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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
2章 貧乏兄妹は資金を求めて東京へ
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35.兄妹は再び東京ダンジョンへ

「お願いします」


「はい、確認しました。現在9層への立ち入りは禁止されていますのでご注意ください」


「ははは、そんなに行ける実力があったらいいんですけど」


 俺たちは現在ダンジョンダムにいる。一昨日にリフォームを終え、昨日は引き続き大雨だったのだが今日はしっかりと晴れ、東京へ来るのも楽だった。

 びしょびしょになってしまった靴はごみスキルにあった『乾燥』をつけてみたらカラッと乾いてくれた。ただ、現状だと邪魔なので外してある。

 そういえば受付にあった素質鑑定の装置はいつの間にか消えていた。


 勇者御一行は現在、ダンジョン市場で生放送のテレビの撮影に出ているらしい。

 そのおかげかダンジョンダムにいる人が少し、少ないような気がする。


「じゃあ、ハル。またな」


 俺たちが分かれて更衣室に行くと外から声が聞こえてきた。


「私たち、勇者御一行は、その名の誇りにかけて。無事、ユニークモンスターを討伐して参ります‼」


 どうやら勇者御一行はそろそろ探索に挑むらしい。となるとこれからはだんだん混んでいくか。

 若干急ぎ着替えを終えると持っていくバッグと着替えなどの荷物を抱え、更衣室を出る。

 今日はハルより早かったので、お金を出しコインロッカーのドアを開けるとハルが来たので一緒に詰めた。


「おにい、急いで。そういえば勇者御一行は10層まで転移できるけど私たち5層までしか転移できない」


「あ、そっか。忘れてた」


 なんともおっちょこちょいな話だが、家では何十回、下手したら100を超えるほどの黒狼を倒しているのだから仕方がないだろう。仕方がなくはないか。

 俺はハルに背中を押されながらインタビューを受ける勇者御一行を横目にダンジョンの中へと入っていった。


 すぐ近くにある転移の間に入ると魔法陣に触れて5層出口と考えると、いつも通り視界が変わり、5層に手にする。


「じゃあ、行くぞ。人目も気にするからスピードは抑えめで」


「道はどうするの?」


「大まかな地図がネットに転がってたから覚えてきた。行くぞ」


 俺たちは小走りで9層へと向かう。途中たくさんの探索者にあったが、基本右側通行で距離を空け、顔を上げて歩くようなマナーができたらしい。

 曰く右利きの人が多いので左に攻撃するのは一瞬遅れるからだそうだ。ダンジョン内での殺傷行為を抑えるために誰かが提唱しそれが広がったらしい。

 歩くというのは純粋に走っているより安全だから。自分も相手も。

 顔を上げるのはただ、犯罪を起こしたときに顔を覚えられるから。


 ということで俺たちは走り、他の探索者が通ったら右に寄って歩くというのを繰り返している。ただ、顔を覚えられてしまうため俺たちは服の下に隠して首にチェーンを掛けてきている。勿論ダンジョン素材と錬金して、あるごみスキルをつけてある。


『無価値…一定時間印象をなくす』


 まぁ簡単に言うのならば変装はできないけれどその顔が記憶に残りにくくなるのだ。すれ違う時に顔を凝視でもされない限り大丈夫だと思う。

 それだけだとチェーンの印象が無くなるだけなので、2個しか持っていなかった発動も付けてある。

 前に実験で1つの物に2つ以上のスキルをつけるとスキルをつけたものが壊れることが分かっていたので。短めのチェーンを2つ用意し別々にスキルをつけてから1つに繋いでおいた。


 そこからも真っ直ぐとダンジョンを進んでいき、7層に入ったあたりで周囲を警戒し始める。現在一般人の最高到達階層は11層。ただ2ヶ月以上の月日が経ち実力に差が出始めているのだ。

