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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
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52.北海道連合

お待たせしました。

「皆、知っていると思うけど僕たちは勇者御一行だ」


 勇者御一行の呼びかけにより、他の探索者が集まってくるのを確認してから勇者御一行のリーダー、通称勇者は話し始めた。


「僕たちは今日ダンジョンの森林に潜っていた。その後14層まで戻ってきたときにユニークモンスターと遭遇した。当然そのユニークモンスターは僕たちの手により無事討伐した」


 周りからざわめきが起きる。それは驚きによるざわめきではなく、いつも通りの強さを誇る勇者への感嘆に取るざわめきだろう。今更1体のユニークモンスターごとき、どうってことも無い。


「ただそのユニークモンスターに問題があった。そのモンスターは扇動系のスキルを持っていたらしい。僕たちが討伐するまでの時間にずいぶんの数のモンスターが、そのモンスターの下へ集っていた」


 だんだんと深刻さを増していく勇者の話にダンジョン市場は静まり、皆が勇者の声に耳を澄ます。強者の何とやらというのではなく、これがカリスマなのかと。まあ、尊敬する。


「ユニークモンスターの周囲にいたモンスターは討伐したんだけど、ユニークモンスターの影響はもう少し広がっていたらしくて」


 ここまで言うと勇者は言葉を止め、苦々しげな表情を作る。


「ユニークモンスターのスキルに反応していたモンスターがユニークモンスターを殺しても散らばずに、その矛先を上層へと変えて向かっている」


 ざわめきが広がる。これは驚きのざわめきだ。皆が驚くのも当然だろう。勇者が起こしてしまったのは小規模なスタンピード。14層のモンスターでそれが起きてしまったのだから、それの対処には最低でも中級探索者上位の実力が必要になる。


「さらに悲報を重ねるようで悪いけど、モンスターは上層への道を知らない。その影響で、各階層にいるモンスターのほとんどを引き連れてしまいゆっくりと上層へ上がってきている」


 一時期スタンピードはボスの間のところで止まると考えられていた。ボス部屋の手前と奥は転移でしか移動できない。そしてモンスターは転移陣の使用が不可能なのだ。それが発見されるまでは。

 モンスターはなんらかの条件を満たしたときスタンピードとなり、階層を移動する権利を得る。推測としてはスタンピードは全て合わせて1つのユニークモンスター的扱いとなっているのではないかと言われているが定かではない。

 そしてそんなスタンピード。このモンスターらはボス部屋の出口の広間へと入り、その壁にぶつかる。そしてそのままボス部屋入り口の方の扉の前へと転移するのだ。

 結論から言うのであれば、ボス部屋はスタンピードにとって何の障害にもなりえないということ。

 そしてそれが表すことは。


「このままでは最悪の場合、地上にモンスターが溢れてしまう。最初、ダンジョンが地球上に現れたときのように」


 そう。日本では、最初ダンジョンができてしばらく実験を重ねてから、1度もモンスターをダンジョン外へ出したことが無い。だからこそ地上でのモンスターの脅威はあまり分かっていない。最初はモンスターが弱体化したため被害は小さかった。では今回は? 弱体化はするだろう。しかし。


「今、ダンジョンを上がっているモンスターは最初の時のように1層から4層までの雑魚モンスターじゃない‼ 地上に出してしまったら犠牲は大きくなる可能性が高い」


 モンスターを対処しなければいけないが、モンスターは少数精鋭で対処できるような数ではない。だとすればどうするか。


「皆に助けてほしい。日本を、北海道を、この街を守るんだ‼」


 勇者の言葉はダンジョン市場に一瞬の沈黙を作り、そして。


「「「オォォーー‼」」」


 探索者たちが上げた声は雄叫びだった。漲る闘志と向上心。そして底なしの探求心。人々はダンジョンの中へと財宝を求め、力を求め。そして、未知を求めた。それが探索者。


「皆、出発は明日の朝7時だ‼各自の実力の判断により、戦線は5層より上の各層の階段を上った部分に展開する‼ 皆、行くぞ‼」


「「「オォォーー‼」」」



 ここ、北海道に探索者たちの大同盟が作られた。

 そしてここに空気を読まない2人。


「おにい、私たちどうする?」


「あー、明日の出発は無しにして軽く戦闘しながら様子見といくか」


「そうだね、なんかあっても対処できるし多分負けないでしょ」


 余裕を持った兄妹は焦ることも無ければ、鼓舞されることもない。ただ1つの事実を忘れているだけだ。


「あ、泊まる場所予約するの忘れてた」


「あ、そういえば」


「「はぁー」」





 結局、昨日は少し離れたところにあるホテルに泊まった。まあ、ダンジョン付近にあるホテルは予約しないと入れなかったり、すでにいっぱいだったり、高かったり。そんなんで泊まることができないし。

