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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
2章 貧乏兄妹は資金を求めて東京へ
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26.兄妹は勇者たちを見定める

 5つのパーティーがいる場所へ向かうと、既にそこには奥が見えないほどの人混みが出来上がっていた。ここは一般人が入れない場所なのに。そんな状態でもここまで人が集まるのか。最強という肩書はすごい。

 ダンジョン市場に入る時点でカメラは回っているらしく、小さくだが声が聞こえてくる。それと同時に把握でも周りと比べると一線を画す強さが把握できる。


「おにい、どう?」


 ハルのスキルでは敵の強さを把握することはできないのでこちらに聞いてくる。


「この感じだと全員レベル20前後だろうな。戦闘経験は、どうだろうな」


「どうだろうね。ちょっとあの人たちしっかり見といて」


「ん? どういうこと、あ?」


 ハルの方から何かが薄く流れるように感じる。いつも感じている何か。それは当然魔力。

 ハルから漏れていく魔力はその濃さを変えずに低い濃度で周囲に広がっていく。それは5パーティーの20人を通り過ぎていく。そして、何も起きない。いや、1人動いたか。


「どうだった?」


「誰かは分からんが1人だけ反応した。多分魔法系の技能だな。女集団の中の1人で、名前は…」


「大和撫子、葡萄会、どっち?」


「あぁ葡萄会。美人軍団の方だろ」


「それなら、大したことないね」


「そういう決め方もどうかと思うが危機管理が弱いってのはあるな。というかダンジョン外でも魔力って使えたんだな」


「魔法は使えない。体の中の魔力を意識しながらダンジョンから出たら外でも魔力を動かせるようになったの」


「んー、俺にはできないな。そもそも体内の魔力が分からん」


「とりあえず感想は普通。かな?」


「まあ、それなら良いけど」


 ハルが人混みを背にして歩き出したので俺もそれについていく。先程魔力に気づいたような反応した女性は気のせいだと思ったのだろう。普通にしているようだ。次があったら、その時は違和感の正体に気づくのかね。

 既に俺たちは魔力に気づかなかった彼らへの興味は消えている。魔力へのセンスは俺たちと同等かそれ以下だろう。

 撮影の場所が動くのか店がない奥の方へと人混みが移動し始める。それを横目で見てみると遠くにマイクに向かってしゃべる青年が見えた。いや、顔は少年のように見える。

 周りに愛され、成長していくだろう、俺より年上なのに無垢な表情。相手はこちらに気づいた様子もない。それはそうだ。向こうから見れば俺はただの野次馬の1人に過ぎないのだから。


「主人公か」


 なんとなくそんな言葉を漏らす。


「おにい、防具買いに行くよ。無いとダンジョンに入れてもらえないんだから」


「あぁ、そうだな。とりあえず軽く収納ができる上着が欲しい」


 俺たちはすぐに彼ら彼女らを忘れ自分たちの買い物に勤しむのだった。



「さて、ダンジョンに入るうえで絶対に守るための防具が無きゃいけない部位はどこだっけ」


「足、胸、頭。急所と逃げる手段に怪我するのを防ぐため」


「まあ、そうなんだろうな。でもな、ダンジョン探索なんて夢のようなことをするのに、ヘルメットはどうなんだよ」


 防具が売られてる店に来た俺たちの前にはたくさんのヘルメットが並んでいる。無地の物や安全第一と書かれたものまで種類が豊富だ。


「これはやだ」


 と、ハルも酷評である。


「お、今度はかなり若い子がきたね。どうだい、ヘルメット。買ってく?」


 ヘルメットを買う気にもなれずに眺めていると店の中から店員が出てきた。


「他って、無いんですかね」


 これを被って東京ダンジョンを探索なんてことはしたくないので、縋る思いで聞いてみる。


「わっはっはー。勿論あるよ。お値段高くなるけどね。おいで、妹さんも」


 テンションの高い店員さんはにこやかに店の中へと戻っていく。


「じゃあとりあえず入るか。ハル」


「うん。うん?」


 ハルは店員さんのよく分からない性格に戸惑いながらもついてくる。


「お二人さん身長は?」


「172です」


「158」


「んじゃあ、はいこれ」


 中に入ると同時に身長を聞かれ、答えるとすぐに2枚の服が出てくる。色は黒だが、これはパーカーのようだ。


「防刃素材入りのフード付きパーカーだね。フードの部分以外も丈夫にできてるし、薄く緩めに作ってあるから装備の上に着ても問題ないよ。ここの人気商品」


 店員さんは人気商品と言っているが、それ絶対みんなヘルメットつけたくないだけだろ。

 とりあえず試着ということでパーカーを着てみると確かにフード以外は薄く緩くできていて服の上から普通に着れる。そして若干短め?


