49.兄妹は親父と話す
親探しをするとは言っても何からすれば良いのかがさっぱり分からない。
巷の探偵に頼むということもできるのかもしれないが、そういうのは大体が値段が高い。
別にレベルを少し上げるだけでリムドブムルが倒せるというのなら親を探す必要もないのだが、昨日の戦いから考えると、まだまだレベルが足りなさそうだ。
「とりあえずは、電話か?」
「うん、というか普通は考える前に電話すると思う」
書き置きだけ残して消えた屑親父も一応親だ。電話番号やメールアドレスぐらい持っている。
「じゃあ電話掛けてみるか」
家の電話を手に取り、慣れたものの、久々にかける番号を押していく。
プルルルル プルルルル
『んだよ。俺の番号知ってるやつはよ。誰だてめえ』
「おめえこそ誰だよ。人格変わりすぎじゃねえの? 親父」
電話に出たのは聞いたことが無いほど口が悪い、親父。いや、前まではこんな口が悪くなかったんだが。
『んあ? お前冬佳か。久しぶりだな。元気か? 飢えてねえか。金がねえって連絡が来るかと思ったんだが来ねえからな。俺も金ねえけどよ。にしてもこの電話番号は新しいな。電話買ったのか?』
「何も手を付けてなかった倉庫の方に引っ越したんだよ。あのまんま高いアパート代払うのもきつそうだったからな。電話はそこで買ったんだ。飢えてもねえよ」
『おーそりゃあ良かった。なんだかんだで心配してたんだぞ。書置き残したとはいえ、お前ら1度も連絡取ろうとして来なかっただろ。バイトとか平気だったのか?』
「意地でも連絡取らないでおこうかと思ったんだけどな。バイトは親父が持っていってなかった印鑑使ってごまかしたり、事情説明したら分かってもらえたりだな」
『おー、やっぱ印鑑忘れてたか。それに、お前いつの間にか俺のこと親父って呼んでんじゃん。どうした、お父さんは卒業か?』
少しイラっときた。ここは少し制裁と行きますか。
ハルを手招きで呼び寄せ一言伝える。
「親父、そんな親父にハルから一言あるらしいぞ。聞いてやれよ」
『お、なんだ。可愛いハルよ』
ほいっとハルへ電話を渡す。言ってもらう言葉はさっき伝えた。いけ、ハル‼
「きもい、死んで、屑」
『ガハッ』
「うわ、えぐっ」
ハルから電話を返されながら思わずそう呟く。いや、俺が言ってほしいって頼んだのは、きもい、だけだから。さすがに女の子に死ねとか屑とかは言わせない。もう手遅れだけど教育上よろしくないし。親父のダメージはでかそうだが、まあいいか。
「ハルの本心が聞けて良かったな。で、用があったから電話した。今どこだ?」
『良くねえわ‼ で、いる場所か? それは冬佳であっても言えねえな。今は嫁さんと楽しく暮らしてんだからよ』
あー、女に騙されて貧乏してると思ったらそうでもないのね。
「そういえば思ったんだが、嫁さん。俺たちの義理の母になるのか?は、俺たちを放って家を出たこと知ってんの? 隠してるなら知られたらやばそうだが」
『ん? 知ってるぞ。第一家を出るのを提案したのも嫁さんだしな。さすがに全財産持って出たのは俺の独断だけどな。まあでもアパートとか、持っていけないものは権利譲っておいてったから良いだろ。と、もう結婚したから義理の母だぞ。会わせる気は無いがな。俺の居場所がばれる』
「親父と結婚した相手が可哀想だと言いたいがその分だと普通に生活してるっぽいな。で、居場所は教えられないと」
『まあ、諦めろ。ダンジョン探索で稼げば良いんじゃねえの。そっち方向の話だろ?』
「違う。じゃあ、こっちで勝手に捜させてもらうわ。ちなみに奥さんの特徴は」
『お、お前も義母が気になるか? 可愛いぞ。元シングルマザーでな、子供は超絶美女で1年ぐらい前に大学進学で家を出たらしくフリーになったんだとよ。で、子供がいなくなって暇だからパチンコとか競馬に通ってたら嵌まっちゃってお金が無くなったと。今じゃあ両方とも止めて、俺とテレビのない部屋で仲良く生活してるぞ』
「あぁ、そうかよ。じゃあな」
『おう、そこの家には近寄らねえから安心しとけよ。ハルに捕まったら殺されそうだし。じゃあな』
ブチっと音がして電話が切れる。なんとも残念なことにあの糞親父は楽しく生活を送っているらしい。そして案の定どこにいるかも教えてもらえないと。まあ、教えるんだったら書置き残して消えた意味が無いからな。
それにしても家から消えたのが嫁さんの方が言い出したとは意外だった。で。
「ハル、しっかり録音できたか?」
「ばっちり。解析してくよー」
俺たちは当然居場所が教えてもらえないだろうからと最初から電話の音声を録音していた。少しでも居場所の参考になればと思ったのだ。
逆探知とかできないし、解析って言ってもそこから親父の声だけ抜くなんて高等技術はできないから、音量を上げて何度も聞くだけだ。
「じゃあハル、再生してくれ」
「らじゃあ‼」
これだけで見つかるとは思ってないが情報ぐらい手に入れさせてもらうぜ。電話をしていた時の感じ野外ではあるっぽかったからな。
「うーん。情報が出過ぎて少し怖い」
「いかにも騙されてるんじゃないかってぐらいには分かったな」
結果。解析などと言っていたが居場所は簡単に分かってしまった。というか本当に親父は隠す気があったのか。
俺たちが聞いた音声の中には金属の擦れるような音や、いかにも人がたくさんいるようながやがやとした感じ。それでいて客呼び込みのような怒鳴り声は聞こえなかったから祭りの可能性も低い。というか午前中なんだからまだ、祭りをするには早い時間か。
そして、たまに聞こえるゴブリンとか狼とか言ってる声。これはダンジョン関連確実だろう。
さて、そうなればダンジョンに行ってみるしかない。今までの感覚からすると東京ではないだろう。となると親父がどこに行きたがるかを考えながら、推測するしかない。
「ハル、とりあえず全国のダンジョン回ってみるか?」
「うん。会いたくもないけどパスポートのため。1週間ぐらいで全部回れる?」
「いや、初めての2人の旅行ということでゆっくり回ろう。1つのダンジョンに1日ずつぐらいでな」
「うん。楽しみにしておく」
そうして俺たちは午後のダンジョン探索そっちのけで旅行の計画を練り始めるのだった。
 




