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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
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63.兄妹は再度リムドブムルを追い詰める

 俺たちが中級ポーションを完成させてから、2週間ほどが経った。中級ポーションは効果を確かめるためにも一度飲んでみた。味は普通のポーションと同じ特徴のない味だった。肝心の回復力なのだが、よく分からない。

 幸か不幸か俺たちは中級ポーションの力をフルに使えるような大けがをしていないのだった。だからと言って実験で痛い思いをするのも嫌なので、まあいいやと。

 最近ではステータスが高すぎて怪我などすることが無いのだ。今ならダンジョン外で車に轢かれても悪くて全身に軽い擦り傷と打撲で済むだろう。


 とりあえず中級ポーションを大量に作っても保存する場所が無いので前に手に入れていたポーション瓶の中に入れておいて、残りの部分は飲み干した。売れば億を超える可能性もあるものを捨てるのはなんだかもったいない気がして。

 それで俺たちの中級ポーションについては終わり。今日はパスポートが手に入る日が近くなってきたということで最終確認をしようということに決めていた。

 最終確認と言っても荷物の確認をするわけではない。そもそも荷物は未だ1つも用意していない。

 最終確認というのは俺たちが海外に行く目的だ。時間が空き若干忘れかけていたが、俺たちの目的はリムドブムルの討伐方法を確かめに行くというものだった。世界で唯一リムドブムルを討伐した人を見て、その強さや方法を確かめてやろうということだ。

 つまりは今の俺たちでリムドブムルは本当に倒せないのかと。というのも、俺たちは一度リムドブムルを地面に落とすことまでを成功させている。俺たちの実力はその時点でリムドブムルを退けることまでを可能としているのだ。ただ、とどめが刺せない。俺たちのステータスではその時点で魔力が切れてしまい、それ以上近づくことができないのだ。俺たちは接近戦もこなすことができても所詮後衛職。

 魔力が無くなってしまえば格上にどうこうできるわけが無い。リムドブムルのブレスで簡単に俺たちの命は吹き飛ぶだろう。


「と、いうわけで。ハル、準備できたか?」


「うん。持てるだけ持ってきたよ。今日勝てたら外国とか行かないで済むんだけどね」


「普通の人は、何もなくても外国行きたいと思うが。俺たち英語は全くできないからな」


「だね。税関だっけ?で止められそう」


「で、Yesマンになって、何か拙いことを言ってしまい日本に送還と」


「うわ、おにいリアルで怖いこと言わないでよ」


 実際外国に行ったことのない身なのだからそんなことがあるのかは分からないが、その分余分に心配してしまうのだ。俺たち小心者だし。まあ、今ではスマホで翻訳ができるらしいから、問題ないのかもしれないが、翻訳の性能とはどれくらいなのか。とても不安だ。


「おにいー、聞いてる?」


「ん? なんだ?」


 考えていたらハルの言葉が入っていなかったらしい。


「準備できたから行こ。しっかり事前情報で海外のリムドブムルの情報調べておいたから」


 ハルは自慢気な顔をしながら、地下室へと向かっていく。


「おぉ、まじか。何が書いてあった?」


 ハルは薄く笑いながらくるりと周り俺に向かって指を突きつけ堂々と言い放つ。


「私、英語読めなかった。よって情報0」


「……使えな」


 どや顔のハルを見ながらつい本音が漏れる。いや、何かいい情報を手に入れたかと思えば何も無しって。下げて上げるのはいいけど上げて下げるのは良くないと思う。だから俺が毒を吐いたのも悪くはない。


「ひどいなー」


 ハルは俺の言葉を笑いながら流し、ダンジョンへと飛び降りていく。最初ダンジョンと地下室を出入りするために使っていた梯子付きの柵は、今ではただの扉にしか使われていない。

 俺たちのステータスが上がり、手が一本空いていれば軽く跳ぶだけでダンジョンから地下室へと上がれるのだ。こんな小さなところからも俺たちの成長を感じる。


「おにいー、行くよー」


「はいはい」


 ダンジョンの中からハルの声が聞こえたのを適当に返事して、俺も軽くダンジョンの中へと跳び下りたのであった。


 そして


「おにい、行くよー」


「よし、かっ飛ばせー」


 まるで野球でもするかのような会話。その会話が行われるのは大木が生い茂る森林の中。その木一本一本がとても太く、硬い。その木は数本だけが無残に倒れ、その上に立つ二人。

 少女の手には小さな丸い何か。その丸に向かい男が拝むような形で両の掌を向けている。まあ、そんな不思議な言い方をしても結局はただの戦闘準備なわけで。

 前回は最初から各自最大火力の魔法を連発していたような気がする。それで倒せなかったのだから今回は形を変えてみようということで今回は、ハルが暴走を、俺が支配を使用しながら、ハルの液体魔力を強化しまくっているわけだ。

