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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
2章 貧乏兄妹は資金を求めて東京へ
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19.兄妹は16層で格の違いを見る

「転移、15階層入口」


 そう口に出しながら転移の間にある魔法陣に乗ると一瞬の浮遊感と共に視界が変わる。


「おにい、行くよ」


 ハルはさっさと階段を上り14層へ行く。勿論ダンジョン内でハルを一人にするわけにはいかないからついていくのだが。敵はどれくらいで現れるだろうか。そんな心配は杞憂だったようだ。


「おにい、来たよ。私やるからスピードだけよろしく」


「半分残しておいてくれよ。『スピード』」


 道の向こう側から10体の影が見える。


「狼か、幸先いいな。ちなみに解析の結果は?」


「レッサーウルフ。多分ダンジョンの中って種類的にはあんまりいないと思う。せいっ」


 ハルは掛け声と共に地面を勢いよく蹴ると、あっという間に狼の群れの中心に立つ。そこにいた狼の首を吹き飛ばして。


「えりゃー‼ あ、やりすぎた」


 そのまま回転するかのように武器を横に薙ぐ。1秒にも満たない攻撃。たったそれだけで、6匹の狼が死んだ。


「ちょ、半分残しといてって」


 ハルに不満を述べながらも隠密を使って敵の背後に回り、斧を手に取れば勝負は一瞬で片が付く。ハルのように全体に攻撃をするのではなく1体ずつ素早く首を落としていく。


「ブランクとか関係なしに弱い」


「ちょっと。いや、かなり弱すぎだな。軽く人化牛でもやってみるか」


「そうしようか。はぁ」


 そうと決めたらさっさと15層に降り、門を開ける。中には前回と同じように岩に腰掛ける人化牛がいた。


「じゃあ、最短クリアで。『パワー』『スピード』『バインド』」


 魔法陣が現れ俺たちを強化し、人化牛を数秒茨が縛りつける。


「最短ね。『インパクト』『ディカプル』」


「グギャァァアー‼」


 人化牛は剣を手に取ろうとするがその手を茨に縛られて手に取ることができない。そしてそのままに魔法による爆発が全身を焼き、武器を遠くまで吹き飛ばした。


「「せーの」」


 唐突に前後から聞こえる声で、人化牛は爆発の煙の中、顔を上げる。目の前には金属の突起。言わずもがなハルのスコップだ。スコップは避けることも受け止めることもできず首にぶつかり、突き刺さりはしないものの硬い表皮を切り開く。そして。


「終わりだな」


 後ろから回り込むように伸びてきた斧が、スコップに斬られた表皮の隙間に入り込み。次の瞬間には、人化牛の体と頭は離れ離れになっているのだ。


「あー、終わった。人化牛って武器取るのさえ防げばそんなに強くないね。完全にリンチだったし」


「まあいいだろ。ドロップ品は、斧と肉か」


「残念だけどこんなに大きな斧は持って帰れない」


 ハルが言うのは全長1メートルにもなる斧。俺が使ってる手斧とは似ても似つかない見た目をしている。


「持って帰れないから、ここに破棄だな。その代わりに肉は持って帰ろう。ボスの肉だしおいしそうだ。じゃあ、16階層行くか」


「うん、もうちょっと手ごたえがある敵が欲しいね。ん? ねえ、おにい。この斧持って帰った方がいいかもしれない。15層出口に置いといて帰るときになくなってなかったら持って帰るってことでどう?」


