25.兄妹は武器屋で
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この作品では、計算の都合やこれからの社会を考え、消費税が10%になっております。
俺たちは武器体験場を後にして、現在武器屋に来ていた。
とは言っても武器屋なんて危険なものがそこらへんに適当に立っているわけもなく。ギルドの隣にある大きな建物、通称ダンジョン市場の中に、武器を売る会社が定められたスペースを使い販売しているような状態である。
しかし、ダンジョンの一般公開がなされてすぐであり、未だ市場に出て売ることのできていない会社も多いためダンジョン市場は使われていないスペースが広く残っていらしい。
そこではダンジョン探索者たちが交友を深めたり、アドバイスをしあったりと自然に交流スペースとして使えるようになったらしい。そして。
「探索免許はお持ちでしょうか」
「はい、これでいいですよね。ハルも出して」
「うん」
俺たちは今、ダンジョン市場への入場手続きを取っている。探索免許の提示により本人が探索者であることを証明できないと入ることすらできないのだ。
「確認いたしました。ダンジョン市場へようこそ」
扉の前に立つ受付の人のその声とともに、金属でできた扉が横にスライドされ開く。そのまま俺たちが扉の中へと入っていくとそのまま扉は閉まっていった。防犯設備はばっちりだ。とはいえここはダンジョンの中じゃない。
「いくら、剣を持った集団が暴れても銃があれば鎮圧できるだろうに、ここの警備は厳重過ぎねえか」
「これから手に入るものもある。多分ダンジョンの物が管理される最前線になる?」
「あぁ、そういうことか。政府が買い取るようなものも1度はここを通ると。それならこの警備も納得だな」
話しながら歩いていくと入り口の近くにあるショーウィンドウの中に見覚えのあるものを見つける。
「猪の角」
「最前線のダンジョンでの成果だとさ」
中に入っていたのはいつぞやお世話になった猪の角だった。今じゃ弱くて使い物にならないがなんとなく懐かしい気持ちになる。猪の角を手に入れてから今日まで、そこまで日にちは経っていないのだが、最近は濃い日々を過ごしていたから。
「私たちがダンジョンにいつも潜ってるっていうのもあるけど。民間人の最前線はやっぱり遅いね」
「まあ、1ヶ月ちょいしか探索してないんだから仕方がないだろ。ダンジョン出現当時から探索してる自衛隊はいったいどこまで探索できてるのやら」
「モンスターが同じだったらもう飛竜倒してるんじゃない?」
「そういう人がドロップアイテムを大量に市場に流してくれたら、俺たちのアイテムも紛れさせられるのにな。物持ってても売れないから金にならん」
「まあ、仕方がない?」
「だろうな。お、武器売ってるな」
俺たちは話を止め、まるで屋台かのように並べられた武器を見る。念のため確認しておくと俺たちがダンジョンに関する周りに聞かれたら危険な話は二人の察知と把握で常に確認していたから問題ない。
「お、新人さんかい? 若いね。武器はなんだい?」
俺たちが見ていた店の店員さんが気さくに話しかけてくる。
「はい、新人です。武器は俺が刀で、妹がトンファーです」
ハルの方をちらりと見たが、自分から話す気はなさそうなのでハルの武器も一緒に言ってしまう。
「おぉ、兄妹だったんだ。で、刀とトンファーか。珍しいね。刀はうまく使わないとすぐに曲がっちゃうから、皆すぐに買い替えに来て二度と買ってくれないんだよね。ここでも少ないけど扱ってるよ。勿論安い量産品。鍛冶師の弟子が作ったやつだから安く手に入るんだよ。その割に最近はどんどん買ってくれる人が減っちゃうしね」
「あとはトンファーだよね。さすがにトンファーはここでは取り扱ってないなぁ。トンファーって取り回しはいいけどリーチが短いじゃん。そもそも打撃武器って巨大なものしか人気ないんだよね。そもそも最初はダンジョンでのステータスアップも皆無に近いって聞くから皆武器を持つことすらできなくてね。で、軽い打撃武器って威力が弱いじゃん。だから打撃武器を使う人イコール筋肉マッチョみたいなイメージが出来上がっちゃってるんだよ。それでも買うなら売ってる店教えるけどどう?勿論刀はここで買ってほしいけどね」
ものすごくしゃべる店員さんに圧倒されながらも重要な情報をくみ取っていく。
「ハル、どうする?」
俺が刀を買うことは既に決めたのでハルに確認を取る。
「買う」
「お、買っちゃう? じゃあ、あそこね。ODDBALL 有名スポーツ会社の子会社で変わった武器を取り扱ってるんだって」
「変わった武器ですか」
「うん。とにかく行ってみるといいよ。そのあと戻ってきて刀買ってくれれば。で、おじさんから1つアドバイス。ここで売られてる武器は護身用じゃなくて実戦用のしっかりした奴だし需要も増えてるから1年前より相場はかなり上がってるから注意してね。ぼったくり価格って思ったのが格安商品なんてこともあるからね。まあ、武器の精度はともかく安さなら僕の店は格安だから是非ね」
「あー、確かに。ありがとうございます。金が大して無いんで刀はここで買うと思います。ちなみに値段は。長さ80ぐらいがいいんですけど」
「んー。15万だね。じゃあ、いってらっしゃい」
「ありがとうございました、店員さん。また来ます」
俺たちは店員さんに頭を下げ店から離れODDBALLに向かう。
「おにい」
「ん、なんだ?」
ずっと黙ってたハルが口を開き俺に話しかけてくる。
「あの人たぶん店長。僕の店って言ってた」
「あぁーそういえばそうだな。でもそれ意味あるか?」