 だから電車で何駅か移動した先にあるホテルに泊まったのだ。それはつまり。


「ふぁ~、眠い」


 寝る時間が遅くなる。しかも7時にはダンジョンの前にいなきゃいけないんだから。見るだけにしても途中参加は印象悪いからね。印象の良い人より印象の悪い人の方が目立つから注意しなければいけない。

 そして現在時刻は7時。とうとう作戦がスタートだ。


「皆、今日は集まってくれてありがとう。これからモンスター迎撃作戦を始める」


 勇者御一行が舞台に上り、マイクを持って話し始める。周囲はたくさんの武器を持った老若男女がいて、よく見てみるとテレビカメラもある。さすがの規模である。


「まずは僕たち上級探索者が6層以降で、各パーティーごとに遊撃。残りのパーティーが5層より手前で、モンスターを1匹残らず討伐してほしい。順番は強い人から順に奥になるように」


 そこまで勇者は言うと一息吐く。


「もらえるものは何もない。報酬も出ない。それでも、名誉のために、日本のために。行くぞ‼ 作戦開始‼」


「「「オォォァアーー‼」」」


 爆音のような雄叫びと共に金属の擦れる音が鳴り響き、探索者が次々とダンジョンの中に流れ込んでいく。ここまで大量の人が一気にダンジョンの中に同時に潜っていくのは圧巻の光景だ。


 そして。


「じゃあ、俺たちも行くか」


「うん、転移できないしゆっくり行こ」


 最強の兄妹も歩を進め始める。



 ダンジョンに入ると既に周囲には人がいなかった。おそらくすぐに待機場所に移動したのだろう。しっかりと低階層の地図は覚えてきたので迷いなく進んでいく。その道にはモンスターが全くいなかった。不吉な、と普段なら思うところなのかもしれないが。まあ十中八九先に来た探索者が殲滅しているのだろう。

 どうせ、蹴れば死ぬ雑魚モンスターなのだし。

 1層を真っ直ぐと歩いていくとすぐに2層への階段が見える。そこに集まっていた人は数十人。いかにも初心者と言ったような装備を着た人たちだ。装備にモンスターの素材が使われていないことからも5層を越えることすらまだな探索者であることが窺える。

 そのまま降りてくると次は2層から3層への階段。ここにはモンスターの素材を使った装備を着ている人もいる。ただ下の方の階層の装備であまりいいのが無いのだろう。ダンジョン外の装備を使っている人も多く見えた。

 そして4層へ降りる階段。ここにいた探索者の雰囲気はやはり上にいた人たちと違う。おそらくここからが中級探索者がいるのだろう。

 探索者同士で話している人もいるが警戒が抜け目ない。常になんらかのスキルや魔法が動いているのがよく分かった。というか。


「これを見て思ったんだが、上の奴ら無警戒すぎねえか?」


「うん、スキル使ったりしてなかったしね」


 まあ、それができないやつは中級探索者にはなれないということがよく分かった。そして、ちょこちょことモンスターが来ている。1分で3体ほど。もはや、スタンピードなのか通常のモンスターなのかもよく分からなかった。

 じゃあ、そろそろ次の階層に行くか。


「おい、そこの兄妹。下に行くのは止めた方が良いぞ。中級上位の連中がわんさかしてるからな。巻き込まれる」


「あ、そうですか。じゃあ俺たちこれでも一応中級なのでここで迎撃に混ぜさせてもらってもいいですか?」


 どうやら下の層は行かない方が良いらしい。主に注目されるという点で。そしてまあ、年上の探索者の方にアドバイスされたら従うよね。


「じゃあ、ハル。やるか‼」


「ん‼」


 俺たちは気合を入れて武器を抜く。前からはモンスターがこちらに突っ込んでくるのが見えた。そしてそれを。


「てりゃーー‼」


 前にいたおっさんが一刀両断しました。


「おう、坊主。今はモンスター多くねぇから武器仕舞って休んでていいぞ」


 いや、まあその気遣いはありがたいんだけどね。


 兄妹は思った。


 少しは戦闘させてもらえないだろうか。と。



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