41.兄妹はダンジョンに舞い戻る
8月1日、日本に10個のダンジョンが出現した。
その現象は世界中で起きていて、世界は大混乱に陥った。
とはいえ、それも一時的なもので、それから1年が経つ今では、どこの国も安定し、軍に潜らせたり、民間に開放したり、中のものが一定期間で消える習性を利用してごみの処理に使われたり。
他にも放射能による汚染物などの危険物の処理に使われたりと、ダンジョンは様々な点で利用されてきている。
最初は分からないことだらけだったダンジョンも、日を重ねるごとに分かることが増えていき、それでも情報が足りないと各国が判断しついに先月、ダンジョン探索を進めている十以上の国が集まり情報交換の会議が行われた。
自国の探索がどれほど進んでいるかは言わないものの、市場に流れている物を見れば大体は分かる。
現在だと、1位にアメリカがいてその次が日本や中国だろうか。そのためこの会議はアメリカから情報をもらうという面が強くなってしまった。
また、日本で行われた素質スキルのランク付けは好評で、他国でも行われるとのことだ。
その中でアメリカのS級素質スキルを持つ1人が発見したことでアメリカはダンジョンの仕組みについていくらか理解を得ているらしい。
その中でも他国に教えても問題ないような内容が伝えられた。
ダンジョンにはシステムが存在し、明確なルールが存在すること。これには4人を超える人数での探索などが含まれ、ルールを無視した行動をとるものはダンジョンからの恩恵は与えられない、ということだ。
つまり、ダンジョンに初めて入るときに5人以上で一緒に入ってしまった探索者は、最初の技能を得る前に5人でパーティーを組んでいると判断され、ダンジョンの恩恵である技能の取得すらもできない。
またダンジョンにはヘイトなるものが存在し、特定のモンスターを狩り続けたりすることで徐々にそのヘイトが溜まっていき、ユニークモンスターやスタンピードなどが起こる。
また、ルール違反を行うとこのヘイトが異常な速度で溜まっていき、その影響から、多量のユニークモンスターや、スタンピードを起こしてしまうこともある。
世界各地ではダンジョンができた日に、民間人や軍の人が潜入し全滅などをしてきたのは、これの影響だと考えられた。
ダンジョンの中にルールを無視したパーティーがいくつも現れたのだ、スタンピードやユニークモンスターなどがいくつも発生してしまっただろう。
とっさに銃を構えても撃つことはできないし、警棒などで戦おうとしても技能の補整すらも無いのだから、あっという間にモンスターの群れに飲み込まれたということだ。
また、ダンジョンのボスやユニークモンスターには意思がある。人間ほどの思考を持つものもあればそこまでは考えられない、知能の高い動物程度の知能のものもいる。
だが、意思を持っているということはその分予測ができないということであり、さらにはユニークモンスターは階層の移動までできるということから、ダンジョンから解放されたものと呼ばれている。
会議は順調に進んでいき、各国はダンジョン探索において必要な知識を得ることができた。
話は日本に戻る。あの日俺たちがデュラハンもどきのガン・セーンを倒してから2週間ほどで無事に、人化牛を倒し森林にたどり着いた。
これが日本のリムドブムルとの初めての出会いというわけだ。ただ、民間に伝えられたのはドラゴンがいたということだけなので正確にはリムドブムルなのかは不明だが、今までのダンジョンを見ていると全てのダンジョンが同じような仕組みを持っていると判断して間違いはないだろう。
そして、強い探索者の二つ名騒ぎの時にできた呼び方で、最初の5パーティーを指す5強という言葉ができた。
この5強のうち勇者御一行を除く4パーティーも次々と人化牛の討伐を成功させた。
つい2週間ほど前には、一般の探索者が人化牛を討伐したという情報が流れていた。
日本は次々と強くなっていき、市場は潤い、トップの探索者や一山当てた人たちは月収が億を超えていたりなど。
