17.兄妹はスキルを手に入れる、入れてた?
俺たちは、話の前にさっさと着替えを済ませ、昼ご飯にはまだ早いのでテーブルに集まる。
「で、相談ってなんなんだ?」
ハルも何故かペンと紙を持ってきたのでこちらから話を切り出す。
「まずは、私。人化牛戦であるスキルを手に入れました。名前は『解析』」
「おーよかったな。で、やっぱスキルゲットのトリガーは金属のカードか?」
「そうみたい。色は金色の奴だったんだけど。で、試しに解析のスキルを自分に掛けてみたの。そしたらステータスが見えちゃって」
「おぉ、どんなだったんだ?」
今まで見たいといくら願っても見ることができなかったレベルを確かめることができるようになるのだ。うれしくないはずがない。
「まあ、ステータスも言わなきゃなんだけどそれ以上に分かったことがあったんだけど」
「何だ?」
心当たりは何もない。ステータスに異常があったとかか?いや、そしたらもっと早く言うか。
「あの金属のカードは稀にスキルとか魔法を得られるアイテムじゃなかった。そのカードが手の上で消えた瞬間にスキルか魔法を覚えることができるカードだったの」
「は?」
想像もしていなかったハルの言葉に呆然とする。あのカードでスキルがゲットできるならば俺が今までに使用したカード。枚数は確か7枚のうちの6枚は何もスキルを得られていないのか。
「あのね、おにい。そのカードを使って私たちはしっかり魔法もスキルも覚えてたんだよ。ただ、何を覚えたかが分からないから使えなかっただけ」
「じゃあ、なんでハルは自分がスキルを使えることを知ってるんだ?」
今、ハルが言ったのが事実ならハルもカードの効果について知ることはできないはずだ。
「カードを霧に変えるときに、なんなんだろうって考えなきゃいけないでしょ。で、そしたら消える途中に一瞬だけ頭の中に文字が浮かんだの。一瞬だったから途中までしか読めなかったけど分かったのだけ紙に書くね」
『解析』のスキルカード(使用済み)
スキル『解析』を覚えることができた。鑑定系統…
「こんな感じだったんだけど。多分スキルを覚えてからカードが霧になるまでのタイムラグで解析しちゃったんだろうと思うんだけど。だとしたらトリガーはなんだろうと思うこと。普通に解析って言ってもいいかもしれない」
「で、スキルはダンジョン内じゃないと使えないから、確かめに行こうということか?」
「だと思ってたんだけど、このスキルはここでも使えるみたいで。さっき自分を解析しちゃった。おにいを解析するには本人の許可が必要みたいでまだしてないけど」
「へぇー、ハルのステータスは?」
「私が今まで使ったスキルカードは6階層から14階層の雑魚からドロップしたのも合わせて8枚でスキルと魔法は合わせて10個あってこんな感じだった」
名前 :ハルカ
技能 :魔法・工作
魔属性 :爆(電)(崩)
レベル:44
強度 :51
魔量 :102
スキル:解析
魔法 :ボム・タイムボム・インパクト・ナンバー・(プラズマ)・(亀裂)
パッシブ:魔力回復・察知・工作
「おぉ、案外詳しく載ってるんだな」
「うん。当たり前だけど現実にはHPなんてないんだよね」
「どんなにHPが高くても首切られちゃ死ぬからな。となると強度ってのは力か、いや他のステータスは無いから体の純粋な丈夫さだろうな」
「だから、ステータスで筋力とか速さは分かんない。帰る途中試したけど解析の解析結果がこれで、解析は立て続けに2回は使えないけど頭の中で思い浮かべた解析スキルに解析を使ったらできたよ」
『解析』
種類:スキル
クールタイム:1m
ダンジョンと密接に関わる物や者の特性を制限付きで閲覧できる。
「というわけで、さあおにい。私にステータスを見せるように念じて」
「了解」
ハルにステータスの閲覧を許可する。と念じていると何かが自分の中から引っ張り出されるような気がした。
「いいよ。おにい。今から紙に書いていくから待っててね」
名前 :トウカ
技能 :付与・錬金
魔属性 :無(呪)
レベル:45
強度 :57
魔量 :93
スキル:隠密
魔法 :スピード・パワー・ガード・バインド・チェイン
