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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
1章 貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ
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05.兄妹はダンジョンを目指す

「付与」「魔法」


「「え?」」


 なんとまさかの2人とも後衛という事態になりました。


「どうするか、ハル」


「おにいが無理やりにでも前にでてくれたらいいんだけど。無理だよね」


「まだ様子見てないから分からないけど、火力が足りないんだろうな。そうじゃなきゃ攻撃職がある意味がない」


「ん、職? クラスじゃないの」


「ハルがやってたゲームがクラスって言ってるってだけだと思うぞ。まあ言いやすいしクラスでいいか」


「そうだね。話を戻すけど、私もバール持ってるし前出るよ」


「お、助かる。じゃあ2人で前衛メインに戦いながら状況に応じて魔法を使っていこうか」


「おーけー、じゃああれで」


 不敵に微笑みながら洞窟の先に目を向けると半透明のぶよぶよがいた。この前も見かけたスライムと呼ばれている奴だ。


「ハル、一応聞いておくけど今何の魔法が使えるかわかる?」


「ん?ん~『ボム』だって」


 クラスを決めた後に何故か頭の中で理解していたスキルがあったからハルにもあるだろうかと思ったが正解だったらしい。


「俺は『スピード』ってやつだな。じゃあ突っ込むから補助頼む」


「りょ」


 ハルからの返事を聞いて鍬を構える。突っ込むといっても何の警戒もせずに飛び込むほど馬鹿じゃない。


「『スピード』」


 自分にスキルをかけると僅かにだが脳と体が加速するのを感じる。しかしそのままゆっくりとスライムに歩を詰めていく。

 スライムが縮むのを見て歩を止める。


「せい‼」


 スライムが飛んできた瞬間に鍬を振りぬいた。


「っ‼」


 スライムは振りぬいた鍬に勢いよく当たり横に吹き飛ぶ。と共に鍬を落としそうになる。液体のようなものを叩くイメージだったものの当たった感触はゴムのようで、勢いよく弾かれた。

 しかし鍬にあたって吹き飛んだスライムは壁に当たると弾むこともなくそのまま壁に激突するとべちゃっとした音とともに潰れ、何事もなかったかのように地面に着地する。


「うりゃ」


 着地したスライムに向けてハルがバールを振り下ろすと。バールはそのままの勢いで弾かれ、スライムは何事もなかったかのように地面でプルプルと震える。


「『ボム』」


 ハルのかざした手から弾丸のように光が飛び出すとその光は真っ直ぐとスライムに向かい飛んでいき、当たると同時にスライムの半分ほどを消し飛ばした。一瞬の衝撃だがスライムには致命傷に近いダメージが入る。先程までスライムの体内に漂っていた核が露出しスライムの体積は半分ほどになっていた。


「よいしょっと」


 核が露出し小さくなったスライムなどはもう怖くないので軽く鍬を振り下ろして叩き割る。

 核が破壊されたスライムは黒い靄となって消えていった。


「強くない?」


「そうだな」


 俺たちは初戦闘の意外な大変さに呆然とする。

 2人は知らないがダンジョンではステータスというものがあり、その値で大きく差がつく。スライムは当然のようにダンジョンの雑魚であり、初戦闘だったとしてもクラスが剣の人が斬れば一撃だったりする。

 そんなことを2人が知るのはもう少し先の話。ちなみに既にダンジョン攻略を進めている自衛隊からしてみれば周知の事実である。



「よし。これを繰り返していくか」


「うん」


 1日目ということもありそこまで奥には行かないようにしながらも2人は効率悪くスライムを殺していくのであった。


 あれから4時間ほどスライムを狩ったことで慣れたこともあり今は1人ずつ交代で狩っている。最初はがむしゃらに振っていた鍬も、刃を突き立てて押し付けるように動かせば意外と簡単にスライムを切ることができた。

 もちろん4時間も体力と気力が持つわけがなく、交代で見張りをしながら休憩をはさんだ。他にも途中で1度だけ体に違和感を覚え体が動きが良くなった。なるほど、これがレベルアップなのだろう。

