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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
1章 貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ
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07.兄妹は気分転換をする

 ホブゴブリンを殺した直後にあった動揺もモンスターを警戒しながら歩いているとだんだんと薄れてきて、俺たちの青白かった顔色も通常のように戻っている。ボスを倒した俺たちにとってそこらの敵が雑魚でしかなくなったとはいえ、少々モンスターが多めに出たことでそこを気にしていられなくなったことも影響しているのだろう。

 会話は少ないながらも問題なく地下室に帰ってきてほっと一息吐く。すぐに返り血のついた服を脱ぎハルから風呂に入る。まだ昼前だというのに風呂に入るのは水の値段を考え普段は絶対にしないのだが、今の状況なら仕方がないといえるだろう。というか俺もこの血を浴びた体で夜まで過ごすのは耐えられない。夜をシャワーにすれば問題なくはないが許容範囲だろう。

 ハルが上がってきたら俺もすぐに風呂に入り石鹸を使いいつも以上に体をよく洗う。なんとなく血が付いているような気がして気持ち悪いが実際には付いていないようなので洗うのもそこらで浴槽につかる。


「はぁーーー」


 思わずおっさんのような声が出てしまうがそれを咎める人はどこにもいない。十分に疲れを癒させてもらおう。まだ半日なのに何日分もの疲労を感じる。戦闘自体には何も問題はなかった。それだけを見るならばよかった方だ。敵の攻撃には一度も当たらずに有効打を外すようなこともなかった。

 モンスターを殺すのは慣れていた。虫を殺すのと同じようなものだ。哺乳類どころか動物であるかも怪しいモンスターを殺すのに戸惑ってしまう心優しき人間もたくさんいるのだろうが、俺たちはあの醜悪な見た目とその存在が害であるということを察したからか嫌悪感しか抱かず殺すことに戸惑いはなかった。

 しかし、それと寄って囲み殴りまくった結果殺すというのは違うだろう。目的も結果も今までとなんら変わりはない。変わったのは過程のみ。

 体も十分に温まったのでテーブルにハルを呼びダンジョン内で食べるはずだった弁当を食べる。食べていた感じでは俺にもハルにも肉を食べる行為に抵抗は無いように感じたから、やはり殺したことへの忌避感はあまりないようだ。

 自分が狂っているのではなく慣れたからというのが正しいが。となるとリフレッシュをすれば問題はないか。リフレッシュといえば海か森が定番だがこの時期の海は寒すぎるし森はすぐそこにある。普段から入っている森でリフレッシュができるとは思わないので。気分転換以前に無理やり暴力に慣れることにしようか。

 お金を使うことになってしまうがハルがずっと気分を落としているよりはましだ。何故か俺はそういう部分は鈍いのかすぐに治るんだよな。女性は身体の痛みに強くて男性は精神の痛みに強いのか。

 いや、知らないけど。というわけで。


「ハル、午後になんか用事はあるか?」


「…んー、無いけど」


 やはり気分は少し沈んでいるようだ。だからこその、気分転換だ。


「気分転換もかねてゲームセンターに行こう」




「あー、ストレス解消にいい。200円だけど」


「だなー。やってることは普段と同じなのに爽快感が違う。一回200円だけど」


 俺たちは今ゾンビの群れを撃ち殺している。勿論現実ではなくゲームセンターにあるモニタに銃を向けてやるやつだ。


「あ、ゲームオーバー。おにい、次クレーンやろ」


 ゾンビの数が増えてきて対応できなくなり、ゲームが終わった。ちょうどいい気分転換にはなっただろう。ストレス解消の定番といえばバッティングセンターだが残念なことに二人とも野球ができない。

 今なら動体視力も上がって打てるかもしれないが残念なことにお金がない。となるとやはり手軽なゲームセンターが丁度いいのだ。

 というわけでハルが言う通りクレーンゲームをやることにする。勿論お菓子の箱が取れる奴。人形なんて取ったって意味はないが、お菓子なら食料になる。つまりはどういうことか。


「おにい、ガチでいくよ」


 と、なるわけだ。お菓子を最後に食べたのは引っ越し前。当然欲しくなる。これが貧乏性であり、遊びでさえも景品があれば本気になるのだ。


「了解」


 俺が操作ボタンの前に立ちハルがアームの位置を確認し指示する側に回る。なんとまあ、ハルは距離感覚に長けている。二つの物の距離を誤差1ミリ以内で当てるぐらいには。というわけでそんな取り柄のない俺が操作をすると。


「ストップ‼」


 ハルの指示にタイムラグなしでボタンを押しアームを止める。人間情報が入ってから動くまでは時間があるけど、声を出す人の呼吸とか手の動きを見ていれば声を出すタイミングは分かる。それを利用してのタイムラグなし。

 この程度じゃ取り柄なんて言えないだろうことが悲しい。声を出すタイミングとかうそをついてるかが分かったところで心が読めなければ大して使い道がない。


「ストップ‼」


 二度目の合図でアームを止め、アームはしっかりと狙った所へ降りていく。降りていくのだが。


「アーム弱いな」


「ん、想像以上に弱かった。強度が分かったから次でとれるはず」


 アームが弱く、掴んだ箱は微動だにしなかった。まあ、ゲームセンターはそういう物だよな。軽く取れていたら赤字だろうし。

 そんなことを考えながら100円を入れスタートのボタンを押す。


「ストップ」


 先程より右で止まったっぽい。どうするのかは分からないから口出しはしないけど、おそらく掴むのをやめて引っ掛けるのだろう。

 次もハルの指示に従うと箱はすんなりと落ちた。


「よし、食料一箱げっと」


「なぁ、ハル。どうせなら持ち運びできる奴にしない?そしたら探索に持っていけるんだけど。あれとか」


 探索での塩分は大事だ。当然のように汗はかくし、糖分も欲しくなる。というわけで、俺が指さしたのはビーフジャーキーの箱があるクレーンゲーム。

 ハルもしっかりと意図が分かるようで薄く微笑む。


「乱獲しようか」


 今日持ってきているお金は3000円で今のところ使ったのはゾンビゲーム二回にクレーンゲーム二回で600円だ。まだ2400円もある。なので俺たちは先程と同じやり方で商品を乱獲していった。

 乱獲を注意する店員さんもいるので、ダンジョンで身に着けた索敵能力で店員さんが近づいてきそうなタイミングで別のところへ逃げる。

 結果としては飴やビーフジャーキー、するめなどを中心にお菓子の箱や袋、計十個。

 素人からしてみれば非常に良い成果だと思う。ついでに箱は邪魔だったため中身を空のリュックにぶちまけて箱は解体してコンパクトにして持って帰ることにした。とりあえず当初の予定は終了して今は5時だけど、今日は帰って体を休めた方が良いだろう。


「じゃあ、そろそろ帰るか。気分転換にはなったか?」


「うん、大丈夫。ありがと」


 家を出たときにあった暗い表情は鳴りを潜めハルには明るい表情が戻っていた。気分が落ち込んだ時はその程度で気分転換できるわけがない? 俺たちみたいな子供はそこまで深く考えなくていいんだよ。そしたら気分転換なんてさっさと済ませられる。

 どうせ高校中退の落ちこぼれ兄妹なのだから。もう落ちるところはないのだから。そうやって深く考えるのは俺だけでいいのだ。

 そして、できることならば成り上がりたい。娯楽を楽しめるように。また行こうといってゲームセンターに行けるように。だから、近い未来、世界のダンジョンが解放される日めがけて。俺たちは木崎家の地下室ダンジョンで娯楽を目指すのだ。


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