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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
55/132

55.兄妹は大阪で昔の父を知る

「ん~♪ おいしい」


「あつっ、はふっ、はっ」


 あの日、岩手で女性と話した日から2日が経った。何故2日も掛かっているのか。それはなんとも簡単なことで。


 岩手から大阪はとても遠かった。


 スマホは2人で1つしか持っていないし、本はしばらく買っていない。スマホもネットや電話にしか使っていないため、どうすればゲームができるかなど、よく分かっていないのだ。

 そんな暇な15時間を耐え忍び。2人は新幹線から降りてすぐに観光を楽しみ、そのままホテルへと直行したのだった。

 そして次の日。今現在、俺たちはスマホの地図機能と教えてもらった居酒屋の名前を頼りにその居酒屋へと向かっている途中。

 朝食はホテルの近くの店で買ったたこ焼き。本場のだからかは分からないが、とてもおいしく感じる。まあ、とりあえず。口の中は火傷した。

 ダンジョンでステータスが上がってもこういう部分は強くならないんだよな。何故かはよく分からないけど。



「おにい、ここじゃない?」


 電車を乗り継ぎしばらく歩くと地図を見ていたハルが横に目を向ける。


「あぁ、ここだな。ここだよな?」


 そこにあったのは何ともボロボロな店。扉に掛けられた閉店中の看板がそこが店であることを証明している。というか。


「まだ開いてないね」


「よく考えたら居酒屋が朝から開いてるわけないよな」


 そう、ここは居酒屋。

 居酒屋と言えば夕方から夜中が一番の稼ぎ時だろう。朝からやっていたら大変なことになってしまう。


「ここなんだけどな、どうするか」


 最寄りの駅からはしばらく歩いたため、近くに時間をつぶせそうな場所は無い。そもそも開店は夜なのだから時間をつぶすにしても10時間近くつぶすことになる。さすがにそれは暇だ。


「ねえ、おにい。ここって店兼家なんじゃないかな。2階建てで上が家っぽいけど」


「ん、まじで? あ、ほんとだ」


 ハルの言葉を聞いて2階の方を見上げてみるとそこはおんぼろの家っぽい物。さすがに2階も居酒屋なんてことは無いだろう。


「裏に入り口あるか?」


「んー、こっちかな」


 ハルはてくてくと店の裏側の方へ歩いていく。


「ん、ここは居酒屋だぞ。ガキどもが用か?」


 びくっ


 俺たち2人の肩が跳ね上がる。

 それは唐突に後ろから聞こえた声。俺たちも地上でさえ常に察知や把握のスキルを使っているわけではない。それでもダンジョン探索の経験上、人などの気配には敏いのだ。そう思っていたのだが。


「すみません、いつからそこに?」


 動揺を隠してそう聞いてみると、俺たちに話しかけてきたおじいさんはポリポリと頭を掻きながら気まずそうに笑った。


「ここは居酒屋だ。酒を出す店なんだから、ガキがうろついてたら気になんだろ」


 そう、さも当たり前のように言う。ん、そういえば今の話し方からすると。


「すみませんが、おじいさんはこの居酒屋の店主ですか?」


「あぁ、そうだが。それがどうかしたか? 子供に酒は出さんぞ」


 おじいさんはさらに不信感を増したかのように、それであって冗談でもあるかのような口調で話している。


「俺たちの苗字は木崎です。父と、その友人の林賀さんについて、その居場所について聞きに来ました」


 そう正直に告げる。別に隠すことでもないのだから。


「木崎だ? ふーん、そうか、お前らが」


 おじいさんは俺たちを値踏みするように見つめ、そう呟く。その目は鋭く、ハルは俺の後ろに隠れる。いや、ハルは最初から俺の後ろにいたから何も変わらないか。俺が人と話すときはいつも後ろに隠れてるし。


「そうかそうか、お前ら。似てねえな」


「値踏みするような目で見て言うことはそれですか」


 その言葉に思わずジト目になり、そう言い返す。


「お?、はっはっは‼ そのジト目は木崎そっくりだな。で2人について聞きたいんだっけか?」


「はい。父が消えてしまったのでそれの手がかりを探して。林賀さんも手掛かりとして探しています」


「おう、分かった。ならわかりやすい方からいこう。林賀の方だ。あいつはな、死んだよ」


「はい?」


 思わず聞き返す。まさか死んだと言われるとは思わなかった。というか母と言い林賀さんと言い、父の知り合いは死に過ぎではないだろうか。


「理由は俺にもよく分かってねえんだがよ。前の4月に自衛隊の仕事中に殉職だってよ。3人が死んだって話だ。おめえの父親も葬式は来てたぞ。俺の知らねえ嫁さん連れてな。大人だってのにわんわん泣きやがってよ」