 で、俺たちは今下へ降りる階段の前にいる。2階層への階段だろうけど下にいるのはスライムのような雑魚?キャラではないのだろう。


「帰るか」


「帰ろう」



 1階層は小さくて、10分ほどで帰れた。地下室の下まで戻ると南京錠を外して地下室に上がる。上がった後に鍵を閉めるのは忘れない。ただ、ダンジョンから出たときに力が抜けた気がしたのは上がったステータスはダンジョンから出ると10分の1という奴だろう。


 ハルに武器の手入れを任して俺は夕飯を作り始める。1時間程度の探索のはずが時間を忘れていて時間は22時を過ぎている。武器は鉈は守りに使っただけなので問題は鍬だろう。先端が何度も地面に当たっていたので曲がっているはずだ。とりあえずということでハルには包丁用の砥石を渡しておく。このようなものならこの家は結構充実しているのだ。


 いつも通りの質素な料理が出来上がる頃にはハルも武器の手入れを済ませて戻ってきていた。そこでということで食事を食べながら今日の探索で気づいたことなどを話し合う。

 ダンジョンの情報は国が管理している。そうは言うが最初の事件の時点で判明していたことは情報が流れている。その他にも少しは情報が流れている。人の口には戸が立てられないからね。

 そんなこんなで今まで聞いた情報と比べると疑問がある。

 まずスライムだが普通は一撃で倒せる敵らしい。何故か俺にはできない。ハルの魔法ならできることもあるんだが。そしてアイテムのドロップが無い件。今日だけで2人合わせて結構な数のスライムを狩ったがアイテムは1度もドロップしなかった。

 ゲームだとモンスターが消えた後にその場に残るはずなんだが。それに今までは魔法に関する情報が無かったが『スピード』や『ボム』を使うたびに体に違和感が溜まっていた。そしてそれが一定まで達すると使えなくなる。おそらくだがMPという概念は存在するのだろう。


「考えても仕方ないでしょ。明日は朝から行こうよ」


 ハルは別に気にならないようでさっぱりしている。しかしどうやら探索は楽しかったようだ。確かに気にしていても無駄か。


「よし。明日は10時発で行くぞ。簡単な食べ物作っとく」


「よし」


 ハルは小さくガッツポーズをとる。

 これがダンジョンができても何も変わることのない木崎兄妹の日常である。



 朝、6時にいつも通り目を覚ましネットニュースを見る。が、そこにはいかにもタイムリーな話題があった。


『ダンジョン協会が昨日出した試験型ダンジョン探索の応募を異例の1日で締め切り』


 俺たちは昨日ごたごたして見ていなかったがダンジョンを一般開放するらしい。しかし一般開放とはいってもいきなり無制限に入れるのでは治安や法整備が整わないため、抽選100人ということでダンジョン探索がしたい人を募集したらしい。

 ただしどういう意図かは知らないが期限未定だったものが、昨日から今日までの1日で締め切られてしまったらしい。で、明日までに抽選がなされて当選した人は3日後から2週間の講習。で、そこから1ヶ月探索ができるということらしい。


「まあ、俺たちには関係ないか」


 ひとり呟き朝食を作り始める。すぐにハルも起きてきて、準備を整えてから。

 俺たちはダンジョン探索2日目を始めるのだ。



「じゃあ今日は2階層探索をしよう」


「1階層の道は覚えてるから、それまでは俺に狩らして」


「うーん。まあいいか。その方が効率いいしね」


 昨日の時点でお互い何が向いているかはよくわかっている。俺は音を立てずに急所を狙い一撃で仕留める形だが、ハルは派手な魔法とバールの打撃を使った力業だ。

 今日の目標は2層探索なのでハルにはMPを取っておいてもらっている。大事な場面で使えなくなったらまずいので、俺も『スピード』の付与なしでの戦闘だ。

 とは言っても昨日のレベルアップであろう感覚のあとから体がとても動きやすく正直スライムごときでは敵じゃない。最初に『スピード』を使ったときの速さとレベルアップしてからの速さが同じくらいな気がするのだ。

