59.兄妹は中級ポーションを求める
俺たちが自宅へ帰ってから数日が経ち俺たち2人の目はパソコンの画面にくぎ付けになっていた。
1日目の森林での俺たちの暴走後、冷静になってみれば自分たちが何故、あんなことをしたのかがさっぱり分からない。よく考えてみればすべての木を斬り倒すなんて明らかに無駄な労力だし、動かない木を倒していって何が楽しかったのだろうか。
そもそもそんなことをするならば、未だ硬すぎて倒すことのできないリムドブムルにフルパワーの魔法連射した方が、爽快感があって気持ち良いのではないかと思う。それはそれでサイコパスの思考だと思うけれど。
で、それからは実利のある行動をしようということで森林の固定位置からモンスターを倒しまくるという以前の方法を続けた。特別強いユニークモンスターが出ることもなく、新しいスキルが手に入ることは無かったが、面白そうな魔道具が手に入った。
その名も『ポーション瓶』。機能は中に入れたものが劣化しない。瓶が割れないことの2つ。普通のポーションの瓶と違い、中身が無くなっても壊れないのが魔道具である所以だ。ただし容量が少ない。調べてみたら100ミリリットルと少しぐらいだった。飲み物入れるのには使えなさそうだ。
とまあ、そんな充実した?生活を送っていた俺たちは今日、いつものようにインターネットでダンジョンに関する情報を集めていて、ある情報を手に入れたのだった。
『893のメンバーが調薬スキルにより中級ポーションの製作に成功。効果は骨折が瞬時に治るほど』
今までの小さな傷が治る程度のポーションに比べたら、中級ポーションの効果は目を見張るものがあるだろう。こんなものがあるのならばぜひとも海外に行く前に入手しておきたいところだと考える。
ただし入手方法が問題だ。現在の中級ポーションの入手方法は893のメンバーから買い取るのみ。それもかなりの高額で。俺たちが手を出せるような値段ではなかった。
ただそれだけならば俺たちの目はパソコンの画面にくぎ付けになることは無い。俺たちが注目したのはそれらの少し下に書いてある記事だった。
「おにい、これってホントかな?」
「さあ、調薬スキルを持ってないとできないってオチもあるだろうけど」
「でも私のスキルは工作だよ。同じことができるかも」
「試してみる価値はあるか?」
そこにあった記事は中級ポーションの製作者へのインタビューの内容。
純粋なダンジョンに関する話から始まり、パーティーの話や、最近の活動の話がされて、ポーションについての話へと移っていった。
そこには調薬のスキルを使ったポーションの作り方なども書かれていて、俺たちの気になることも書かれていた。
本人曰く調薬スキルは素材を手に持ち、スキルを使用することで瓶詰めにされたポーションへと変化するようだ。そして。
他の人にもポーションを作れないかと、勘でポーションを手作りしてみれば、作ることができたという訳だ。
森林の奥地に現れるトレントのレアドロップ、霊樹の葉。それの水分を抜き、すり鉢で砕いて粉にして、魔力を込めながら綺麗な水と混ぜていく。そうすることで砕かれた葉は何故か水にしっかりと溶け、中級ポーションになる。
これらの動作は全てダンジョン内で行う必要があり、当然ながらポーションを作っても瓶は現れなかったと書いてある。
ただしその方法を試した人は多くいたが、成功者は誰もいなかったらしい。作られたものは、葉の粉が沈んだだけのただの水だったと。飲んでみれば回復効果は無く、葉の味がしたということだ。
とは言っても、この霊樹の葉の数は少なく、実験できる人数が少ないうえに、ダンジョン内で葉を乾燥させる技術を持った人が少ないということもあり、実験を行うことのできた人が少なすぎたのだが。
そして俺たちはそれの原因に大体の見当が付いていた。
「とりあえずはその霊樹の葉ってやつだよな」
「ん、あまり出ないモンスターのレアドロップだから手に入れるのは大変かも」
