表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
2章 貧乏兄妹は資金を求めて東京へ
24/132

24.兄妹は武器を試す

 そこは所せましと剣や斧。盾や弓や棍棒などと様々な武器が置かれた古ぼけた店。そんなんだったら風情があってワクワクするのだが。


「まぁ、現代の店だったらこうだよな。衛生面でも防犯面でも」


 俺たちが今いるのはギルドの中にある武器体験場。

 新しく探索者になった人はここで自分に合った武器と技能を選ぶのだ。武器は替えられるが技能は変えることができない。技能で剣を選んだものは刃物以外の武器を使うことができない。

 使うことができるのだがステータスの伸び方は自分の技能に沿って伸びてしまうので効率が悪すぎるのだ。まぁ、実際にそれをしてしまっているのが俺たちなのだが。


 ギルドで読んだダンジョンの説明書のようなものによると、魔法関係の技能のステータスは魔量がレベルの倍まで伸び、強度はレベル分だけ伸びる。

 それに加えて経験で少しだけステータスは変わるそうだ。武器戦闘の技能だとその逆で強度がレベルの2倍伸び、魔量はレベルの分しか伸びない。

 そしてどちらにも当てはまらない『罠』『狩人』の技能はどちらもレベル分だけしか伸びないがスキルカードを手に入れなくても技能の特別スキルがレベルによって手に入るらしい。

 そして技能は、選んだ技能の決められた動作をすることを補助するらしいのだ。剣なら斬ることであり棍なら叩くことといったように。だからこそ、ここでの武器選びが大事なのだ。

 とはいえ、俺たちは既にダンジョンで活動していて専用の武器を持っている。当然のように自作だから武器としては使いづらいのだろうが。

 というわけで今回は武器を試しに来たのだ。武器を試す場所はそれぞれ個室になっており十分な広さを確保された中での貸し切りだ。当然のようにそれにもそこそこの額が飛び、俺たちは思わず笑顔を引きつらせる。


「では、205号室をお使いください。武器は並べてある武器の横にあるパネルにこちらのタグをかざすとロックが外れ、使えるようになります。また、部屋の外での鞘や保護具の取り外しは拘束の対象となりますのでご注意ください」


「ありがとうございます」


 俺が受付を済ませている間、ハルは後ろでじっとしている。普段俺としかいないため忘れがちになるがこれでもハルは人見知りなのだ。基本的には図太い精神で乗り切るが知らない人と会話はできないらしい。


「で、ハルはこのタグな。武器選んでいいぞ」


「うん。適当に選んでくる」


 受付でもらったハルのタグを渡すとそそくさと武器がある方へ向かっていく。俺もタグをポケットにしまい、武器の間をゆっくり歩き始める。

 それにしてもほんとに武器が豊富だ。それぞれの武器にどの技能で効果があるのかが書かれている。例えばハルバードだったら『剣』と『槍』の2つ。つまりは斬ることも突くこともできますよ。ということだ。そして俺が使おうとしている武器は既に決めている。


「やっぱ刀だよな」


 日本といえばの武器。刀。長さは80センチぐらいでいいのだろうか。よく分からないがリーチは必要だと思うので横にあるパネルにタグをかざしてロックを外し、80センチの刀を取る。

 そのまま205号室の前に行くとハルが部屋のドアにもたれ掛かっていた。そのまま大きくため息を吐く。そしてハルを囲むように立つのはハルに話しかけて無視される2人の男。こんなところでナンパかね。

 ハルは人見知りだが気が弱いわけではない。というよりかなり図太いのだ。だからこそナンパ相手に盛大にため息を吐ける。男の方もイライラしてきているようだがお互いお試し用の武器を持っているからか触れるようなことはしていない。まぁ、そろそろ助けるか。


「失礼」


 軽い身のこなしで自然な形で男2人の間をすり抜けるとそのまま受付で受け取った鍵で扉を開け、ハルを軽く押す。


「お、おう。あ⁉」


 男たちは今頃ハルの隣に俺がいることに気づき驚いた声を上げるがそれを無視して扉を閉めながら軽く会釈する。相手の足を一瞬見てから扉の間に向けて少しだけ足を入れて軽く捻る。

 相手は扉に足を挟もうとしたのだろう。扉の間に突き出された足が俺のつま先に当たり、そのまま捻られたため足は数センチ横にずれ扉の横にある壁を蹴ってしまう。舌打ちが聞こえたが俺はそのまま自分の足を戻し鍵を閉めた。