「お、お兄さん気づいたかな? 武器の使用に邪魔にならないように裾は短めにしてあるのだよ。これがまた人気でね。内側にもポケットがついてたりして…」


 店員さんの話を聞き流しながらも考える。正直パーカーが緩いとか薄いとかはどうでもいいが。


「おにい、大き目のサイズで買って魔改造でどう?」


「あぁ、もうそれでいいか」


 まだしゃべっている店員さんに聞こえないようにこそこそと相談し方針を決めた。


「ん? 決まったかい」


「はい、内側と外側で生地が二重になってるやつってありますか?」


「おぉ、いいところに目を付けたね、お兄さん。そうだよ。確かに薄くて軽いというのは戦うときに有利だけどね。使いづらい部分もあると私は気づいたのだよ。まず、薄いせいで武器があったらあっという間に切れて、中の服が見えちゃったりするのだよ。それに服の中に武器が仕舞えない。コートの前を開くと中にナイフがびっしりなんて夢だろう。だから私は中に少し硬めの革を張ったパーカーも開発したのだよ。なお、このパーカーは前が開けやすいようにチャックではなくマジックテープになっているのだよ。他にも全体が防刃素材でできているのも」


「じゃあ、それを買うんで、二重構造でフードだけ防刃の奴」


「まいどー。1つ5万円でーす」


「高いなぁ、やっぱ」


 服の値段に嘆きながらもパーカーを買い次の店に向かう。というかズボンはすぐ隣の店なのだが。1つの会社が上半身と下半身で2つの店を経営してるらしい。

 またもや、と思ったがそれ以降には特におかしな店員さんもいなかったため簡単に買い物を済ませることができた。ズボンは既存の服の関節部分に縫い付ける防刃シート。胸当ては1つ4万円で見事持ってきた60万円はほとんどなくなったのだった。


「じゃあ、もういい時間だし帰るか」


「うん。東京ダンジョンはまた次回?」


「あー、交通費がなぁ。とりあえず明日もう1度来て、ダンジョンに入った記録だけ残しておくか。帰ったら人化牛狩って夜ご飯は肉にしよう」


「うん。そうだね。今日は人多くて疲れた」


 ダンジョン市場の中にいる人の大多数は未だ、テレビの野次馬になっており一か所に固まっているためダンジョン市場の入り口の方はかなり空いていてすぐに出ることができた。



「じゃあ、魔改造始める」


 家に帰るとすぐにハルが宣言する。疲れてるのか若干テンションがいつもと違うがそっとしておこう。


「まずは武器からだな。とりあえず全部軽すぎるし弱すぎる。鍛冶師の腕とか関係なしに地球の金属じゃあ弱いんだろうな」


 ダンジョン外、つまり普通に鉱石などでとれた金属はダンジョン内でもその硬さに変化はない。当然のことなのだが、最初の方の階層では問題ないものの黒狼にはたやすく叩き割られるし、人化牛にはないものとして扱われるだろう。

 それに対しダンジョン内でとれた不思議金属や、角などの金属要素を持ったものは、ダンジョン外では普通の硬い金属なのだが、ダンジョン内に持ち込むことでそれは強度やしなやかさを増す。だからこそダンジョン内で普通の武器を使うわけにはいかないのだ。


「まずは錬金で素材を変えるところからだな」


 素材は森での強制スタンピードで大量に集めてある。金属でも布でもなんでもそろっている。

 まず金属に使うのは、人化牛がドロップした鋼の戦斧。合計2本あるのでこれは二人の武器に使う。錬金スキルは同じ性質の物質へ別の物を移すスキルであり、金属なら金属へ。布なら布へと移すことが可能になる。

 ただここで特筆すべき点が、移された武器は消滅するということだ。それは移す前と後がどれほどの体積比であっても。たとえ縫い針に戦斧の金属を移したとしても戦斧は消えてしまうのだ。

 たとえるならゲームの合成だろうか。合成したものはどんなものでも無くなる。

 と、まあ。そういうことでさっそくやっていく。

 鋼の戦斧は鋼であり鋼ではない。地球上にある鋼と同じようなものだろうとは思うが魔力的性質を含んでいるといったところだろう。だから解析ができるのだ。


「さて、『錬金』。ん?」


 戦斧からトンファーに金属を移したところで何か違和感を覚えて手を止めた。もともとスキルを使っただけなのだから手は動かしていないのだけれど。金属を移された戦斧は霧となって消え去る。

 そして違和感の正体は。


「ハル、斧からトンファーに魔力以外の何かが流れていった気がする。解析してみて」


「ん? うん」


 ハルがトンファーをじっと見て顔を上げる。


「これは思ったよりもやばいかも。これがトンファーじゃなかったら特に。えーっと紙は。あ、これが解析結果」


 ハルが解析結果を書き込んだ紙を渡してくれる。


『鋼のトンファー…鋼製のトンファー(スキル:強斬)』


「あー、スキルまで移ったのか? トンファーでどうやって斬るんだって話はあるが」


「とりあえず刀の方もやってみて」


 ハルから急かされ、自分の刀にも戦斧から金属を移す。すると先程と同じように違うものが流れていった。


「んー、成功だね」


『鋼の刀…鋼製の刀(スキル:強斬)』


 刀にはしっかりとスキルを移動させることができた。


「ちなみに強斬ってどんなスキルになってる?」


「ちょっと待ってて。クールタイム」


 2人でぼーっと時間を待つが1分は案外早く、結果が伝えられる。


『強斬』

 種類:スキル

 クールタイム:10s

 斬撃に補正


「あぁ、これはトンファーにあっても何の意味もないな。じゃあ、実験もかねて人化牛刈りに行くか。時間は余らないから実験はほどほどにか」


「そうだね。じゃあ、スキルを試しにいこ。そしておいしい肉を取りに行こう」


 俺たちは今日武器を買ったばかりだというのに元気よく、我が家のダンジョンへと入っていくのだった。ちなみに組手はしなかったが準備体操はしました。


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