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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
3章 貧乏兄妹は強さを求め龍狩りへ
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48.兄妹は強敵にストレスを発散する

一昨日に新しい宝具を試してから特に新しくすることも見つからず、現在はいつも通り何をするか考えながら昼食を食べている。


「そもそも最終目標はアメリカに行くことでしょ?」


「そのための資金とか情報とかステータスとか色々分からないんだよな」


「値段は調べてみたんでしょ。飛行機の値段ってどれくらい?」


アメリカには当然日本より多くのダンジョンが存在しており、それは都市部に集中している。現在一般人に公開されているダンジョンだけでも30近く存在し、ハワイなどは観光客から人気と言われている。

そしてさすが自由の国、アメリカ。ダンジョンに入る条件が日本と比べると低い。というより身分を証明できれば大丈夫とそれだけのところが多いのだ。いささか安全の管理ができていないのではと思うほどに。

ただ、それにも対策がある。ダンジョンに入るときに入場料を払わなくてはいけないようにできており、値段が高い代わりに防犯がしっかりしているダンジョンもあるというわけだ。

一般人が入ることのできるダンジョンの中で一番警備がしっかりしている物を例に出すのならばアメリカ国籍で無ければいけないし、自分がお金を払って行ってもらう身辺調査に合格しなくてはいけない。犯罪歴が1つでもあれば駄目だし、常に同様の基準を満たした連帯責任者を置かなくてはいけない。

まあ俺たちは入ることができないというわけだ。日本国籍だし、アメリカ国籍の知り合いもいないから。

また、これとは反対に入ることは簡単だが警備がしっかりしているダンジョンもある。

それがハワイなどの観光地などにできたダンジョンだ。ここらは観光客を入れることも大切になってくるので、警備を強化しながらも入りやすくする形をとっている。

さすがに警備の内容はあまり調べられなかった。最も警備が厳重なダンジョンも実際の規定はこれどころじゃないらしい。


と、まあ。そんな感じで。一番安全を考慮しながらダンジョンに入ろうと思うのならハワイなどが良いことが分かる。しかし俺たちの目標はそれではないのだ。


「リムドブムルを倒した傭兵団がいるダンジョンはニューヨークだったよな。観光地といえば観光地だがダンジョンの治安はそこまで良くはない」


「目指すはそこだよね。ニューヨークまでの飛行機は?」


「15万しない程度だが、それが一般の場合なのが問題だよな」


「武器も持ってかなきゃいけないからね。経由便は無いの? そっちの方が安いとか」


「あー、調べてみる」


昼食の残っている部分をさっさと食べ切るとパソコンを開き値段を調べる。

確かに経由便だと安く行けるらしい。一般であれば。


「無理そうだな。武装航空機に乗ろうとすると直接の方がまだ安い」


ダンジョンが公開されてから増え続けている武装航空機。人に加えダンジョン探索用の装備を運ぶことができる飛行機だ。

ただこの飛行機は装備などの重さがあるため、乗せられる人数が減ることや大量の警備が置かれること、入国に掛かるお金が高くなることなどの影響で、普通の何倍もの値段が掛かってしまうのだ。

日本からニューヨークまで片道50万円ほど。往復すれば100万にもなってしまう。ちなみに経由便にしてしまったらプラスで10万以上は掛かりそう。

俺たちが魔道具を売った時のお金は剣術を習うことや、必要なものを買うためにまあまあ無くなってしまっている。そんな状態でアメリカなどに行ったらまたお金が無くなってしまうだろう。


「また何か売って稼ぐ?」


「最近はある程度売って、目を付けられかけてる気がするからしばらくは止めておきたいんだよな。ネットで誰が出品したのか探るようなことが書かれてたからな」


「そっか。私たちの強さってぎりぎり黒狼に勝てる程度のぎりぎり中級探索者レベルだと思われるようにしたもんね」


「2人で黒狼に勝ってるからもう少し高く思われてるとは思うが、あまりアイテムを出せるようなレベルではないはずだな。そろそろ出品は危うそうだ」


「いっそのこと強力な探索者として公表しちゃう?」


「それでもいいが、強くなった方法を追及されたり半強制的に仕事としてダンジョンに潜らされるかもしれないぞ。それこそ今の5強みたいにな。それだと楽しめないだろ。探索しては報告書を書かされて、テレビカメラに向かって愛想笑いを浮かべる生活とか」


