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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
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56.兄妹はまだまだ父を探す

お待たせいたしました。

 居酒屋のおじいさんから父の居場所を聞き出した後、大阪のダンジョンダムを少し覗いてから、俺たちは予定通り島根県へと向かった。

 相変わらず新幹線は暇だが目的地がはっきりしているため、岩手大阪間ほどの辛さは無かった。

 島根に行けば父と会うことができるのだから。

 ただ、その父についての話しをしているとお互いに父への考え方に違いがあることが分かった。


 俺はあのような父でもはっきりと親として認識し、口では嫌いと言いながらも、実際では評価の低い親といった程度の認識だった。

 ただ、ハルはそうではない。母については家にあまりいなかった。父も母と同じような理由でいないのかと思っていたが、居酒屋のおじいさんの話を聞いた限りだと、おそらく仕事が忙しく、帰ってくることが出来なかっただろう。

 しかし、親の仕事と子供の感情は別である。ハルは親とあまり接さずに生活することになってしまった。俺は1歳しか違わないハルの親代わりをした。

 結果、ハルは親のことをどうとも思わなくなり、幸か不幸か俺にはよくなついた。

 この旅も俺は父に出ていった理由を知りたいという考えもあるが、ハルはパスポートを作ってもらうためだけに動いている。後は観光か。



「おにい、あれがダンジョンダムじゃない?」


 ハルが指さす先にあるのはコンクリートの壁に囲まれた大きな建物。


「あぁ、そうだな。相変わらず規模はでかい。人は少なめか?」


「大阪が多すぎただけじゃないかな。島根の人口ってどうなんだろ?」


「それと周りの県の人口だよな。中には車で何時間とかけてダンジョンに通う人もいるらしいぞ」


「それは、戦闘狂?」


「だな。さすがに片道車で数時間はやりすぎだと思う」


 兄妹はこう言っているが自分たちの最終目的は頭の中に無かった。そもそもこの日本ダンジョン巡りの旅はアメリカのダンジョンに潜るためだということを忘れていたのだ。

 勿論、それが後々問題になることなど無いのだが。


「んー? 移動販売の車はあるけど、いないよ」


 周囲を見渡していたハルがそう言う。見える範囲には父はいないようだ。とはいえ。


「今日いないだけとか、ここから見えない場所でやってるって可能性もあるからな」


「ってことはいつも通り聞き込みかぁ」


「どうせハルは俺の後ろにいるだけだろ。俺たちがいることに気づいて逃げられることは避けないとな。次こそ追えなくなる」


「もちろん‼」


 俺たちはいつもより少しだけ周囲の目を気にしながら、聞き込みを開始していくのだった。

 とはいえ他県のように普通に聞き込みをしていれば父の方に情報が流れてしまう可能性がある。実際岩手では聞き込みに行った店で、お前さんたちが探偵もどきの子供か? と聞かれたことがあった。

 幸いただの冗談で言われただけのようで、相手に不快感を与えてしまった感じではなかったので普通に話してくれたた。だが、その時のように父に俺たちがいることが伝わってしまえば、それで俺たちが会える可能性はなくなるだろう。

 というわけで。


「ふにゅ~、食べ歩きっていい響きだねぇ。はい、あーん」


「あ? あぁ、どうも」


 とろけたような表情でおいしく調理されたダンジョン産の肉を使った串焼きを頬張るハルが差し出してくれた串焼きに俺はかぶりつく。

 なるほど、これは確かにおいしい。俺たちが作っていた料理がいかに適当かがよく分かるような味だ。


「俺もまじめに料理の勉強しようかな」


 そんなことを呟いてしまうほどにはそれは美味しかった。

 とはいえ、何故俺たちが今までお金の事情でほとんどしてこなかった食べ歩きをしているのか。それはあまりにも拙い理由があった。


 お客様は神様。その言葉を知らない人はいるだろうか。俺たちは純粋にその言葉を信じることにした。

 今までのように何も買わずに聞き込みだけして帰って行くのは印象が悪いだろう。それはお客様ではないのだから。

 だからこそ俺たちは行く店では1個だけ何か買っていくことにしたのだ。そして一軒目。

 ダンジョン産の肉を使った串焼き屋さん。その店は移動販売ではなく屋台だった。だが、なんてことか。その店は効率より味を重視したのか、すべての肉をガスではなく炭火で焼いていたのだ。だからこそなのか値段は少しお高めで1つ500円した。

