27.兄妹は新しい武器とスキルを試す
「で、ダンジョンに入ったはいいが、使い方がよく分からないのだが。ん? ハル。そういえば俺たち土竜戦で新しいスキルカードゲットしてなかったっけ?」
「んー? あぁ、あったね。あと、森の雑魚からも2枚ずつ手に入れてたっけ。後で調べようって言って調べてなかったやつ。見てみるね。まずは私から」
転移の間から15層入り口に転移した後、ハルはスキルを使い、紙は無いので口頭で伝えてくれる。
名前 :ハルカ
技能 :魔法・工作
魔属性 :崩(爆)(電)
レベル:52
強度 :60
魔量 :123
スキル:解析
魔法 :(ボム)・(タイムボム)・(インパクト)・ナンバー・(プラズマ)・亀裂・剥離・障壁
パッシブ:魔力回復・察知・工作・魔力操作
「おー、レベルも結構上がってる。新しいのは剥離、障壁、魔力操作だね」
ハルが外で魔力を操作してたのは魔力操作が関係してるのかもな。後は魔法か。障壁ってのは想像つくが、剥離ってのが分からないな。多分剥離は崩属性の魔法だろうが。
「そうだね。おにいももうすぐ解析できるからね」
ハルがこちらを向いたので抵抗をなくすように脱力する。こうでもしないと解析に抵抗してしまうから。
名前 :トウカ
技能 :付与・錬金
魔属性 :無(呪)
レベル:52
強度 :73
魔量 :109
スキル:隠密・座標
魔法 :スピード・パワー・ガード・バインド・チェイン・スロー・ロス
パッシブ:把握・加速・錬金
ハル解析結果を読み上げるのを聞き自分にどんなスキルが増えたかを確認する。
「俺の新しいのは座標、スロー、ロスだな」
「効果はスロー以外見当もつかない。初めてのデバフ?」
「そういえばそうだな。あとは刀の強斬だよな」
刀を鞘から抜いて軽く振ってみる。何もない。
「強斬」
もう一度唱えながら振ってみるがこれでも何も起こらなかった。そもそもスキルは発動方法が詠唱ではない為何となくで使っていた。他に試してないことといえば。
「あぁ、魔力か」
ハルのように微細なコントロールはできなくともどこかに向けて放出するぐらいは容易い。手を通し刀に向けて魔力を通す。思い浮かべるは強斬。補正のかかった斬撃。
空に向かって振り抜くと同時に刀は赤く光り、刀が空気を切り裂く音に追従するように別の音が聞こえた。おそらくこれが補正なのだろう。
「成功だね。じゃあ、行く?」
「あぁそろそろ行くか。とりあえずすぐには殺さないでスキルと魔法の実験だな」
「おーけー」
ハルが扉に触れると自動的に扉は開いていく。中には岩に座った人化牛。
「俺たちが入ってくるまでって人化牛はずっと座ってんのかね」
「私たちが扉に触れた時点で作られたモンスターって可能性もあるかもよ。あ、動き出した。『剥離』」
武器に向かって手を伸ばした人化牛に向けてトンファーを突き出し、魔法を唱えた。人化牛が伸ばした手に。
黒い光となって人化牛の手に当たった魔法は何も起こらない。と思ったのだが。
「グギャァアーー」
突如武器に手を伸ばすのをやめて、魔法が当たった手を抑える。その抑えた手の隙間から一瞬魔法が当たった手が見えた。なるほど、これは確かに剥離だろう。
人化牛の腕は表面がしなびていた。これだと肉体を剥離させたのではなく。
「当たった部分の生命力の剥離、みたいな?」
「どうだろうな。『座標』、なんだこれ? んー。あぁ。ハル。この魔法強いぞ」
人化牛は今度こそしっかりともう片方の腕で武器を拾い、頭上に持ち上げ振り下ろす。
剣はしっかりと光を纏い、最初の戦闘の時のように力の奔流がこちらに飛んでくる。あの頃なら脅威でしかなかったのだが。
「『障壁』。おぉ、魔力操作しながらスキル使ったら変な形の障壁作れた」
ハルが作り出した魔法の障壁は途中で折れ曲がるようにして人化牛に向けて斜めに展開されていた。人化牛のスキルがいとも簡単に左右に流される。
「ん。私は終わり。次はおにい」
「了解。『スロー』『ロス』」
突っ込んでくる姿勢を向ける人化牛に二つの魔法を唱える。