 なので前線にいる人は7層あたりにいることが多いらしい。

 つまりここらへんで見る人は一流とはいかないまでも優秀な冒険者となる。下手に顔でも覚えられたら厄介なのだ。

 他の探索者に会わないように、道を変更しながら苦労して9層まで降りたときには大分時間が経ってしまっていた。


「ハル、人の反応はどうだ?」


「あるよ。というかおにいでも分かる範囲に2人。なんか変だけど」


「やっぱり俺の勘違いじゃないよな」


 俺が把握で確認できる範囲に2人いるのだが2人とも反応が異様に小さい。ただ、強さは強くなさそうなのだが。


「おにいの隠密みたいなスキルじゃない? 強さは隠密よりはるかに強いけど」


「あぁ、レベルにふさわしくない強スキルを持っていればそうもなるか。で、俺たちはレベルが高いからスキルの影響力も高く、見破ることができたと」


「たぶんね。おにい、協力して看破使おっか」


「下手したらバレるだろうが、その時は逃げるか」


「大丈夫。最低限しか見ないから」


 キングゴブリンのことがあってから1ヶ月。俺たちも日々実験を重ね、森林でのレベル上げに勤しんできた。だからこそ同じスキルや魔法でも新たな使い道ができていたりする。


 まずは把握で確認している2人をより強く意識し、ハルと手をつなぐ。ハルが使う看破の魔力を一旦俺に通し、隠密の効果を載せて2人に届ける。

 察知できない魔力の糸が2人に伸びて、それに触れる。一瞬だけ。

 その魔力が触れた瞬間に2人は周囲を見渡し始めた。


「行くぞ。ハル」


 俺たちはすぐにその場を離れ、2人がいるのとは別の道を駆け抜ける。


「で、どうだった」


 ある程度走った後、周囲に誰もいないのを確認してからハルに聞く。


「一瞬しか見てないから少ししか確認できなかった。後魔力をしっかりと伝わらせる時間が無かったから名前と性別も分かんない」


「重要な分だけ分かれば問題ないが。それとあれは男と女1人ずつだな。骨格がそんな感じだった」


「把握を持つおにいが骨格で性別を判断するなんて、その人まな板。かわいそ」


「そういうこと言うな。確かにフード被ってて外見じゃ分かりづらかったが。で、看破の結果は」


「ん? あぁ、スキルはね『無色透明』と『無害な人形』だったよ。両方隠れるためのスキルなんだけど。性能が隠密とは桁違いだね。一番前にあったから多分素質スキルだし」


 ハルが桁違いというからにはそこまで圧倒的な差があるのだろう。気になって看破の詳しい結果を聞いてみる。


「無色透明は相手の視覚に干渉し自身の姿を隠しその気配の色さえも薄くするって効果だった。無害な人形は、自身が初撃を与えるまで気配を断ちその姿を意識外に逸らすだって。まあ、隠密じゃあ、歯が立たないね」


 ハルが教えてくれたスキルのチートっぷりに思わず顔を引きつらせる。


「さすがにそれは無理だわ。隠密さん勝てるわけない。素質ってやばいな」


「それは、天才が。ん?」


 ドォーン


 遠くから小さく聞こえた爆発音に会話をやめて耳を澄ます。

 洞窟の中では音がよく反響する。ただ、そこはダンジョン効果なのか普通の自然洞窟よりは反響しないらしい。せいぜい家の中程度。耳が良くないと分からない。

 反響のせいで分かりづらいが、多分こちらと思える方へとゆっくり歩いていく。


 ドォーン‼


 再び爆発音。ただし先程よりは明らかに大きい。

 カンカンッという金属のぶつかり合う音も聞こえてきた。そして。


「おにい、反応が多過ぎ」


 俺より広範囲を知ることができるハルの察知にその戦闘が見えたらしい。だが。


「多過ぎってどういうことだ? モンスター、召喚系のユニークモンスターとかか?」


 ダンジョンではモンスターに対して以外は数の表現を使わない。それはこちらにはいろいろと制限がなされているから。

 ダンジョンを進むうえで必要なステータスという数値に、装備を着るときのレベル制限。そして。


「戦ってる人が4人どころじゃない」


 探索をする上での人数制限という数値。1人多いだけでダンジョンの恩恵を受けられなくなる。


「あの感じだとユニークモンスターは1体で勇者御一行かは分からないけど探索者が12人。3パーティーだよ」


「ってことは、討伐することしか考えてないってことか」


 ゆっくりと警戒しながら歩いていくと俺の把握の範囲にも戦闘が入って、さらに戦闘には参加していないパーティーもいくつかいることが分かる。

 戦闘しているパーティーと合わせて計6パーティー。俺たちも含めたら7パーティーになってしまう。


「『ハイヒール』」


 戦闘をしていない側のパーティーから声が聞こえる。


「『ハイパワー』」


 さらには付与までが戦闘をしていないパーティーからなされたようだ。

 ダンジョンでの人数制限は見ているだけでは関係ないらしい。ただ、協力はダメだった。付与や回復は十分な協力に当たる。これは6パーティーで戦闘していると見て良さそうだ。


 さて、把握の範囲すらも超過し、俺たちはその戦闘が目視できるほどの距離まで来た。そこはダンジョンの中でも広い空間が取られた場所。俺たちもトレント狩りなどで愛用した場所だ。ダンジョンが違っても、そのような広場は存在する。俺とハルを魔力で覆い、全力で隠密を発動する。

 本来は、分からないほどしか使用されない魔力が少しずつ使われていく。

 広場を見るとそこでは盾や剣を構え、銀の鎧に身を包み、暴れるモンスターの動きを妨げる8人の探索者。周囲には杖や剣などを構えた探索者、3パーティーが見える。

 そして見る人が見れば高価なことが分かる装備に身を包んだ4人の探索者。俺たちよりは年上でもまだ若い前衛2人と後衛2人。その名も勇者御一行。その強さは他の探索者に比べると圧倒的で、他の探索者は所詮足手まといにならないぐらいの活躍しかしていないように思えてしまう。

 そしてそれらが繰り出す攻撃を全て防ぎ、攻撃に転じる1人の大きな騎士。身長は2メートル半ぐらいだろうか。真っ黒の鎧に包まれたそれはこれまた真っ黒の大剣と真っ黒の大盾を構え、重さを感じない素早い動きを見せる。


「黒騎士、戦力は165だから人化牛より強い」


「まじかよ」


 言いながら遠めに黒騎士を見るが、攻撃を食らうもその鎧に付くのは傷ばかり。


「下がれ‼」


 勇者御一行の盾使いが叫んだ言葉に従い前衛が下がると共に、黒騎士の剣が光り、そのまま周囲を一回転しながら薙ぐ。

 おかしなほど早い判断により攻撃を受けたものはいない。


「皆、行くぞ‼」


 下がった者たちは、1人の青年の声で再び黒騎士に突撃する。それが敵わなくても、あきらめの表情を見せずに。

 周囲に信頼を置かれ、その声1つで恐怖や不安をぬぐう。

 まさに勇者らしいと思った。


 ただ、悲劇への一歩を踏み込みながら。

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