 作戦は簡単前回と同じ、ごり押し。各自で適当に頑張って火力が足らなかったのだから協力していこうと。ついでにリムドブムルが初撃を避けたのを見たことが無い。

 おそらく自分が被害を受けてからやっとそれを危険。または忌々しいものと認識するのだろう。ではなぜだろうか。はるか上空にいるリムドブムルが先程からちらちらと俺たちの方を忌々しそうに見ているのだが。

 まあ、あれでしょうね。俺たちが魔力を変に使いすぎてるので。量と言い質と言い。2人の魔量の合計はかなりの数値になるのだから。


「よし、おにい行くよ」


 ハルが液体魔力の球体の密度を下げ、少し大きくする。そこに俺は支配で魔法を埋め込んでいくわけだ。まずは俺の宝具より無形の鎧をこれでもかと詰め込んで、インパクトやらボムやら、亀裂やら崩壊やらを埋め込んでいって。

 液体魔力の色が混沌と化してきたころに次の段階へ。俺のデバフ系統の魔法を詰め込んで、液体魔力を二人がかりで圧縮する。中に入っている魔量はあまり変わらないのにそれを圧縮するのは最初の何倍もの力が必要となる。

 液体魔力が持つ魔法などのデータ量が多すぎるのだろう。簡単に言えば質を上げたせいで丈夫になったと言うべきか。

 俺の支配とハルの魔力操作と宝具本来の操作性を使い、なんとか最初と同じほどの大きさまで圧縮をして、それを再び無形の鎧で覆う。何重にも丈夫に。ただし衝撃を与えると破裂するように。イメージはオランダの涙。一か所に傷がつくことでエネルギーが破裂するようなイメージで作った。魔法のイメージは結構大切である。


「完成したな」


「うん、疲れた。なんかリムドブムルにぶつけるのが惜しくなりそう」


 魔法を大量に詰め込んだ爆弾?を作り終えるとそれを浮かせたまま俺たちは倒れた木の上に座り込む。ちょっと休憩。水筒からお茶を飲み、喉を潤す。そして自分とハルにバフを掛けて、強化する。無形の鎧を着こんで大鎌の宝具をいつでも出せるように準備した。


「おにい、行くよ」


「おう、3・2・1」


「てーいりゃー‼」


 ハルの投げた魔法爆弾はハルの魔力操作のおかげだろう。どんどんと速度を上げてリムドブムルに迫っていく。途中だんだんと向きが変わっていき、当たるように合わせられていく。


 意外にも音は無かった。


 爆弾が爆発すると共に、リムドブムルの周辺の空が真っ黒に染まり、煙1つ上がっていない。完全な無音の爆弾。世界から音が消えたかのように風までもがピタッと止まる。そして。


「グギャーギィアギャーー‼」


 それから聞こえる大きな悲鳴。森を震わすほどのその声は何故か覇気を感じない。


 徐々に空の黒が消えていき、それと共に空からキラキラ光るものと、バケツをひっくり返したような赤い液体が降ってくる。


 ドオンッ


 最後に、大きな塊が落ちた。


「ギャアーギギャー」


 その声に空を見上げてみれば体のいたるところが抉られて、片足が無くなり、赤く、黒く染まったリムドブムルが、赤い液体をまき散らしながら飛んでいくのが見えた。その巨体はゆっくりと、ゆらゆらと逃げていく。


「逃がすかよ‼」


 すぐに宝具の大鎌を手に取り、全力でリムドブムルに投げつける。これでも強度のステータスは高く、魔法で筋力は上がっている状態なのだから大鎌は真っ直ぐとリムドブムルへ突き進み。


「ガギャ」


 そんな声と共にボロボロの尾ではじき返された。


「あぶね‼」


 思わず飛びのくと、先程まで俺がいた場所に深々と刺さる大鎌の刃。


「大丈夫っ、おにい?」


 ハルが慌てたように近寄ってくるが幸いなんともない。


「ぎりぎり避けた。というよりハルって魔力まだ残ってる?」


「うんん、無い。おにいは、無い?」


「無いなー、またか」


「まただね」


 これで俺たちがリムドブムルを仕留め損ねたのは2度目となる。


「まあ、これで俺たちが海外に行く理由が再確認できたな」


「うん。リムドブムルの倒し方。中でも」


「火力の確認とリムドブムルの逃走防止策だな」


「じゃあ、おにい」


 ハルは疲れたような、それでいて満面の笑みを浮かべながらこちらを見る。


「何故か消えないリムドブムルの部位を確認しよっか?」


 ハルの視線の先にはリムドブムルの落としていった大きい物。

 血に染まった片足が落ちていたのだった。


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