドブムルはブレス、風の玉、強風を攻撃パターンとして、何度も眼下にいる傭兵団へと撃ち込んでいた。

 その結果は言うまでもない。負傷者0名。魔力すらもほとんど使っていないような状態だ。それはリムドブムルも分かっているのだろう。遠距離の攻撃が効果ないと分かったのだから次にとる行動は。


「あ、やっと戦闘開始?」


「だな、散開してった」


 近接戦闘だ。後から聞いた話だが、このリムドブムルは、魔量が低く強度が高いらしい。俺たちの魔法がきかないから魔量が高いと思っていたのだがそうでもないようだ。

 で、逆鱗を破壊することで魔量が強度並みに引き上げられる。ダンジョンのシステムに従うことで強度を魔量並みにまで引き下げられると。だとすれば、俺たちが今まで墜落したリムドブムルに近づかなかったのは大正解なのだろう。


 リムドブムルの着地と共に響き渡る地響き。


「ギィャギャァーー」


 そして咆哮。


 隊長の叫びと共に、リムドブムルへと魔法が降り注ぐ。ただし、すべての魔法は真っ直ぐと飛んでいくのではなく、弧を描いて、上からあたるように調節されていた。

 そこらの上級探索者でもできるかどうかの芸当だ。俺たちもできるかどうかは分からない。

 リムドブムルを中心に広がる土煙は、リムドブムルの叫びと共に広がっていき。

 2つへと切り裂かれた。


「うわ、あれが世界最強の使う前衛技能のスキルか」


「威力高そうだね」


 隊長が振りぬいた剣からは青白い光が噴出し、そのまま大地を割り、風を切り、リムドブムルすらも貫く。

 その攻撃は翼に大きな穴を開け、再び空を飛ぶことを不可能とした。

 それを終えると残りの前衛技能が一斉にスキルによる近接攻撃を仕掛ける。あの隊長のスキルは確かに強いが、遠距離で真価を示すものだろう。ただ、それだと仲間を巻き込んでしまう。

 だからこその、順番に従った攻撃。魔法で目くらましと同時に退路を塞ぎ、隊長のスキルで地面に縫い付ける。そしてその先は、言わずとも知れた蹂躙だ。


「帰るか?」


 時計に目を向けてハルに問いかける。戦闘は確かに繊細で、よく作戦を練られたものではあるが、俺たちのような2人だけのパーティーで真似するのは不可能なものばかりだ。

 おそらく、ここに残って戦闘を見ていても得られるものは少ないだろう。


「うん。私たちの場合は強度を下げても。ってところなんだよね」


「まず近接戦闘が弱いからな」


 リムドブムルの方を振り向けば、蹂躙され、反撃をすることも許されていない状況だ。それでいても、鱗は硬い。


「火力が弱いよな」


「そうだね。ちょっとがっかり」


 世界最強の傭兵団を率いるアンガス。彼が放ったスキルは確かにリムドブムルを傷つけた。ただしそれは翼膜のみ。

 翼を折ったとか、切断したとかではなく、膜に穴を開けただけ。切断することを技能にした刃の彼が、だ。

 遠目に見えるリムドブムルは傷だらけではあるが、それ以外はない。殺しきるまでにいったいどれほどの時間がかかるのか。

 すでに時間は、彼らがこの森林についてから2時間強が経っている。


「まあ、攻略の手掛かりは見つけたからいいけど。帰ろ、おにい」


「そうだな。倒す方法なら十分そうだ。よいしょっと」


 受け身も取らずに高い木から飛び降りるとそのまま歩き出す。武器は持たずに手を添えるだけ。リムドブムルの影響だろうか、周りにモンスターの気配はない。


「さっさと帰って夕飯食べよ。また人化牛狩らないとな」


「うん、かえったらすぐにとってきて料理だね」


 傭兵団が、死闘を繰り広げる中、兄妹はのんびりと家路へと向かう。


 その数時間後。東京のダンジョンが世界に変革をもたらすとも知らず。



 地下深くで、うごめくその力に気づくこともなく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