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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
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57.兄妹はついに父と会う

 俺たちのことを知っていた女性は店の片づけをさっさと終えると。


「2人とも初めまして。私は木崎麗。あなたたちの新しいお母さんになりました」


 そう言い放ったのだった。



「さあ、車に乗って。志木さんのところへ案内するわ」


 俺たちが驚きで動けないでいるのを知ってか知らずか、俺たちの反応は意に介さずに車の助手席と後ろの席を指さす。

 ちなみに志木とは父の名前。父の名前なんて普段呼ばないのだから少し違和感がある。で、この人が。


「あなたが父が俺たちの家を出ることを提案したって、本当ですか?」


 父は嫁さんが提案したと言っていた。だとすれば現状を作り出したのはこの人が原因ということになる。


「ええ、そう。逃げちゃえばいいって言ったの」


「はい?」


 俺たちが車に乗り込むとそれ以上に話が続くこともなく、1軒のおんぼろの家に着くまでそれは続いた。



「ただいまー、志木さん」


 車がその家に着くと麗さんは車を降りて行ってしまうのでそそくさとついて行く。

 その家には俺たちの家と同じようにインターホンもなく、開く扉はギシリと音を立てて。


「おかえりー麗、ん?」


「「あ」」


 奥から顔を出したのは俺たちの父親、木崎志木だった。


「おぉ、お前たちよく来たな。どうやって探した? 一応隠しておいたと思ったけど」


 親父は俺たちを見るといつものようにしゃべりだす。いつものようにと言っても1年前の話にはなるが。


「この人が案内してくれた。あときもい、うざい、近寄んないで」


「ぐはっ」


 真っ直ぐと飛び出したハルの暴言に親父は胸に手を当て、びくっと震えるとそのまま崩れ落ちる。


「うわ、きもい」


「いや、俺も正直それはきもいと思うぞ親父」


「志木さん、私もちょっとそれはー、ね」


 そこに向かうは3人の暴言。嫁さんにまで言われてんじゃねえか。

 そのまま親父は勢いよく立ち上がり、麗さんの方を向く。


「すまん、麗。片づけは後でいいか? 話したいことがあるからな。来いよ。奥で少し話そうや。近況報告な」


 先程の馬鹿な親父とは違い、一瞬で真面目そうな表情を取る親父は、そのまますたすたと、家の奥へと入っていく。

 俺たちはその稀に見る親父の真剣な表情にごくりと唾を飲み後をついて行くのだ。

 そして。


「家小さくね?」


 このような言葉が飛びだすのだ。


「おめえ、人の家に小さいとは失礼な野郎だな。お前らも貧乏暮らししてるなら分かんだろ。余裕ねえんだよ。仕事も無くなったからな」


 親父は嫌そうな顔でそう言うと、小さな部屋の真ん中にあるちゃぶ台の向こう側へと腰を下ろす。俺たちも持っていたバッグを適当に端へと置くと腰を下ろす。


「どうぞー」


 間延びした声を出しながらこちらに来た麗さんは俺たちの前へとコップを置き、部屋を出ていく。


「志木さん。片づけしてきますね」


「悪い、頼んだ」


 ギシ、バタンとドアの閉まる音が聞こえ、この家には俺たちと親父しかいなくなった。


「さて、お前ら。先に一つ言っておくぞ」


「何? お金なら間にあってるけど」


 親父の真剣そうな声に面倒そうにハルが返す。というか何故お金。


「そうだ、お前らに渡すお金は一文もねえ‼ ってそうじゃねえよ」


「おぉ、見事な乗り突っ込み。きも」


 親父が無言でちゃぶ台に突っ伏すのを見ながら周囲を見渡す。


 部屋は狭く、家具などがある所為で布団はぎりぎり2枚ひける程度。先程この部屋に入るのに見た限りでは、風呂1つ、トイレ1つ。キッチンは廊下に備え付け。部屋はおそらくここ1つだけだろう。なんでこんな小さな家があるのかと思うほど小さい。間取りは完全にアパートだ。