「ない。ふと思っただけ」
「だろうな」
ODDBALLに着くとそこには異様な光景が広がっていた。
様々な種類のものが並べられた圧倒される光景。ただ、売ってはいるのだが、みんなが欲しがっている普通の物が一切売られていない。
『剣』の人が使う物であれば剣ではなく、肉切り包丁やのこぎりや鎌。形は同じながらも実戦で使いやすいように厚さや重心は変えられているようだが、それはどこからどう見ても武器ではなかった。
『棍』の人が使うのであれば、鉄パイプやバールやハリセン。
鉄パイプは中身が空洞なのは端っこだけで、中には重くなりすぎないような金属以外の何かで埋めているようだ。
バールはちょっと普通より大き目で、問題のハリセンは鉄でできているうえに重心が先の方に寄っていてそこそこでかかった。そしてロックを外せば畳めるらしい。
勿論ここにはトンファーも置かれていた。
『弓』であれば手裏剣や投げナイフだし、『槍』であればさすまたなど。ただ、さすまたは捕縛用の道具なのでモンスターを殺せるように、2つに分かれた先が刺さるように尖っていた。
その他にも、ネタと書かれた棚があり、そこには金属でできた文房具などがあった。勿論すべて武器である。物差しの剣やハサミの短剣などがあった。
とても、とても欲しいがお金が足りなくなってしまうのであきらめるとする。ちなみに武器や防具をそろえるために持ってきたお金は総額60万円。
「すみません。トンファーってこれ以外ありますか」
とりあえずトンファーを買うことは決まっているのだ。さっさと買ってしまおう。
「ん? 買うのかな。トンファーはね、これとこれかな」
女性の店員さんに話しかけると置いてあるトンファーのほかに奥からもう一つのトンファーを出してくれる。
「持ってみてもいいですか」
念のために聞いてから手に取ると順番にハルに渡す。違いは大きさと重さだろうか。
「軽い」
両方持った後にハルがボソッと呟く。
「へぇー、お嬢さん力あるね。これでも実戦用に結構重くしたんだけど。オーダーメイドにしてみる? お値段結構しちゃうけど」
「それは無理ですね。お金ないので」
「ふーん、そう。お嬢さん、お母さんにおねだりしてみたらどう。いいもの買えるかもよ」
店員さんは話している俺から目を外し、ハルに向かって話しかける。うわぁ、商売根性たくましい。まぁ親がいない以前にハルは人見知りだからさほど対応をしないだろう。そこは兄妹なのだからよく理解できる。
ハルが無表情で軽く首を横に振ったのを見て、そろそろ離れることにした。どうやらこの店員はハルには合わなさそうだ。ハルの目が若干冷たい気がする。
「じゃあ、どっちにする?」
「こっち」
ハルが大きな方を選んだのでそれを買う。値段は20万円だった。相場が上がっているとはいえさすがにぼったくりだろうとは思ったが、量産品ではないようで、全体的にぼこぼことしており、持ちやすく殴りやすい形になっていた。これが職人の技だろうか。
店員さんはその時もしきりにハルには話し掛けていたがすべて無視されたのであきらめたらしい。
「はい、どうぞ。次の人どうぞー」
会計が終わるとすぐに次の人が呼ばれ流れるように追い出される。まぁ。さっきの店戻るからいいんだけど。
「店長さん。無事買ってきました」
トンファーを買って先程の店に戻ったので店員さん。もとい店長さんに話しかける。
「お、僕が店長だって知ってたの?」
「妹が推理したんですよ。じゃあ、予定通り刀買わせてもらいます。どんなのがありますか」
「へぇー、妹さんすごいね。じゃあえーっと、80センチだったね。それだとこの5つかな。一番高いのが97万で一番安いのがさっきも言った15万。どうする」
店長さんは5本の刀を出してくれる。装飾が少し違うが長さは大体同じだ。
「何が違って値段が違うんですか?」
刀なのだから素材はあまり変わらないと思うのだが。
「作った人と、師匠が判断した出来だろうね。正直に言うと僕みたいな素人には分からないよ。刃こぼれとかは無いから安心して」
試しに持ってみるが、どれもしっかりと手に収まり、重心がしっかりとしているような気がする。となればお金は無いのだから。
「じゃあ、これにします」
俺は15万円の刀に決めた。どちらにしろ家に帰ったら魔改造するのだから問題はない。持ったときに思ったのだが、やはり、俺が使うには柔らかく軽すぎたのだ。
ダンジョンで使ったらしっかりとした使い方をしてもすぐに壊れてしまうだろう。森のモンスターの爪などは鉄より硬いのがざらなのだから。
「うん。じゃあ値段は込み16万5000円だね。ここに武器の所有者が移ったことを申請する紙があるからサインして。刃物はこれが無いと駄目なんだよね」
俺が書類をしっかりと読み込み、サインしているとダンジョン市場の入り口の方がざわざわしてきたのを感じた。
「何かここであるんですか?」
少し気になったので店長さんに聞いてみる。
「ん? 今日はね、最前線の5パーティーの人たちがここでテレビに映るとか言ってたね。見に行ってみれば? はい、書類は確認しました。これで正式な刀の所有者はあなたです。まいどあり」
刀を受け取り、とりあえず箱ごと貰ったので抱えておく。
「ハル、見に行くか?」
「うん。民間人最強を確認したい」
「良し分かった」
おぉーー
ダンジョン市場の扉が開くとともにざわめきが広がる。
「来たみたいだな」
俺たちは通称日本最強のパーティーを見に行くのだった。
これが通称日本最強と実際日本最強の初めての邂逅である。ただし通称日本最強が本当の日本最強を認識することは無かったのだが。