「まぁいいけど。なんでだ」


「この斧に解析してみたんだけど、気になるのがあって」


 ハルはそう言って自分が解析で得た内容を説明してくれた。


『鋼の戦斧…鋼製の戦斧(スキル:強斬)』


「なんだこれ。とはいってもスキルなんだよな。武器がスキルを覚えるのか」


「たぶんこの斧持つと使える。名前の感じだと、見たことのないスキル」


「まぁ俺たちは人化牛のスキルなんて最初の奴しか見てないんだけどな。ま、どちらにしろ持って帰った方がいいのは事実だな。よいしょっと」


 斧は思ったよりも楽に持ち上がった。それは、それだけ自分のステータスが上がっているということに他ならない。


 魔法陣に乗り15層出口に跳ぶと、適当に斧を置いておく。


「じゃあ、行くか」


「うん」


 俺たちは16階層への階段を降りていく。降りていく。降りていく。


「長くね?」


 この時点で階層移動の階段の5倍の長さは歩いてるぞ。


「長いけど、そろそろ。空気が通ってきてる」


「それはおかしいだろ。ここは洞窟なんだ。風は通らないぞ」


 ダンジョン内では不思議設計で物を燃やそうが問題なしに呼吸ができる。だが今までダンジョン内で風を感じたことは無かった。

 そこからさらに1階分ほど降りていく。


「あー風だな。俺の把握にも反応した。空気の流れとかじゃなくて、環境が大きく変化したとしか分からんが」


 だんだんと風を肌で感じれるようになり、光が見えていく。


「ここは人智の及ばないダンジョン。風があることとダンジョン内にしても少し明るすぎる光。多分16層は」


 俺たちは階段を下り終え、光の方へ向かう。


「「野外ステージ」」


 光りの下に出ると周囲にあるのは高く立ち並ぶ木々。暗くはならないような感覚でまるで整備されたかのように立ち並ぶ木にダンジョンらしさを感じる。


「おにい、天井がおかしい」


 ハルに言われて木の間から上を見上げるそこには、遥か高くにある白っぽい岩の天井。そしてそこには大小さまざまな強烈な光を放つ石っぽいものが張り付いてた。光が強く直視しづらいので石っぽいとまでしか判別できなかった。


「ハル、あの石の解析結果は?」


「遠すぎて無理。5メートルぐらいしか届かない」


「案外解析の効果範囲って狭いんだな」


 そんな感想を吐きながら周りを見渡す。まず思ったことは静かすぎること。普通の森はここと違って虫の声がするし鳥も鳴いている、それが全くない。いや、少しはある気がする。ただその数が少なすぎるだけ。だってここにいる生物は、モンスターだけなのだから。


「おにい、お出まし」


「あぁ、久しぶりだな。ホブゴブリンだよな」


 最初に俺たちに近づいてきたモンスターはゴブリンだった。ただし体格は厳つくでかい。5層のボスとして存在したホブゴブリンとほとんど同じだった。ただ違うところは4匹で群れを作っていること。


「『インパクト』」


 ハルがスコップを前に出し、唱えると瞬く間にホブゴブリンは弾け飛ぶ。


「やっぱり敵じゃないな。弱い敵しか、いない?」


 俺がしゃべっている途中に頭上にすさまじいスピードで影が通る。それと同時に把握スキルで把握できる範囲内に大きすぎる気配が通った。サイズがじゃない。威圧感が人化牛とは別次元だった。


「おにい、ちょっとあれはやばい」


「あぁ、さすがにあれは勝てる気がしないぞ」


 俺たちが見たのは翼の生えたトカゲ。いわゆる飛竜だった。距離の問題で解析が使えないため、正確な強さは分からない。ただ。


「あれの強さは多分」


「人化牛10体程度なら瞬殺する」


「おにい、試したいことがあるんだけど。パワーとチェインを私にかけて。全力で」


「ん?分かったが。『パワー』『チェイン』」


 ハルの体が光る。ハルは静かに上を見上げている。


「おにい、協力して。チェインで私のスキルとおにいのスキルを伝染させる」


「どういうことだ?」


「おにいの把握スキルに私の解析を乗っける。あの竜を解析してみたい」 


「分かった」


 俺たちはその後の危険を考え自分たちが降りてきた階段があった洞窟に近づき再び上を見る。上空を飛ぶ飛竜が最も近くなる瞬間に、把握スキルを強く意識する。

 そして飛竜の姿を正確に把握すると同時に俺の体を魔力が流れ散っていく。

 その時だった。飛竜がこちらを見たのは。


「『スピード』」


 慌てて自分とハルに付与を掛け、ハルの手を握り洞窟の中に飛び込む。それでも止まらない。洞窟の奥まで行き階段を上る。あの飛竜では体が大きすぎて洞窟に入れば安心だ。安心のはずだった。


「『ギャァァアア‼』」


 何か大きすぎる力の乗った声が洞窟の外から響く。強烈な魔力の流れを伴い。


「大鎌」「モーニングスター」


 俺たちは考えることもなくただ勘で宝具を取り出す。そして全力で振るう。壁にひびを入れ砂煙を上げとてつもない速さで近づいてくる魔力の奔流に向けて。


「んなっ‼」


 宝具はいとも簡単に弾き返された。魔法でもなんでもない魔力の奔流に。当然のように魔力の奔流は階段の途中にいる俺たちを弾き飛ばし、壁に押し付ける。魔力に圧迫で声さえ出せないまま。

 意識が保てたのはそこまでだった。


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