 まさかこれほどまでに貧乏とは。今の状態だと明らかに俺たちの方が金持ちだぞ。そんなことを考えながら親父へと目を向けると。


「おい、トウカ。俺らの家を憐みの目で見てんじゃねえよ」


 ちゃぶ台に突っ伏したまま顔をこちらへ向ける親父がいた。


「で、お前らは何しに来た?」


「パスポートだよ。海外に行きたいんだ」


「はぁ!? 海外? お前ら金ねえだろ。ってそんなら言わねえか」


 親父は一息つきこちらをじっと見る。

 その目の中で一瞬だけ、魔力が動いたような気がした。


「ダンジョンか。お前らもか。海外に行けるだけの金があるってことは上手くいっているんだろうな。中級か上級か」


 俺は少し目を細める。海外に行けるほどに金を稼ぐ探索者はあまりいない。中級探索者にでもならなければいけない。

 確かに中級探索者は多い。探せばすぐに見つかるだろう。ただそれは全体からの割合で見たらわずかなものだ。


「何で分かった?」


 何で俺達が探索者で成功していることが分かったのかが分からない。先程親父の目の中で動いた魔力もスキルすらも発動できない程の微々たる魔力だった。


「鎌かけただけ「嘘」だ、何だよハル」


 親父の言葉にハルが口を挟む。


「お父さんのスキルは何? 相手に干渉するには魔力が必要だから鑑定系ではないし、外側に影響が無いから強化系でもないし、パッシブでもない」


 ハルはそう堂々と言い切ると、魔力操作で親父に向かって魔力を飛ばす。その先は親父の目。先程魔力が動いたところ。

 魔力に体への直接的な干渉力は無い。だからこそ普通の人は気づかない。それなのだが。


「きゃっ」


「今のはハルか? やめてくれよ親父の目ん玉に攻撃なんて縁起でもない」


 親父が少し動くと共にハルが小さく驚きの声を上げ、魔力が霧散した。

 親父の顔はしっかりと向かって来ていた魔力から逃げるように横にずらされており、先程まで胡坐だったはずの足はハルの足をつついていた。


「魔力はな、集中しなきゃ使えねえんだ。だから魔法使いは、あー、またか?」


 親父は説明するように話し出したかと思えば、途中でぽかんとした顔になり話を止め、すぐにしかめっ面へと変わる。


「で、魔法使いがどうした? 親父」


 話の続きが気になるのでそれを促す。


「すまんな、トウカ。これ以上は駄目らしい。そういうことだが、他に何か聞きたいことはあるか、そもそもお前たちはパスポートのためだけにここに来たのか?」


「うん。んー、まあ、お父さんのスキルはどうでもいいかな。どうせ強い人のスキルなんてわけわからないのばっかりだし」


 ハルが言っているのはいつぞやの高等探索隊のスキルのことだろう。あのスキルは俺たちのスキルよりはるかに強く意味の分からない物だった。

 ハルにパスポートのためだけと言われてしまった親父は再びうなだれている。


「そうだな。で、親父。当然パスポートは作ってくれんだよな。今更海外は危険だとか保護者面すんなよ」


 うなだれる親父を突っついて起こし、問いかける。


「んあ? あぁ、お前らが金を出すなら書類は書いてやるぞ。今日はもう夜だから手続きは明日だな。明日書類を書いてお前らの家の近くで受け取れるようにするか?」


「あぁ、それで頼む。さすがにパスポート受け取りにここまで来るのは嫌だからな」


「おぉ、じゃあここは泊まれねえからな。さっさと帰れ。ホテルでも見つけて明日の朝10時にここに来い」


 親父が立ち上がり、俺たちを見送ろうとするので、俺たちの残りの水を飲み干し立ち上がる。


「じゃあな。ハル、トウカ。居場所もばれちまったんだから次からは電話で相談くらいなら聞いてやるからな。あんま、ダンジョン入んじゃねえぞ」


「さよなら」


 親父の声にハルは一言だけ返して歩き始める

 あー、相変わらずハルは懐いてくれねえな、なんて言っている親父の方を向き俺は最後の質問を投げかける。


「親父、何で仕事を辞めた?」


 一瞬の沈黙、そして。


「怖かったんだよ。ダンジョンが、そこに嬉々として入ってく奴らがな。ダンジョンが何かを分かってしまったから余計に」


 親父は小さくため息を吐き、力のない目でこちらを見る。


「なぁ、トウカ。ダンジョンに入らないようにって、出来ねえのか?」


「無理だな」


 俺は親父の質問に即答する。


「そうか」


 親父はそう言うと黙ってしまう。


「じゃあ、俺は行くからな」


 親父が黙ってしまったので帰ることにする。ハルも少し離れたところで待ってくれているようだし。


「トウカ、俺はスキルに制限されているせいでお前らに何も話すことが出来ない。だから自衛隊から逃げた理由も詳しくは話せない。だが、死ぬなよ」


 先程までの力のない目とは違い、これまでにない力強い目と口調で親父は言った。

 ただ、親父。


「分かったよ。親父」


「じゃあな、トウカ」


「じゃあな、また明日。そういうセリフは別れ際に言った方が良いぞ」


 明日再び会う男のセリフにしては少し、かっこよくし過ぎだと思う。



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