64.兄妹は部位破壊のドロップに目を輝かせる
「足だな」
「足だね」
俺達が地面に小さなクレーターを作り落ちてきた足。リムドブムルの片足に近寄れば、それは今まで以上にその大きさをありありと見せてくれる。
そもそもリムドブムルは常時飛んでいるようなモンスターであって足の大きさは体全体と比べるならばそこまで大きくないはずなのだが。
「看破使ってみたけど、この結果はねぇ」
『部位(足)…風龍リムドブムルの足 強度105』
看破の結果は何も分からない。というか見れば分かる。この足はハルと俺の魔法により、焼け焦げボロボロになってしまっている。
この状態だと俺たちはモンスターの部位破壊を行ったということで良いのだろうか。確か、部位破壊を行うと、本体のモンスターが死ぬか、その部位が再生するか。またはその部位を別の階層に運ぶと消える。
つまりはモンスターから斬り落とした部位はドロップアイテムではないのだ。いつもなら敵の部位は放置なのだが。
「ねえ、おにい。この肉っておいしいのかな?」
ハルはじっとその足を眺めている。って、食べる気か? ドロップアイテムでもないのに?
「ほら、基本的に部位破壊って人型のモンスターとか体が肉でできてるモンスターしかやらないでしょ」
「そうだな。獣型だったら首の方が落としやすいからな。人型は自分と同じだから斬りやすい」
「だから部位破壊の肉を食べる機会って無かったよね。本体殺した方が楽だし」
「まあ、そうだよな。というか殺したら肉がドロップするのに解体とかしたくないし。横ではその部位を失った生きてるモンスターがいるわけだからな。気持ち悪いだろ」
「まあ、でもね。物語だとドラゴンの肉は極上の味って定番だから」
「そうか? 筋肉質で硬そうだが。血とかに毒含まれてそうだし」
「よし、食べてみよー」
ハルはパーカーの内側からナイフを取り出しリムドブムルの足に突き刺す。
「って、やめとけよ」
「ふぎぇ」
それを見た俺は慌ててハルの首根っこを掴んで寄せる。ナイフはハルの手を離れ、突き刺さったままになる。
「毒入ってる可能性もあるから止めとけ。ダンジョンではまだ状態異常見つかってないからな」
「おにい、やってんじゃん。デバフ?」
「探索者だけなんだよ。未だにモンスターがやってきたことは無いだろ」
「そういえばそうだね。あー、私の肉がぁ」
「諦めろ。絶対に食べさせないから」
そう言いながら、ハルの刺したナイフを抜き取る。手に触れた足は鱗のようなもので覆われていてかなり硬かった。
「ん? おにい。もう一回ナイフ差し直してみて」
「あ? まあいいけど」
たった今抜き取ったナイフを握りしめると全力でその硬い足に振り下ろす。ただ、ナイフが壊れたら困るので鱗の隙間を狙った。
「おにい、強度が減ってるよ」
『部位(足)…風龍リムドブムルの足 強度83』
「ほんとだ。アイテムじゃないから強度があんのか?」
ハルが教えてくれ看破の表示ではさっきまで105あった強度が83まで減っていた。
「とりあえず0にしてみる?」
「分かった。どうせ、魔力は無いから俺がやる」
リムドブムルの戦闘で魔力は全て使い切ってしまったので腰にある刀で何度も斬り付けていく。そして。
「おお‼」
「まじでかよ」
その足は耐久力が0になると共に、まるでモンスターかのように黒い霧へと姿を変えて、先程まで足があった場所には3センチ四方の肉と大きな爪が1つずつ、そして10枚ほどの緑色に輝く鱗。
爪の太さは俺の腕と同等以上で、鱗の1枚は拳ほどの大きさ。肉はたくさんの白い筋が入っていていかにも霜降りといった感じだった。
「お肉だよ、おにい」
「なんで、マジの肉なんだよ。しかもサイズが完全に高級肉だし」
ハルは目を輝かせ俺はため息を吐く。とりあえず肉を拾ってアイテムポーチに突っ込んでおいた。
「帰ったら、焼いてね。塩で食べるから」
「はいはい、まだ終わってないぞ。看破頼む」
「りょうかーい」
『下級龍の爪…下級龍の爪』
『下級龍の鱗…下級龍を覆う鱗』
「ん? 下級龍なの?」
「は? ちなみに今までのはどうだったんだ?」
「龍の字が違った。画数が少ない方の竜だったよ」
「あぁ、今のは画数の多い方か。龍だな」
俺は下級龍の鱗を手に取る。全力で曲げようとすれば曲がるが、割れる気配はない。硬く、柔軟。今までに見つけたアイテムの中でも最も丈夫なのではないだろうか。
それが10枚。量を考えると鱗が大きくてもこれで武器を作るのは難しそうだ。
鱗を全てアイテムポーチに突っ込んで次は下級龍の爪。
「これ結構大きいし重いね。足の爪だからかな? あとすごく硬い」
足元を見れば爪が無くなっていて、横を向いてみればハルが爪を手に取り全力で折ろうとしていた。まったくと言っていいほどに、びくともしていないのだが。にしてもハルも非力ではないのにこの強度とは、もしかして。
「ハル。全力でそのまま握っといて」
「いいよ」
ハルが爪の端をしっかりと握り剣のように構える。長さも長いので持つ場所には困らなさそうだ。俺はその爪の前に立ち、刀を抜く。そのまま刀を上に上げて上段の構え。そして。
キーンと高い音が鳴り響き、勢いよくハルの手から飛び出した下級龍の爪が地面を転がる。
「おにい、痛いんだけど」
「悪い悪い」
ハルがジト目でこっちを見てくるのでさらりと流して地面に落ちた爪を拾う。俺が全力で刀をぶつけたその爪にはしっかりと傷が付いていた。いや、傷しか付いていなかった。
錬金でしっかりと強化された刀で傷しか付かない。普通ならば二つに斬れたり、途中で折れたり。半ばまで食い込んで止まったりなどと爪へ大きなダメージを加えるものだっただろう。
これは武器になる。俺の刀には少し重いかもしれないが、ハルのトンファーに錬金できれば。俺の刀だったら鱗を錬金すれば。そしてふさわしいスキルを付けることができれば。そしたらおそらく。
前に勇者御一行に渡った名付きの武器より強くなる。思わず笑みが浮かんでしまう。
「ハル、明日以降の予定が決まった」
「ん? 何?」
「リムドブムルを狩る」
「おぉ、いいね」
ハルも俺の決めた予定を聞いてにやっと笑う。
「お肉のために」
「武器のために」
「「やるぞー‼」」
なお、この時の兄妹の頭の中には海外という言葉は全く残っていなかった。
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