日本のダンジョン市場はどんどん盛り上がっているのである。ただ、株式会社ではないので株で儲けることができないのは残念だ。もし株式会社だったら今頃株価がどんどん上がっているだろうに。
あの時東京ダンジョンに来ていた勇者御一行は再び北海道に戻り、探索を続けているという。
そして俺たち兄妹は。
「全快おめでとー‼」
「やっとこれでダンジョンに潜れる。食費が掛かったからこれからはまた節約してかないとな」
俺たち兄妹は現在病院に来ていた。というのも俺の腕の骨に罅が入ったことで妹のハルからは探索禁止を言い渡されていたのだ。
だからと言ってハルだけでダンジョンに潜らせるわけにもいかないので二人そろって3月弱の休養を取っていたという訳だ。
それにしてもこの3ヶ月は本当に暇だった。
木崎家にダンジョンが現れてから俺たちはダンジョンに潜る日々を繰り返していた。そんな日々がいきなり送れなくなるのだから暇になるのも当然だろう。
さて、俺の骨は幸いぽっきりとは折れていなかったため、回復は早かった。それは無理な運動をしなければという範疇でギプスは取れたけどスポーツにはドクターストップがかかる感じだ。
だったらこの暇な時間をどうすればいいのか。幸い俺たちにはオークションで儲けた大金とも言えないような、されどそこそこのお金があった。
どうせダンジョンに潜ることができないのならば鍛えればいいんではないだろうか。
骨に罅が入っているとは言え俺の体はステータスでがっつりと強度が上がっている。
つまりはギプスが取れるぐらいまで回復したのであれば武器で本気で殴られない限り悪化するということは無いというわけだ。
それもダンジョンに潜ってしまえば敵を斬り付けたときの反動などでどうなるか分からないが。
というわけで俺たちは1ヶ月ほど剣術の道場に通っていたのだ。
週に4回のコースで歩法から居合切り、などいろいろな技を基礎から教えてもらうことができた。
そして俺たちはステータスや日ごろの戦闘で動体視力がかなり上がっている。
見本の動きをしっかりと見てそれをそのままトレースするかのように体を動かしていく。
日ごろからダンジョンで戦闘を行っているのだから適応力は折り紙付きだ。
なんだかんだで1ヶ月の道場通いが終わり、俺たちはそこそこ強くなったと思う。
武器を振っても姿勢がぶれなくなったし、歩法に関しては動く速さも滑らかさも上げることができた。
自分の経験をもとに適当にやる歩法よりはそりゃあ、教わった方が伸びるだろうと。
そうして今日、俺の腕が完治。レントゲンに少しお金がかかってしまうのが残念なところだろう。
病院から出てそのまま家に帰るのだがそのままダンジョンに潜るには時間が微妙だった。ということで長い間使ってなかった装備の手入れやニュースのチェックなどをしながら時間を過ごす。
最近は剣術の道場も終わりに近づいたこともありそちらの自主練習に集中していたため、あまりニュースなどを見ていなかったのだ。
「よし、手入れ終了」
ハルはもうすでに終えているらしく横にあるテーブルでパソコンをカチカチやっている。
「あれ、え? うわー、やば。おにい、これ見て、これ」
ハルが何かのニュースを見たのか、ダンジョンで事件でもあったのか、俺の腕を引っ張りパソコンの前に引きずっていく。
「なんだ、うわ、まじか」
そこに表示されていた記事は俺の想像をはるかに凌駕するものであった。
『アメリカで16層である森林のボス、リムドブムルの討伐を確認‼』
リムドブムルと言えば俺たちが歯が立たなかった例のあれである。
戦力1050で、咆哮だけで俺たちを戦闘不能まで追いやったあいつ。
あの時に比べればレベルは20ほど上がったが未だに勝てる気がしない。今のレベルは約70だから戦力は210ほど。
そもそもリムドブムルがガン・セーンの3倍も強いというのがどうかしていると思う。
そう考えるとアメリカでリムドブムルを討伐したというパーティーは俺たちに比べたらとてつもなく強いのだろう。
「俺たちも頑張らないとな」
「うん。明日から、また探索始めよ」
2人はその記事をしっかりと読んでいなかった。題名だけで内容を理解したと思い込んでしまったから。




