66.兄妹は傭兵団について調べる
「おにーい。締め切り過ぎてるって」
「だよなー、一ヶ月も前なら締め切りにもなるよな」
アメリカの傭兵団。唯一リムドブムルを倒したパーティーが日本にやってくることが分かってすぐ。その情報を調べてみた俺たちだったのだが。
傭兵団は日本で広いドームで講演会をやるんだそうだ。よく分からないがダンジョンに行くときの心構えとか戦闘の方法でも話すのだろう。
解放されてから未だ半年の話題沸騰中のダンジョンだ。そんなダンジョンで世界のトップに立っている人の講演会だ。その人気は日本のトップアイドルに勝っていても何もおかしくはないだろう。
席は全席予約席でその席の抽選は既に終わっているという。俺たちがそれを見に行くことができないことが確定した。
そもそも何故この傭兵団は自分たちの攻略を放り出して世界を回っているのだろうか。気になったのでスマホを取り出し調べてみる。
日本でもその傭兵団の情報を載せたサイトが作られたらしくすぐに見つけることができた。誰が作ったサイトなのかは分からないが、傭兵団を紹介するサイトで、一番上に16人の装備に身を包んだ男たちが写っている写真が貼ってあった。おそらくこの人たちがメンバーなのだろう。
そのサイトによるとこの傭兵団。そこまで多くの国を回っているわけではないらしい。
リムドブムルに挑戦できる可能性ができるところまで探索者が育っている国。探索者の強さが上位の国をいくつかだけ回っているそうだ。
さらにアメリカのダンジョンでは既に24層までの攻略を終えているらしく現在では25層のボスに歯が立たない為にレベリングを行っているそうだ。何でもリムドブムルと同等の強さを持つらしく。ん?
「なぁ、ハル。なんで25層のボスがリムドブムルと同じ強さで歯が立たなくなるんだ?」
「ん? なんのこと?」
「ほら、このサイト」
俺は先程まで調べていた傭兵団紹介のサイトをハルに見せる。そこにはしっかりと25層のボスはリムドブムルと同等の力を持っていると書かれている。
「ほんとだ。翻訳の間違いとかかな?」
「他の部分には気になる間違いは無いぞ」
「じゃあ、なんだろ? 小さくて同じ強さだけど戦いにくいとか」
「そしたら、同等の強さって言うか? でもそれが一番可能性が有るか。25層のボスの名前はこれだしな」
俺が指さす先には傭兵団が言っていた25層のボスの名前が書いてある。
『Emperor Goblin』
日本語に訳せばゴブリン皇帝。正直ゴブリンキングと何が違うのかは分からない。皇帝と王の違いは治めている場所が王国か帝国かの違いではないのだろうか。
高校に通っていたらそこら辺を習っていたのかもしれないが、その知識は持っていなかった。
「人型で体はそこまで大きいわけじゃないから攻撃が当てにくい。武器も使うってなったら強敵になるよね」
「俺たちが前見たゴブリンキングより圧倒的に強いってことだよな」
「倍以上は確定だねぇ」
「リムドブムルで分かったけど、モンスターの戦力ってあんま参考にならないよな」
前に見たゴブリンキングのステータスやリムドブムルのステータスを思い出しながら呟く。
ゴブリンキングは弱り切った時点で200近くあって、リムドブムルは1000を超えた。俺たちの今の戦力は250と少し。今でさえガン・セーンの戦力300にすら届いていない。
「まあ、いいか。最強と争っていても仕方がないしな」
「そうだね、リムドブムルを倒してまた、レベリングしよう」
知らないものは分からない。考えても無駄なのだから別に難しく考える必要もないのだろう。
「ん? これなら行けんじゃない?」
話しながら俺の渡したスマホを眺めていたハルが気になる情報を見つける。
『実演、リムドブムル討伐‼』
下の方に書かれていた情報。そしてその参加条件。
「これって予約制じゃないのか?」
「違うみたいだよ」
ハルが長々と書かれた説明の一か所を指さした。
そこに書かれたのは自由参加の文字。そんな貴重な体験を自由参加にしてしまったら人がどれだけ来てしまうのか。そう思ってしまうが実際はそうでもない。リムドブムルの討伐を見学できるということは森林まで行くことができるということ。
その時点でそのパーティーは数少ない上級探索者であることになるので、見学できる人数が少ないのだ。
ただ、まあ。
「死んでも責任は取りませんとはな」
最後に書いてある注意事項。傭兵団の実力はリムドブムルを安定して討伐できるほどのものにはなっているらしい。が、それは飛び火が無いということではない。
最悪攻撃がこちらに飛んできてしまっても防ぐか避ける。最悪死んでしまっても文句を言う先が無いことを了承しなければならないということだ。
「まあ、妥当じゃない? リムドブムルの強さだったら攻撃の余波で死ぬ可能性ありそうだし。私たちの最初の時みたいに」
「そういえばそんなこともあったな」
俺たちが最初に森林に来た時。確かリムドブムルを鑑定して、吼えられたんだった。
「咆哮だけで1日気を失っていたからな」
「宝具あったのにねぇ」
傭兵団紹介のサイトに書いてあったことを大方読み終えて、ハルがスマホの電源を落とす。
「じゃあ、そっちの方は参加する?」
「参加することになるだろうな」
「黒服で?」
「勿論」
傭兵団の人が来る日程は思いのほか近い。後一ヶ月も無かった。
「さて、レベリングするか」
「今日もがんばろー」
俺たちはそそくさと装備に着替え、ダンジョンへと潜るのだった。
そして。
「これって初めてのドロップじゃねえの?」
「だねえ」
2人はまたもや新しい素材を見つけるのだった。