 ここは武器を試すための場所だ。窓なんてものは無いし扉は丈夫な鉄製だ。もうあいつらは絡んでこないだろう。


「おー、おにいかっこいい」


 拍手の音が聞こえたので後ろを向くとハルが手を叩いている。


「お前もため息ついてないで少しは抵抗しろよ。というか、こんなところでもナンパっているんだな。相手がナイフ持っててもおかしくない場所だろうに」


「あんな頭より先に下半身が動くような男は何も考えてないの」


「はいはい。じゃあ、武器試すぞ。ハルのは?」


「じゃーん。これ」


 ハルが出したもの。正確にはハルが持っていたケースから出したものは。


「なんだそれ」


 ハルが持っていたのは腕より長いぐらいの金属の棒に横から持ち手のような棒が出っ張ったやつだ。


「トンファーっていうらしいよ。モンスターと戦うための大きめの奴だけど」


「ふーん。そんなのもあるんだな。よし、次は俺だな」


 俺はハルの持つ武器がよく分からなかったので早々に話を切り上げ、鞘から刀を抜く。


「見ての通り俺の武器は日本刀だな。今までまともな刃物の武器を使ってこなかったからそろそろしっかりとしたのを使いたい」


「ふーん。じゃあとりあえず練習してみるね」


 ハルも俺の武器には興味が無いようでさっさと切り上げられてしまった。ハルはそのままトンファーを手に持つ。カタカナのトのような形をしたその武器の主軸となる棒から横に出た棒を握り、細い盾を持つかのように構える。

 そのまま向きを変えたり手を滑らして武器を回したり。持つ場所を変えて全力の振り下ろしをしたりなどと試していく。


「うん。これでいいと思う。リーチは減ったけど攻撃回数は増えるし」


「じゃあ、次は俺だな」


 刀を鞘から抜き構える。なんとなく体勢に違和感を覚えたので軸を意識した構えにしてみると違和感が減る。


「せいっ」


 そのまま振り下ろすとひゅっと空気を切る音がする。だがなんか違う。


「おにい、振ってる途中に剣先がずれてた」


 正面から見ていたハルの指摘が入りそれを意識してもう一度振りなおす。そのたびにハルに訂正してもらい、途中でハルはどこかに行ったが30分ほどした時にはいい感じになった気がした。


「じゃあ、おにい。軽く組手してみよ」


 受付で殺傷性のないやつ借りられたから。というハルの顔は少し引きつっている。まぁ人見知りが受付にしっかりと話しかけたのだからよしとしておこう。きっと頑張ったに違いない。


「じゃあ、やるか」


 ハルから本来は刃のある部分をスポンジで覆った木刀を受け取り片手で構える。

 基本は両手で構えるのだが、本来の俺たちの用途は対人ではない。臨機応変に戦うには片手でも戦えた方が良いと感じたのだ。

 ハルも全体が少しずつスポンジで覆われたトンファーを先程と同じように構える。


「いくよ」


 ハルがいきなりトンファーを突きのしやすい形にして突っ込んでくる。距離が開いているうちに木刀を当ててずらして。


「やばっ‼」


 慌てて横に飛んで躱す。上手く刀を使えていない現状だとより短い武器で戦っているハルに軍配が上がり押し負けてしまったのだ。

 そのままにハルが迫ってきて俺の刀は止められ、攻撃は防ぐことができないので避けるしかない。完全に自分の勝ち筋が見えていないのだ。いつものリーチの短い武器じゃないし、柄が長く間を取りやすいわけでもない。

 俺の戦い方を変えていかなきゃいけないが。それはすぐにできることじゃない。だとすれば。

 カウンターだよな。

 声に出してしまえばハルに聞かれてしまうので口には出さず思い浮かべる。

 ネットで見たような体勢。腰の位置をずっしりと下ろし、刀は両手で持ち、突きのような構えのまま後ろに引く。

 次も先に動いたのはハルだった。唐突に、見逃しそうなほど自然に。ハルは床を滑るかのように近づいてきた。

 俺が使う歩法。動きへの反応を遅らせるための技。それに気づけたのは俺が普段からやりこんでいるからだろう。少し反応が遅れながらも。前の足を打ち鳴らす。自分を鼓舞するかのように、相手を脅すかのように。

 一瞬でもハルが引けばそこに刀を叩きこむのだが。やはりハルは止まらない。リスクリターンの計算がしっかりできており、俺が足を踏み鳴らしたのを虚勢だと分かっている。ただ、トラップは二重三重に掛けるものだ。

 ハルは止まらず、俺はそこに左手だけで刀を突きだす。当然のように止められ、弾かれる。

 今だな。

 刀が受け止められるまで力が入っていた左手から力を抜き、刀が右方向に弾かれるのを見る。

 俺はハルの攻撃を食らわないように身をかがめ左手を振り上げる。その手をハルは難なく流し、俺に向かってトンファーを突き出す。その寸前に動きを止めた。

 ハルの首元には木刀の先が右から伸びてきている。それを持つのは勿論使わなかった右手だ。いくつかのフェイントを重ねた戦い方。邪道と言われればそれまでだが、それが俺の戦いなのだ。


「俺の勝ちだな」


「むぅ、私の方が使いこなせてたのに」


 組手を終えて力を抜き、俺たちはいつものように話し出す。


『あと、5分で終了です』


 上にあるスピーカーから音声が流れる。


「おにい、次は武器屋行こ。私トンファーがいい。おにいは?」


「俺も刀でいいな。もう少し練習するが」


「うん。プロの技を見るのもいいかもね」


「よし、じゃあ武器屋行くか」


「おー」


 俺たちは鍵を返し武器屋へ行くのだ。まさか俺たちが武器屋で武器の強さに盛大に落ち込むことになるとは予想もしていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