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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
2章 貧乏兄妹は資金を求めて東京へ
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18.兄妹は新しい武器を手に取る

 4月1日。遂にダンジョンの一般公開が始まる。公開されたダンジョンは計9ヵ所であり、近くに東京のダンジョンがある千葉のダンジョンは政府が探索者の安全を守るために新しく作られたダンジョン省の管理下に置かれた。千葉県知事からの反対は強かったが、無事解決し千葉ダンジョンは封鎖された。

 ダンジョンを探索するには、『ダンジョン探索免許』が必要になった。試験は3月の第4月曜日から行われた。午前中に授業を受け、午後には午前中に習った授業内容に関する試験と、実技試験が行われる。

 実技試験は体力や運動能力を測るものではなく、距離を走り、体の調子に影響が出ない時点で休憩を取り、回復した後再び走り出す。これを3度繰り返すというものだそうだ。その中で、最初から手を抜いていたり体力を使い過ぎ、疲れを見せてしまった人は不合格となった。


 この免許を取るには義務教育終了が最低条件であり、それ以降も様々な制約が掛かっていたりする。

 ちなみに、何故このような若いうちからダンジョン探索を許可されるのかという疑問については若者の方が柔軟性が高く適応しやすいことやダンジョン自体が安全マージンを取ってさえいればそこまで危険なものではないと分かったものがある。

 実際に実験的ダンジョン探索でも切り傷以上の怪我をした者はいなかった。ただし、18歳未満のダンジョン探索者のダンジョン探索免許は保護者の意向で免許停止にすることができる。


 試験では、普段の生活ではあまり使わないような面での試験は運動が得意な人を大人数落とし、合格者はサッカーなどのチームスポーツを嗜んでいる人や長距離走の経験者が多かった。

 しかし、素人でも合格が可能となるような試験であるため、スポーツ未経験者もかなりの数が合格した。現状、ダンジョン探索試験の合格率は7割ほどであり、命をかけることの重みが窺われる。


 合格者にはダンジョン探索者の印であるダンジョン探索許可証を購入することができる。ダンジョン探索許可証を所持していると、ダンジョンへの侵入及び、武器の携帯が許される。

 ただし武器に関してはすぐに取り出せないように厳重に管理しなければならず、武器を持った状態でダンジョンとは全く関係のない場所に向かうなどの不審な行動があった場合はダンジョン探索許可証の許可範囲から外れ、銃刀法違反で拘束される場合もある。

 自分が武器を使う場合には申請が必要であり、それがなされていない武器は所持が認められない。ただし、ダンジョンにおいて自分の武器の特徴を周囲の人に知られるのは不測の事態への対処が難しくなるため、武器種のみの自己申告となっている。


 今日、ダンジョン探索はまだ一般開放されてはいないが、事前に行われた試験的なダンジョン開放において、ダンジョン探索を行った5つのパーティー。

『勇者御一行』『大和撫子』『葡萄会』『上腕二頭筋』『893(パックサン)』

 これらのパーティーは5階層のボスを討伐しており、ダンジョン内での事故により自衛隊の最強パーティーを失った今、戦える人の中では日本最強の探索者となっている。




「ふーん。どうせ俺たちは人数制限で試験さえ受けられてないからこんなん読んでても意味ないんだがな」


「いや、おにいは忘れっぽいからしっかり見て覚えといて。今、一番強い人のパーティーの名前も分かった」


「皆変な名前つけてるよな。俺たちもダンジョン探索免許手に入れたらパーティーで登録するようになるんだよな。名前は何がいい? ハル」


「なんでもいい。ダサくなければ」


「だよな。どうせ2人だし。さて、今日こそダンジョン行きますか」


「うん。どうせ、そんなに強い敵じゃない。久しぶりだから楽しみ」


 俺たちは人化牛を倒した後武器が無いことと新しいスキルや魔法などの検証が必要だったため本格的な探索ができていなかった。

 今日でそれも2週間。新しく得たスキルなどを使って武器を作ることもできたので、今日からそれを使ったまともな探索を始めていく予定なのだ。

 とは言っても、もともと金が無い俺たちに武器によさそうなものを見繕うことはできない。ただでさえ、ダンジョン探索免許を取るための費用が嵩んでいるのだ。今回は仕方が無いから大事な貯金を切り崩すことになっている。

 残念ながら公共のダンジョンに入るには私服では駄目なのだ。しっかりと装備をそろえなければいけないため、安いものだけでもそれだけで二人合わせて20万はする。

 それに加えダンジョンの1層から5層まではアイテムのドロップが無い。ダンジョンに潜れるようになったからといっても、すぐにアイテムを売り出してお金を稼ぐことはできないのだ。少なくとも最初のひと月あたりは。

