43.兄妹はリムドブムルと邂逅する
モンスターが急速に迫ってくるのを感じながらハルの場所へと戻る。
ハルの周囲の地面は焼け付き、いくつか駄目になっているアイテムも落ちていた。まあ、これは前からあったことなので仕方がない。
「ハル、強くなったからって呼びすぎだろ」
「まあいいけど。俺ももう少し乱戦で試したいことがあったからな」
今寄ってきているモンスターは一方向にインパクトを撃ったため、今までのような全方向から来ているわけではない。
その代わりにモンスターが全て一つにまとまっていて。そんな光景を目の当たりにしてしまった俺たち兄妹は。
「まるで雪崩だぞ。自然災害かよ」
「あれ、ユニーク混ざってない? ほら右奥の熊」
「あぁ、いるな。あ、今あいつ木投げたぞ。飛距離足らなくて前にいたモンスターがつぶれたが」
「うわぁ、同族殺しだ。ひどーい」
案外余裕だったりする。
先程のように最低火力でちまちまと狩っていればすぐにあの数に呑まれてしまうだろう。
だが俺たちの殲滅における基本戦術は戦術とも言えないような火力を使ったごり押しだった。それも力が伴えば強力で。
「ハルは攻撃の準備をしててくれ。俺がまとめる。『アンプロテクト』『バインド』」
俺の座標を使用したアンプロテクトで硬そうなモンスターだけが防御力が弱まる。
そこにバインド。勿論使い方は敵の拘束ではなく移動範囲の削減。
モンスターの群れが動く両側に点々と茨を生やし、モンスターを一か所にまとめていく。
進行方向にある木はモンスターの勢いと重みで倒れるほどだった。
「ハル、頼む。『パワー』」
「分かった。『インパクト』『ディカプル』」
「『チェイン』」
ハルの使うインパクトにチェインを使いさらに攻撃範囲を広げていく。
そして狙うは一塊になってこちらに近づいてくる大量のモンスター。
「ごぉー‼」
ハルがトンファーを前にかざすと共に10の光の玉がモンスターへと飛んでいく。そして。
ドォォオーーン‼
これまでにないほどの大爆発が響き渡る。
その爆発は木々さえも宙に舞い上がらせ、天高く煙が上がる。
ゾワッッ
ぞっとするような寒気と共に周囲の魔力が揺れ動く。
スキルや魔法の規則性のある動きじゃない。ハルの使う魔力操作のような。それであって、操作ではなく強制的に押し流すような暴力的なまでの魔力。
そして、その魔力の流れは上から来ている。
「『スピード』『ガード』ハル、逃げるぞ‼」
自分とハルにスピードとガードの付与を掛けて走り出す。
インパクトの大爆発が起こした砂煙。空高く舞うその煙の中に巨大な影が浮かび上がる。
巨大な翼と長い尻尾。それは当然のごとく、以前襲われることとなったリムドブムル。
「グギャーーー‼」
その雄叫びは以前のように魔力を乗せて、一瞬で砂煙を吹き飛ばした。
「絶対に止まるな‼時間を稼ぐぞ。『スロー』『スロー』『スロー』」
俺の使ったスローも相手の魔量故だろうか。弾かれてしまうため重ね掛けしていく。
少しだけリムドブムルの速さが遅くなる。
「『障壁』と、これでもくらえ‼」
ハルも魔法を繰り出す。リムドブムルの前に現れた障壁は一瞬で破壊されるが。破壊すると同時にいくつもの見えない玉がリムドブムルにぶつかる。
「おにい、魔弾成功」
ハルはグッジョブのポーズをしながらも走り続ける。
森の入り口、螺旋のある洞窟が近づいてきた。が、リムドブムルが口を開く方が速かった。
「おにい‼ ブレス来る」
「っ‼ もうかよ。大鎌‼」
俺の手の中に大鎌が現れる。
「『パワー』『チェイン』」
攻撃を上乗せしていく。洞窟はあと少し。だが足りない。
「ハルは下がれよっ‼」
ハルを洞窟の方へと押し込み、俺は走りながらもしっかりと大鎌を構えなおす。
「グギャーーー‼」
「せぇーいりゃーー‼」
襲い掛かる魔力の荒波をしっかりと空間把握で把握し、丁度のタイミングで魔力の荒波の隙間へと差し込むように大鎌を振り抜く。
ブレスは振るわれた鎌により真っ二つに割れ、近くの木々をなぎ倒す。
俺は押し出されるような感覚と共に体が洞窟の方に追いやられ、されどしっかりと着地を決める。
「おにい‼」
「大丈夫だ、上に上がるぞ‼」
俺たちは次の攻撃が来る前にと逃げるように森の階層を後にするのだった。
「はぁーー」
俺たちは階段の途中に座り込みため息を吐く。
思ったより爆発が大きかった。地上でのどんちゃん騒ぎを気にしないリムドブムルでも、さすがに唐突に煙に包まれたら怒るだろう。