「あ、絶対無理。じゃあ、資金やりくりも大変だなー」


「そうだなー」


2人でぼんやりと金銭面について考えながら装備を着る。装備を、あれ、そういえば。


「ハル」


「ん? 何?」


「海外行くのにパスポートってどうすりゃいいんだ? 保護者いないけど」


「あ」


俺たちは頭を抱えることとなった。パスポートが無ければ海外には行けないし、パスポートは保護者がいなければとることができない。さらに言うのであれば。


「ハル。中卒2人だから英語全く分からんぞ」


「あぁー、はぁ」


2人は前途多難である。


「となればまずは」


「糞親父が消えてパスポートが作れなくなったストレスを」


「モンスターたちに」


「「処理してもらいますか」」


そして、前途多難な兄弟のストレス発散の方法は。

哀れなモンスターたちの殲滅なのであった。




「最近思うんだが、この刀って切れ味悪くないか?」


「いや、知らないよ。私トンファーだし」


グギャアッ


ギャグッ


俺たちが話している場所はいつも通りの森林。ただ、そこは既にストレス発散に使われた後であり、見るも無残な姿になっている。

強力な魔法禁止の縛りを掛けて森林を荒らし回る兄妹。

ハルはボムと亀裂で、俺は強斬とスピードとパワーでモンスターと木々を倒している。

その影響か既に立ったままの木はほとんど無くなり、頭上のリムドブムルが良く見える。

優雅に空を舞い、何事も無かったかのように軽く吠えるその姿は、ストレスを発散している今の俺たちとは対照的だろう。何も悩み事が無いように見える。


「ねえ、おにい。なんか空に良いサンドバッグがあるんだけど見えない?」


ハルがリムドブムルを指さしそんなことを言う。普段なら馬鹿言ってんじゃないとでも言うところだが。


「あぁ、ほんとだな。どうせなら落としてみるか。サンドバッグだしな」


そんな戯れ事を話しながら向かうは洞窟の入り口。そこは逃げ場。

視線は上へ。標的確認。


「大鎌、無形の鎧」


「モーニングスター、液体魔力」


俺たちは新しい宝具を試した後、家に帰ってから名前を付けることにしたのだった。名前があるとイメージしやすいことや、前回のように形あるものではないため、分かりにくいから。というわけでつけた名前が、無形の鎧と液体魔力。