 屋台周辺の煙臭さが少なかったので、理由を聞いてみると偶然手に入れた魔道具でどうにかしているらしい。

 その魔道具の見た目は20センチ四方ほどの四角い石で、効果は小さな竜巻を作るという物だった。小さなというのがどれくらい小さいかと言えば、扇風機の弱と同等以下というほど。

 まあ、それでも煙を集めて押し上げるには問題が無いらしく、屋台の天井を見てみると太めの管が天井を突き破り設置されていて、その管の一番下にはその魔道具が置いてあった。

 ちなみにその魔道具は店主のおじさんが入手したものらしく、実は中級探索者なんだとか。

 同じですねと言おうものならかなり驚かれた。高校生は学業があるためレベルが上げにくく、中級探索者は珍しいうえに、高校生までで上級探索者になっている人は片手で数えられる人しかいないそうだ。

 ちなみにその情報源は全国ダンジョンダム前方店舗ネットワークというものらしい。

 商人の情報ネットワークを恐ろしく感じた出来事であった。


 串焼き屋店主との話が終わり、にこやかに挨拶をして歩き出すと後ろに待機していたハルが顔を出す。そのまま1つだけ買った串焼きを渡して、先程の光景へとつながるわけだ。

 そして当然のごとく1つ目の店、情報なしと。写真を見せてみると首をひねって、店でその人を見たことが無いと言われた。

 ということで次の店。

 その店の店主は女性。おばちゃんだった。


「あ、じゃあそれください。ところでこの写真の人が店やってるの見たことありません?」


「まいど‼ うん? その人、見たことあるかもしれないけど記憶には無いね。悪いね。ほいこれ」


「そうですか、ありがとうございます。代金はこれでっと。どうも」


 2つ目の店は移動型店舗。おばちゃんは忙しそうだったので聞くことだけ聞いて商品を受け取って出てきた。それはかき氷。とりあえずハルに渡しておく。


「ありがと」


 ハルはかき氷を受け取るとむしゃむしゃと食べて、頭を押さえていた。口の中の火傷もそうだったが冷たいものを食べたときに頭にくる痛みも、レベルの上昇では防げないのだろう。


 そうしてその後もいくつもの店を回り、俺もハルもお腹が膨れたころ、残念ながら父は見つからなかった。情報ぐらいあってもいいのではないかと思ったのだが。最も有力な情報は見たことがあるような気がしなくもないと、あって無いような情報。

 その程度の情報なら無くても同じだろう。勘違いの可能性が高いのだし。


「おにい、近くの店はこれで全部じゃないかな?」


「あぁ、そうだな。少しの情報すらも無いってどういうことだ?」


 居酒屋のおじいさんから聞いた話だと父が島根にいたのは確実だろう。そして俺たちが父との電話で入手した情報はダンジョン関連であるということ。

 となればダンジョン市場か? しかしダンジョン市場での仕事にそんな新人が付けるわけが無い。


 夕方に近づいてきた今、ダンジョン前は点々とダンジョン帰る人がいて、聞こえる音は人の会話と靴が地面を擦る音。

 ダンジョン入り口に乗り物に乗ってくることはできないし、重い装備を持って動くわけではないのだから大きな台車が動いているわけでもない。

 周囲にいるのは疲れた顔をしながらも、喜怒哀楽の顔を見せるたくさんの人。

 ん? 俺は今、何を考えた?


「おにい、ここのダンジョンダムって貸金庫がしっかりしてるらしいよ。歩いてる人の荷物が少ないのはそういうことだったんだね」


 ハルはのんびりと歩きながら近くにあった宣伝の紙を見て、俺に話しかける。


「ん? 貸金庫か?」


 近くを歩く人にそのことを聞いてみると、ここでは武器や防具は金を払い預けるのが主流なんだそうだ。


「ハル、おかしい」


 ここでやっと俺は自分の間違いに気づいた。


「俺たちが電話で聞いた音は、モンスターについて話す声と、金属の擦れる音だよな」


「うん、あれ? 武器は貸金庫なのに?」


 ハルも俺の言ったことの意味が分かり首をかしげる。

 俺は、そのまま一番近い屋台へと向かい、店主の女性へと話しかける。


「すいません。ここら辺で、ダンジョン関係で金属を扱う店ってありますか?」


 すると店主の女性は少しだけ小さく笑ってから答えた。


「あるわよ。私の店とかね。とうかくん、はるかちゃん」


 店主は笑ってそう言い、店の片づけを始めるのだった。


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