「まぁ、リムドブムルが怒る条件が明確に分かったのは得だけどな」
「システム的なものじゃなくて怒らせたら、みたいな曖昧なものな気がする」
「だろうな。本当にアメリカの人たちはどうやってあれを倒したんだよ」
未だに分かるリムドブムルとの大きな力の差にリムドブムルを倒した人の正気を疑う。
そういえばリムドブムルが倒されたってのは知ったが、それの詳細は全く調べていなかった。帰ったらそれも調べなければいけない。
「今日の儲けはゼロだね」
「何も回収してないからな。ユニークモンスター倒したのに」
俺が倒した鳥のユニークモンスターとハルが倒した熊のユニークモンスター。鳥はともかく熊は強そうだったのでいいドロップが期待できそうだったのだが、今から取りに帰るのは無理であろう。
ドロップアイテムと引き換えに自分の命を置いてくることになりそうだ。
「今日は帰るか」
「うん。帰ろ。なんか疲れた」
俺たちは森の入り口から転移するのも怖いので長い階段を上り、15階層出口から1階層に転移するのであった。
そして家に戻り。
「あぁあぁあぁ」
ハルが変な声を上げている。その視線の先にはパソコン。俺が昼ご飯を作りハルがリムドブムルについて調べているのだ。
「どうしたー、ハルー。馬鹿みたいだぞ」
床に寝っ転がり、変な声を上げるハルにジョークを交えつつ注意する。いや、ただの暴言か?
「おにい。アメリカのリムドブムル討伐の情報あったよ。というか私たちが昨日見たサイトに書いてあった」
「何て書いてあったんだ。どうせ、倒した人のレベルとかは無いんだろ」
「うん。だから情報はあんまりないけど。順番に説明するね」
まず1つ目として倒したのはアメリカの傭兵団体の1つ。活動をダンジョン内へと広げ、現在アメリカ最強、世界最強と言われており、国と協力関係を結びながら探索を進めている。
傭兵団体の人数はそこそこ多く、レベルが40を超える人だけでも20人は軽く超える。この時点で日本との実力の差が窺える。
まあ、日本も隠れているであろう自衛隊が活動を公にしたらどうなるのか分からないけれど。
技術的な面とかアイテム的な面とか、どうしても市場を見ていると生産系技能を持っていて、なおかつ俺たちよりレベルが高いような人がいないとおかしいのだ。
俺たちの家のダンジョンで得るのが困難であろう物が普通に市場に流れていることがある。そういったものは皆、1億を超える高額商品になってしまうが。
話を戻し、リムドブムルを討伐したのはその傭兵団の16人。国が保有するあるスキルとやらで、それがダンジョンのルール違反にならないようにはなっていることが分かっているらしい。
つまりはガン・セーンの時のようなことは起こらないということだ。
そして最後に、リムドブムル討伐に参加したのは16人であり、帰還者は13人。戦闘中に3人が戦死したことが分かっている。
ただ、情報はこれだけ。
「分からないことだらけだよな。傭兵団体の強さはどれくらいだ?」
「なんで16人で戦ってるのにルール違反にならないのかな」
「そもそも国の保有するとあるスキルってなんだ?」
「状況的に念入りな作戦が取られたはずなのに3人も死んだのはなんで?」
2人そろって黙り込む。俺たちのダンジョンに関する知識はほとんどが自分たちがダンジョンに潜って知ってきた。
俺たちのダンジョンはこの家だけで成り立っているとも言えるだろう。
だが、だからこそ、周囲を知らなさすぎる。
普通の探索者だったらこれでもいいのだろうが、俺たちは一応あの5強よりも強いのだ。
情報弱者。そんな言葉が頭に浮かぶ。俺たちの現状は脳筋で、だとすれば。
「1回自分たちの探索以上に情報を集める必要があるかもね。幸いお金はあるし」
ハルがぽつりとそんなことを言う。その通りだ。社会に出回る情報は限りがある。現地でしっかりと聞いて、隠すことのできない人の口で情報を知ることが必須なのだと思う。
だとすれば。
「だとすれば、現地調査ってことになるのか。どちらにしろいずれはやらなきゃいけないんだよな」
「2人だけの初めての旅行かな。私も調べておくよ。だとすれば私たちの目標を一言で言うなら」
「「情報と力を求めて、アメリカへ」そんなところか」
「よし、今日から少しずつ調べていこ。と、その前に」
「腹が減ったし、昼ご飯食うか」
俺は作り終わった昼ご飯を食卓に並べる。
「「いただきます」」
新しい目標の定まった木崎家はいつもより少し明るい食事を楽しむのだった。