すると人化牛の体が光り、魔法が付与された。そもそも付与魔法は相手に掛けるには不都合が多い。リーチが攻撃魔法に比べて短いのだ。俺と人化牛の間は未だ10メートルほど開いており、普通なら絶対に魔法はかからない。
「座標を指定することによる、遠距離発動。ただし威力は落ちるな」
ズシンズシンと迫ってくる人化牛の足取りは重い。それがスローの効果なのだから。そしてロスは。
「あぁ、攻撃力のロスね。分かった分かった」
俺に向かって振り下ろされる斧には力が無かった。スローの影響だけではない。スローにかかっていてもステータスから生み出される力で遅く振り抜いてもそこそこの力が出るのだ。だとすればロスの効果は攻撃力の低下。または分散。おそらくは攻撃するための力にロスが生まれているとかそんなことだろう。
「まぁ、そんなことだよな」
2人とも新しい魔法やスキルの実験を終えたので最後の実験に移る。
人化牛の振るった斧を、少し体をずらすことにより躱し、刀に手を掛け魔力を流す。
「これで終わるよな」
半信半疑の下、人化牛の首に振るわれたスキルで光る刀は、首の半分ほどで動きを止め、追従する補正によって首を断ち切った。
「補正含めて威力2倍ぐらい?」
「だろうな。自分で斬るときには補正はかかってない。ほぼ同時に同じ場所に2回斬るイメージだな」
「ふぅーん。ところでおにい。2つほど忘れてた。私トンファー使ってない。魔法陣使ってないから魔法が弱い」
「あ、まぁ、それはまた明日ということで。魔法陣は明日の朝やろう」
「仕方がない」
ハルのしぶしぶといった声を聞き、ドロップ品を拾ってアイテムポーチに入れる。勿論肉は手に入った。
ご機嫌の俺と若干不機嫌なハルは、そのままそそくさと家に戻るのだった。
「おにい、服と靴の錬金する」
帰ってすぐにハルが言い出したのはそれだった。まあ別にいいけど。その分ご飯が遅れるぞと言っても問題ないとのことだったので錬金を始める。
まずは服とズボン。特に新しいものは買っていないので、森で手に入った中級狼の毛皮を使おうと思ったのだが。
「おそらく中級狼より黒狼の方が強いよな」
「やっぱ思った? 確かに黒狼の方が攻撃力高いし皮膚も硬いんだよね」
「じゃあ、布製品は明日か。今日は夕飯食べて寝るか」
「うん。ふぁーぁ。今日は人混みで疲れたし」
ハルもあくびをしながら答える。仕方がない。人化牛の肉を食べて疲れを癒そうと思ったけど睡眠の方がよさそうだ。
人化牛の肉は細かいブロック状にして軽く炒める。食べたらいつもより短めのランニングをして、倒れこむように寝たのだった。
そして翌日。
「50匹―っと。次行くぞー」
俺たちはせっせと黒狼を狩っていた。黒狼は10層のボスであり、勇者御一行などもまだ見ることすらできていない強さなのだが。
「行くよ。えりゃ、ていっ、そい。終わった」
15層の人化牛すらも容易に倒す俺たちにとっては既に敵ではなかった。もはや魔法を使うまでもない。
扉が開き始めるとすぐに猫のように扉の中へ入っていったハルは真っ直ぐと黒狼に突き進み、黒狼の手前ぎりぎりでさらに急加速。そのまま足を打ち、胸を打ち、そして頭蓋を破壊する。完全なるレベル差の暴力だ。
とはいえそれのおかげで一戦が10秒ほどで終わってしまう。現在これほどの周回を続けているにも関わらず、俺たちがダンジョンに入ってから1時間と少ししか経っていないのだ。
再び魔法陣に乗り10層入り口に戻り扉を開けると次は俺が先に入り、ハル同様真っ直ぐと黒狼に進むのだが、黒狼は反応が遅れてしまう。俺の気づかれにくくする歩法も随分と成長しているのだ。
そのまま黒狼の顔の下で止まった俺は刀の柄をしっかりと握り、軽く上に跳ぶ。そのまま体をひねり、居合切りの要領で一気に引き抜いた。
黒狼の首はあっさりと断ち切られ、その太さ故完全には首は離れないものの血管や骨も断ち切ったため一瞬で霧と変わる。
「ドロップは普通だな。次行こう」
こうして俺たちはあまりにも非道な黒狼狩りを続けていくのだ。