形のない、どんなものにでも魔力の鎧を着せることができることから無形の鎧。普通の魔力より長持ちし、強い威力を誇る液体の魔力から液体魔力というわけだ。


「さていくよ。『亀裂』『剥離』『崩壊』」


現れた液体魔力はモーニングスターの影響で威力を増し、大きさを増していく。

魔法合成と暴走により、3つの魔法が1つになり、荒れ狂う。


「最後に。『インパクト‼』」


液体魔力に込められた3つの魔法に別の属性の魔法が加えられ、勢いよく燃え上がる。


「いけー‼」


ハルが頭上に掲げたモーニングスターを振り下ろすと共にその巨大な火の玉はリムドブムルへと飛んでいく。

その大きさ故か速さはそこまで速くない。躱そうとすれば容易に躱せるだろう。しかし相手はリムドブムル。


「知識としての痛みは知っていても実際に経験は無いよな」


リムドブムルは飛んでくる火の玉を気にせずに空を舞う。痛みを知らないから。

危険度のないものをわざわざ躱す必要はない。ただ、今回の魔法は今までとは違う。


頭上で大きな、ただし一瞬の爆音が鳴り響いた。

インパクトの爆発の音。その爆発が別の魔法に飲み込まれていく音。


「ギュギャヤアァーー」


続く音はリムドブムルの悲鳴とパキパキと空間が崩壊していく音。


「よし‼いいダメージ。次はおにいどうぞ」


「どうも。俺の方がしょぼいけどな。『ショートカット』」


俺の体は付与により光り、リムドブムルにもアンプロテクトの魔法が成功したようで、暗い光を発しているのが見える。


「まずは1段階目、成功。『支配』」


自分の中や周囲の魔力を完璧に支配し、同じ魔法を発動直前の形で留めたままいくつも重ねていく。

その魔法はバインド。本来は敵の動きを少し制限するだけの魔法。

ただ、支配で重ね、威力を上げた魔法。それが鎧を纏ったらどうなるか。


リムドブムルはハルの魔法を受け、翼をボロボロにして高度を下げている。


「十分に射程圏内だな。初めてやることだが、ついでに実験させてもらうぞ。ハル‼」


「分かった‼」


ハルはマジックポーチを開くと大量の牙や角を取り出す。強さは様々。ダンジョン低階層の物から森林のドロップアイテムもある。


「行くぞ‼」


大鎌の刃を地面に突きさす。視界にしっかりとリムドブムルを収め、座標を合わせる。

そして。


「『錬金‼』」


支配を使っている今、詠唱に意味は無い。ただ、こちらの方が集中できる。

リムドブムルが飛ぶ正面の地面から一気に大量の茨がとび出す。当然のことながら、茨と俺は魔力でつながっている。つまりは疑似的に茨に触れているということ。ならば、ぶっつけ本番。

俺の近くにある金属が勢いよく消えていく。2段階目も成功だな。


「グギェギャァーー」


大量の茨がリムドブムルの鱗を削り、剥がし、肉すらも抉りとる。


「鉄の茨は成功だね」


「あぁ、だが。少し威力不足か?」


普通はすることのできない別系統の素材への支配を使った強制的な金属の錬金。

多量の魔力と金属を使用するために攻撃のコストが異常に高い。

その代わり、今の結果を見ても分かるが遠距離攻撃の貫通力は俺たちが使えるものでは現在最強だ。

それをまともに食らったリムドブムルの翼は、穴だらけになり片方は無くなっていたため、飛ぶことができなくなり、その体は傷だらけになっていた。ただ。


「おにい、残りの魔力は?」


「もうすっからかんだな。頭痛がヤバイ。ハルもだろ」


「うん、液体魔力にさらに魔力も乗せちゃったから。これで殺せないってなると完全に威力不足だよね」


「だな。帰るか」


そうハルに確認を取りながらリムドブムルに向けて全力で大鎌を投げつける。

大鎌はぐるぐると回転しながら勢いよくリムドブムルに突き刺さり。


「ギュアギャーー」


吹き飛んだ。空高く大鎌が飛んでいくのを見て宝具を解除する。空を舞う大鎌は俺が解除したことにより消える。既に無形の鎧は魔力不足のため消えており、これで宝具は終了だ。


「あー。残りは近接で、っていうのも駄目そうだね。あれは。はぁ」


ハルの視線の先はリムドブムル、の周囲の地面。

そこは大きく抉れており、まるで隕石でも落ちたかのようだ。そしてその中心には翼が無くとも2つの足で立ち上がり、雄叫びを上げるリムドブムル。


「近接でも勝てないな。帰るか」


無理な戦闘はしない。撃ち落とされてなお、地面をえぐり取るほどの魔力が残っているのだから勝てるわけがなさそうだ。ただ収穫と言えば。


「リムドブムルは魔法技能系モンスターだね。ガン・セーンの逆だよ」


リムドブムルの弱点。魔量が多いと魔法が効きにくい。強度が高いと物理攻撃が効きにくい。

つまりリムドブムルは近づけさえすれば勝てる可能性はぐっとあがる。


「まあ、それができたら苦労はしないんだが」



「はぁー帰ろ。疲れたからお腹すいちゃった」


「今日の夕食は早めにするか」


兄妹はさっさとあきらめて帰る。どうせ目的はストレス発散だったのだし。

さて、次の目標は。

親探しか。

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