「そのトレントなら何度も見たんだけどな」
「うちのダンジョンでレアドロップは出ないからねぇ」
ハルの言う通り、うちのダンジョンではレアドロップは入手できない。となれば東京ダンジョンに行って入手するしか手は無いのだが。
「さすがに森林でばれないようにするのはきついよな」
現在では森林の探索を進めている人も増えて来てはいるが、さすがにそこに2人組がいたら注目されることは間違いなしだろう。大人が4人でせっせと戦っているところを子供が二人で探索していたら良くて噂、悪くて身バレか。
さらに言えばトレントが現れるのは森林の奥地。確実に森林の中を動き回らなくてはいけなくなる。隠密で移動したとしてもさすがにバレる可能性が高い。となれば。
「バレる前提で動くか」
「ん? どういうこと」
俺たちが一番問題としているのは、探索していることが知られ、そこから身元が割られることだ。そうなってしまえば俺たちの強さも知られてしまい、現状では勇者御一行よりも圧倒的に強いのだからマスコミの良い餌になるのは決定だろう。
そうなってしまえば自宅のダンジョンが見つかってしまうのは避けがたくなる。自分の敷地が法律で守られているとは言ってもこの世にはそれを守らない人が数多くいる。
こんなボロボロの家に住んでいて有名になってしまえば空き巣を狙われダンジョンが狙われてしまうのも時間の問題だろう。となれば、知られても身元が明かされなければいいのだ。
「身を隠すんじゃなくて身を偽る方向で東京ダンジョンに行けばいいんじゃないかと思ったんだが。どうだ?」
「身を偽るって、変装とか?」
「まぁ、そういうことだな」
ハルは俺の言葉を聞き、うーんと考え込んでから、ポンと手を叩く。
「うん、そうしよう。となればまずは新しい装備を用意しないとね」
「あ、そうだな」
さすがにいつもの装備で行けば丸分かりだろうから新しい物を用意しなければならない。また出費か、と溜息を吐きそうになるも必要な出費であると自分を納得させる。
「よし、今日はダンジョンに潜らないで買い物に行くか」
「らじゃー」
俺たちはさっさと外着に着替え財布を持ち、ロードバイクに跨るのであった。
そして……
「ハル、どれ買う?」
「うーん、パーカー?」
「フード無いときついよな」
俺たちは今、最初にダンジョン探索用のアイテムを集めた場所へと来ていた。別に本格的な探索者の装備を探しているのではなく変装用なのだからここで十分だろうという建前の下、出費がかさむのが怖く、ダンジョン市場の方には行かなかった。
そして俺たちは今服屋にて並んでいるわけだ。
「おにい、とりあえずテーマを決めよう」
「テーマってなんだ? 春コーデみたいなやつか?」
「そうだけど、違う‼ どういう立ち回りでダンジョンに入るのか。どうする?」
ハルに言われ、そういえばと頭の中で考える。変装して入ればいいやと考えていたものの実際はそんなに簡単ではない。身元が分からないような服装でなくてはいけないが、不審人物になってはいけないと思う。
ダンジョンに入るときは普通の装備で入るとは言っても後から森林にこんな不審人物がいましたと通報されてしまえば警戒が強くなってしまうだろう。とは言え顔を隠してしまえば怪しくなるのは確定だろう。よし、あれにしよう。
「ハル、ファンタジー方向の怪しさにすると怪しまれるから現代方向の怪しさにしよう」
俺が思いついたのはこうだった。
ダンジョン内ではみなファンタジーのような装備で身を覆い、警戒するのは武器を持ったり、マントとフードで身を隠したりしている人物だ。武器をむき出しにしていれば尚更だろう。となれば。
「現代風の服装でマスクと帽子で顔を隠せば不審人物だとは思われないと思わないか?」
「うん、おにい馬鹿?」
「まあまあ、そこは試してみよう」
軽く厨二病が再発した俺は嫌そうな顔をするハルを引っ張って店の奥へと向かうのであった。