 おじいさんはそこで話を止めて、目を拭く。うるっと来たのだろうか。


「あいつらと会ったのは俺が50ぐらいの時だったな。あいつら自衛隊の仕事で大阪に住んでたんだがよ。よく愚痴言いながら俺の店に来てたんだよ。後からよく考えたら俺が聞いちゃいけないような話もあった気がするがな」


 おじいさんはそう言い、豪快に笑う。


「あいつらは仲が良くて、無駄に正義感もあってな。この店も偶に酔っ払いが喧嘩騒ぎを起こすんだが、それを止めたこともあったな。そんなときは俺がビールを一杯奢るんだよ。そうすると、あんがとよ、じじいって。随分生意気なガキだと思ったよ」


 おじいさんは話しながら俺たちを居酒屋の中へ入れてお茶を出してくれる。


「そんな、ことがしばらく続いた後な、2人は優秀だったらしく、俺にゃあ自衛隊がどんなのかなんてわかんねえからそれが理由か分からねえが東京に異動になってよ。俺のとこに来て、また来るわ。なんて笑いながら言ってメールアドレスだけ残して東京に行っちまったんだよ。俺が知ってるあいつらの過去はそんなもんだ」


 そう言うと、おじいさんは何処から出したのか、缶のビールを呷る。


「んで、1年ぐらい前だったな。突然木崎の野郎が近々そっちに行くからなんて言って嫁連れてきたんだよ。前に見た嫁さんと違ったから驚いたが、死んじまって再婚したんだってな。おっと、これは不謹慎か? すまねえ」


「でな、俺の自衛隊生活はこれで終わりだ。俺はこれから平和に生きるなんて言ってビール一杯飲んで帰りやがった。嫁さんは律義に烏龍茶飲んでたよ。これから車運転するからってな」


「で、数か月前だ。林賀が死んだ。葬式は林賀の地元の京都だ。俺も行ったよ。木崎は棺の前で泣きながら、だから言っただろ。なんて言ってたが。とこれぐらいか。俺はそれ以降木崎の野郎は見てねえよ」


 おじいさんは全てを言い切ったようで立ち上がる。


「あの、では父がどこに行ったかは分かりますか?」


 一番大事なことを聞く。ここへは父の昔話を聞きに来たわけじゃない。


「あぁ、それを聞きに来たんだったか。知ってるよ。島根のどっかだ。あいつはダンジョンが大嫌いなくせに、どうにもダンジョンから離れられないらしい。さて、お前らはそろそろ帰れ。俺はこれから寝る」


 そう言うとおじいさんは俺たちの背中を押し、店から追い出してにやっと笑う。


「夜間営業だからな。眠くてたまんねえ」


 ドアがぴしゃりと閉まる。ガチャリと音がして俺たちの家に勝るとも劣らない、ちんけな鍵が閉まる。


「変わった人だったな」


「うん、あと怖い人だった」


 ハルの中ではあのおじいさんは怖い人として映ったらしい。まあ、顔は怖かったが。


「それに、まったく喋らせてもらえなかった」


「それはおにいのコミュ力の問題」


「ハルだけには言われたくない」


 2人で笑う。


「おそらく親父は島根にいる。最後の県になるだろうな」


「うん、それでパスポートを作ってアメリカに行く」


「そうだな」


 もう一度俺は笑った。そんな長い旅では無かったが終わりが見えるとほっとする。北海道ではスタンピードが起きて、岩手では不思議な女性に出会った。大阪では怖いおじいさんに会って。

 あの父が元、自衛隊であることを知った。


「ラストスパート、頑張るか」


「うん、大阪ダンジョン見てからね」


 ハルは元気よく駅の方へと向かう。一度は通った道だ。その足取りに迷いはない。

 さて次が最後の県にして、久しぶりの父との再会。


「しっかりと話してくれよ。出てった理由と、黙ってた理由」


 誰にも聞こえないであろう声でそう呟きながら俺もハルの後を追う。


 兄妹の親探しの旅終了まで、あと1日。


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