 つまり金儲けの手段がしばらくは存在しない。だからこそ。


「ダンジョンアイテムをこっそり社会に流すしかないんだよな」


「お金儲けのこと? 難しいと思う。すぐにばれて特定されちゃう」


「そうなんだよな。ダンジョンを利用した金儲けか。なんか無いか?」


「うーん、ダンジョンでとれた金属を売るとか。たしか鋼があったよね」


「鋼はあるんだけどな。基本的に鉄って大した値段じゃ売れないぞ。貴金属にしてもまだ見たことは無いし、そもそも子供だけで金とかが売れるのかって問題もあるんだよな」


「んー、つまりは打つ手なし」


「だな。よし準備できた。じゃあ、組手から行くか」


「ん」


 俺たちは庭に出ていつも通り組手を始める。ダンジョン内に比べると圧倒的に動かないその体は自分たちの欠点がよく理解できるのだ。無駄が多い。

 無駄に助走をつけるし、無駄に大きく躱す。無駄に相手の攻撃を受け止め、無駄に振りかぶる。パッシブスキルの影響かそういうことが分かりやすくなっている。パッシブスキルの把握と加速の相性がとてもいいことが自分の覚えているスキルが何かを知ってからよく実感した。


 組手はいつも通りすんなりと終わり、俺たちはダンジョンに入る。


「まずは肩慣らし?」


「そうだな。ブランクが長すぎていきなり新しい階層に行くのは怖すぎる。まずは15層の入り口に跳んでそこから14層の探索だな」


「私も武器が違うから心配だしね」


 現在俺たちが持っている武器は俺が手斧で、ハルがスコップという組み合わせになっている。しかも2週間の間研究した工作と錬金により改造が施されていて、前に人化牛戦で使った時よりも強くなっている。

 当然のごとく服や靴も改良済みだ。靴に関してだけは下手に改良すると歩きづらくなってしまうので手を加えていない。せいぜい蜘蛛のモンスターがドロップした糸を使って補強するぐらいだった。

 武器の改造については工作と錬金のスキルが異常なほどの役立ちを見せた。ハルの解析を工作と錬金の説明文などに使い細部まで調べ、そして実験を重ねることでこのスキルはかなりの強スキルだということが分かった。

 まずは工作。これは予想通り魔力を伴った物の加工ができるようになるスキルだった。それに加えて、工作スキル持ちがドロップアイテムを加工しようとすると柔らかく感じ、加工しやすくなるそうだ。

 それとは逆に柔らかすぎるドロップアイテムを持ったときは硬くなったような気がしたそうだ。このスキルを使用したハルが書いた魔法陣には今までの物と違い解析を使うことが可能だった。


『平面型魔力媒体陣…魔力の流れを良くすることで魔法の威力を上げる簡易的な魔力媒体』


 思ったよりも難しい名前だったから魔法陣と呼ぶことにする。威力については検証済みで、工作スキルを持っていなかったときに作った魔法陣と比べると威力はそのままだったのだが魔法1回に使う魔力が減った。長時間の戦闘や魔法の使用ができるようになるので純粋にうれしい。

 次に俺の錬金スキルなのだが、錬金スキルは正直微妙だった。物質の入れ替えができるというスキルだったようだ。物から物へ何かを移すみたいなことがスキルの説明欄をさらに解析した結果分かったのだがそれの効果なのだろう。

 分かりやすく説明すると俺たちが使っている武器は当然のごとく地球でとれた金属と木材を使ってできているわけだ。で、俺たちはダンジョンでそれより丈夫な金属の代わりになる黒狼の角を持っている。

 だからこそ、武器の鉄の部分を黒狼の角製にしたい。ということで黒狼の角が、手斧の金属部分に行くように錬金を行う。すると斧の金属部分は少しだが黒っぽくなった。そして元はダンジョン外の物なのに斧の金属部分のみ解析ができた。


『黒狼鉄…黒狼の魔力が宿った鉄』


 あっさりとした説明だが。黒狼の角が強いことは前から理解している。さらに朗報で、俺が黒狼のドロップ品として使ってた今は無きナイフ。

 前回の人化牛戦の後、ハルがしっかりと持って帰っており、解析したところ『黒狼鉄のナイフ』ということだったらしい。つまり俺の斧はそれと同じようなものということだ。

 ハルのスコップは持ち手まで金属なので全面が金属になり、俺の斧の手持ち部分は別のモンスターからドロップした木材と錬金して強化しておいた。残念ながら木の部分を金属と錬金することやその逆もできないことが分かった。

 そんなこんなで、二人とも助け合うことで、今までとはくらべものにならない強い武器ができたのだった。ただ1つ文句を言うならば。


「前のバールや鍬の時も思ったけど、戦うために作られた武器じゃなくて農具だから。手に全くなじまない」


「おにい、今更仕方がないことに文句言わないの」


 俺たちはたとえブランクが空いても軽口をたたきながらダンジョンに潜るのであった。


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