21.兄妹は狩りの効率化を図る
最近俺たちの趣味がダンジョンでの検証になっている気がする。ダンジョンという存在自体が不明瞭なため、検証がいくらでもできるのだ。
そして今俺とハルが話しているのが狩りの効率化。俺たちがスキルカードの有能性を知ってから入手できたカードは無い。そもそもカードのドロップ確率が異様に低いのだ。1パーセントを余裕で下回るどころか、おそらく0.1パーセントもないだろう。
というわけで戦力増強には新しいスキルカードの入手が不可欠ということになりまずは狩りの効率化が必要という話に流れていったのだ。
「今のところダンジョン内で一番モンスターの密度が多かったのは森林だよね」
「そうだな。多少強さにむらがあるが、モンスターに遭う頻度は一番高かった」
「と、なると森林での探索が一番いいんだけど。問題は」
「リムドブムルだよな。あいつが俺たちに反応する条件を検証したいと」
「そう」
俺たちが最初に解析をかけたときは反応し追われたが、次の探索では大きな音を出しても反応しないことが分かった。おそらくは自分に向けたものや、自分に被害があるもの以外はどうでもいいのだろうと思える。
とりあえずはハルのインパクトで反応しないかを調べてからだな。それで反応しなかったらモンスターが音に寄ってくるのは今までの探索からも分かっているのだから、音でおびき寄せ、まとめて殺すということが可能になる。
「まあ、とりあえずは検証だよな。じゃあ、そろそろ組手もやめてダンジョン行くか」
「うん」
俺たちは話し合いをしているものの実は現在は組手中であった。最近は相手の動きに慣れたりそれこそ自分の動きになれたりして組手に余裕が出てきたのだ。
俺が装備を再確認してダンジョンに入るとハルも解析で自分のステータスを見て、魔属性を崩から爆に変えながらついて来ているようだ。
実際ハルがしきりに空に目を走らせるのが見えるだけで、ハルの見えているであろうステータスはこちらからは見えないので断言のしようがないのだが。
転移の間に入るといつも通り魔法陣に入る。
「転移、森林」
いつものように一瞬で視界が変化し真ん中に螺旋階段が通る空洞の中にいた。勿論ここが16層の森林。飛竜の住処だ。
「じゃあ、行くか」
洞窟の外に出るとそこは森で、上空をリムドブムルが飛んでいる。
「いくね。『インパクト』『ディカプル』」
10の光が森の中に飛んでいき、連鎖的な大爆発を起こした。そして上空のリムドブムルは。
「問題ないな」
一寸の興味も示さずに優雅に飛んでいる。これで敵でなかったら美しい光景なのだが。あいにく大声だけで人を吹き飛ばす力を持ったモンスターには魅力は感じない。
「おにい、来てる」
ハルはそんなことを気にもせず、倒れていく巨大な木々と迫ってくる数十のモンスターの群れを見る。
「人為的なスタンピードは可能だということだな。じゃあ、俺はさっさと突っ込むぞ」
そう言い残し近くの木を三角跳びの要領で登り、モンスターを上から見下ろすと一気に飛び降りる。
「『ガード』『パワー』『スピード』『チェイン』」
さっと自分に付与を掛け、斧を居合切りをするかのように構える。そして地面に到達すると同時にもう1つの魔法を唱える。
「『バインド』」
チェインの効果で増加したバインドの茨がモンスターを吹き飛ばしながら地面から飛び出す。バインドで拘束する相手を選ばないからこそできる技。邪道中の邪道だろうが勝てれば問題ない。
「おりゃ‼」
自分の周囲にできた茨を全力で、斧の面の部分で叩きつける。するとどうなるのか。叩きつけた威力はチェインで増して、棘のついた茨はモンスターを切り裂きながら踊るかのようにモンスターを薙いでいく。
モンスターを薙げば他のモンスターに叩かれ威力を増して別のモンスターを攻撃する。俺はただバインドが消えないように時間ごとに重ねるように使えばいいだけ。
「おにい、避けて」
そして不思議にもここまでしっかり届くその声を聞き、バインドの茨を蹴り再び飛び上がる。
「『インパクト』『ディカプル』」
ハルの詠唱と共に光りが先程まで俺がいた場所を襲い、モンスターもろとも粉砕していった。さっと着地して生き残ったモンスターを処理する。
「終わり」
ハルが周囲を確認したようでモンスターがいないことを教えてくれる。
「お疲れ」
俺も一言返すとモンスターのドロップ品の中から目ぼしいものを回収していく。そして。
「じゃあ、2度目行くぞ」
俺たちは次々と森林破壊と狩りを進めていくのだった。
それは唐突に起こった。先程の狩りを5回行った後、何故か地中に残る敵の気配に首を悩ませる。
「転移したら石の中だった。みたいな?」
ハルはそんなことを言っているがそんなことは無いだろう。現在進行形で地面の中を動いているし。というわけでハルと手をつなぐ。やることはリムドブムルにしたことと同じ。
俺のスキルで地中にいる敵を把握してそれに解析を掛けるというもの。異常に強かった時のために距離を取ってから行う。
「『解析』」
ん? 地面の中の気配が動いた。こちらに向かってくる、やはり解析は使ったらばれるのだろう。そんなことを考えながらも気配をしっかりと把握し、回避行動に移る。
「名前は土竜で戦力は300だった。竜だって。気を付けて」
ハルも俺に引っ張られ後ろに下がりながら結果を報告してくれる。まあ、そうなんだが。確かに気をつけなきゃいけないほど強いんだけどさ。
地面から茶色の体毛をして鋭い爪を持ったネズミのような形の巨体を見る。
「ハル、土竜はドリュウじゃなくてモグラって読むんだぞ」
一言そう教えて土竜と向かい合う。
「加減はするな。全力で出し切れ。死んでもおかしくない相手だからな。とりあえずは様子見で行くぞ」
俺たちは武器を構える。俺たちは再び強者と相まみえるのだった。