 周りを警戒しながらも危険はなく、2階層への入り口はあっという間についた。


「2階層はとりあえず様子見で、けがをしない程度に進む」


「じゃあ、私もボム使うからね」


 ハルはバールで素振りをする。ハル曰く魔法を使うときは手から使うより何かを通して使う方が簡単らしい。ハルの場合はバールが杖となるわけだ。


「よし、行くぞ。『スピード』」


 俺も鍬を構えなおし自分とハルに付与をし、2階層探索を始めた。


 歩くこと十数秒。最初に見たのは緑色の子供だった。いや、その顔は人間にしてはあまりにも醜悪だ。


「ゴブリンだよね」


「俺が前衛。補助頼む」


 役割を一瞬で決め、ゴブリンの顔めがけて鍬を振り上げる。ぎりぎり横に躱されてしまうが、そのまま横に薙ぐようにして鍬を腕に絡めて動きを止める。それと同時にゴブリンに光が飛び爆発が起き、ゴブリンは倒れる。


「終わったか。ハル、どうも、っ‼」


 後ろから気配を感じ振り向くと目の前にはゴブリンのとがった爪が見える。後ろに跳びながら右手で顔をかばい手が薄く切れるのを感じるが勢いに任せて左手で腰の鉈をぬき、振り下ろす。


「ギュエッ」


 ゴブリンは頭を割られ、情けない音と共にあっけなく死んで黒い靄となる。


「おにい、大丈夫‼」


 慌てたハルが近づいてくるのを見て先ほど切られた腕を見ると薄く血がにじんでいる。よかったとほっと息をおとす。血は出ているがその程度ということだ。

 これならば縫うどころか適当に処置をしておけば治る。感染症は気になるがどちらにしろ金は無いのでまずくなったらでよい。念のためにしっかりと処置はするが


「ハル、俺の鞄から水と包帯出してくれ。あとテープも」


「え、あ、うん分かった。これとこれと、これね」


「ありがと。傷は浅いから心配しなくていいぞ」


 話しながらもさっさと応急措置をしていく。傷口に水をぶっかけて洗い流した後、包帯を巻いてテープで止める。


「おにい、今日は帰ろう」


 ハルは心配そうにしているが問題はなさそうだ。


「少し痛むだけだから問題ない。武器は振れるからもう少し探索を進めよう」


 俺としては少しの痛みより目の前の楽しみを優先する。奥から2匹目のゴブリンが来るのを見つけると、にやりと笑い鍬を構える。


「次は油断しないから。大丈夫」


 勢いよく前に踏み込んで胸に向かい鍬で突きを放つ。もちろん突く場所には刃はついていないので押すだけになるがそのまま下におろした鍬で後ろに下げる足に引っ掛ける。


「よいしょっ‼」


 ハルがタイミングよく足を引っかけられバランスを崩したゴブリンの頭をバールで殴る。倒れこんだゴブリンの首に鍬の刃を当てて引く。


「グ、ギャ」


 首が体と離れることは無かったとしても深く首を斬られては死ぬ。今回は油断せずに黒い靄になるまで待ち、しっかりと周囲を確認してから息を吐く。


「戦い方は分かったし次は私も前衛で入るから」


 少しずつ進みながら次は魔法を使わずにハル主体で戦っていく。奇襲に使いやすい鍬と違ってハルの使うバールは殴り合いに適しているのか、俺ほどは動かないで戦うことができた。


 このようにして2日目を終えるころには二人ともスタイルを確立することができた。

 これにより相当楽に戦うことができるようになり、ついには、5日目にして2層もクリアしてしまった。

 気になったこととしては少し簡単すぎることだろうか。どうなっているのかは分からないが翌日には3層に行くことになっている。

 また何か違うことが起きるかもしれないので、

 明日も気を引き締めていこうと鍬を振った姿は自然と似合っていたのだった。


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