パッシブ:把握・加速・錬金
「なんか、普通だな」
「そうだね。私のもそうだったけどただの魔法使いだよね」
「まあ、どちらにしろ今日はもうダンジョンには潜らないしゆっくりしようか」
今考えていてもどうしようもないのでとりあえずは昼ご飯を作り始めるのだ。
自分たちがスキルを持っていたことが判明してからはダンジョンに行かないと決めていたため自分の家にいたが、家でできる検証としてかなりの数ハルには解析を使ってもらった。
今まで気になっていたことなど様々なことが分かった。
最初は黒曜石のような石。解析の結果は『魔石…ダンジョンの欠片』と分かったが理解はできなかった。
次にたくさん入る壺で『空間の壺…空間を捻じ曲げることで5トンの質量まで収納可能』。
そして最後に武器を出す指輪で『宝具トウカ1…トウカにしか使えない切り札(レベル×10秒だけ使える) クールタイム24h』
ちなみにハルの指輪は『宝具ハルカ1…ハルカにしか使えない切り札(レベル×10秒だけ使える)クールタイム24h』
指輪は名前が所有者の名前になることが分かった。そして自分以外には使えないと。
そしてあとはステータス関連。感想は結構普通だった。魔法やスキルの説明は名前で分かるようなことだけしか書いておらず、威力や範囲、効果時間は分からなかった。ただし必要とする魔力が分かったのは幸いといえる。
調べてみた結果、魔法は使用に魔力が必要で、スキルは何回でも使えるがクールタイムが存在するということらしい。そしてこれらはある程度の例外を除きダンジョン外では使うことができない。
さらにパッシブとは常に発動しているスキルであり、ダンジョン外でも発動し続けるようだ。そう考えると自動迎撃のパッシブはなさそうだ。
そして最後に最初に選んでないクラス。いや、技能といった方がいいのか分からないが工作と錬金。パッシブにあったスキルを解析すると
『工作…ダンジョンのアイテムの加工・分解ができる』
『錬金…ダンジョンのアイテムの抽出・変換ができる』
となった。まったくもって意味が分からない。ダンジョンのアイテムの加工なんて今までもやってきたことなのに。と言いたいのだがハルが不思議なことを発見した。
猪の角を加工して作ったカードは解析できなかったのだ。勿論猪の角は解析できたのでアイテムに問題はない。結果は『下級猪の角』だった。
それについてハルの考えによると、解析はダンジョンと密接に関わるものを解析できるのだから、自分の手で加工したものはダンジョンと密接に関わると判定されなくなるのでは。ということだった。
だとすれば加工のスキルを持っている状態で行うと、ダンジョンとの関係を切らずに加工ができるのではないか、と。まあ、それにどんな意味があるのかは分からないが。そして錬金についてはよく分からないと。
とまあ、昨日はそんなことを調べるのに費やし、今日は実際に使ってみての検証というわけだ。俺のメイン武器は鉈。ただし前に使っていた、斬ることも刺すこともできる奴ではなくて、倉庫に眠っていた叩き割るためだけの鉈だ。使いづらいがしょうがない。ちなみにハルはいつもの鉈と鉄パイプだった。
とりあえず、ということで10層のボスの奥に転移してモンスターを狩っていく。魔法の検証もあるため、俺の付与を掛けられたハルが鉄パイプで殴ったり魔法で敵を木っ端みじんにしているのを眺める。
たまに『バインド』を使って動きを止めたりもしている。ハルの魔法は『プラズマ』と『亀裂』は使えなかったが新たに手に入れたインパクトが強かった。
数体の敵であれば一瞬で吹き飛ばすし。音の影響でか発生した30匹ほどのモンスターを俺のチェインを掛けた状態でインパクトを放つと、たった一撃で全滅したのだった。敵を爆破させることを伝染させたとはいえ、威力が高すぎて爆発を逃れたモンスターが内側から爆発するのはグロかった。
そんなこんなで新しいスキルや魔法の実験は終わり、10層に戻ってきてボス部屋に入る。今日最後の実験は切り札とやらの実験だ。レベル×10秒なのだから俺たちが使えるのは約500秒。そしてクールタイムに1日も取られるのだから強いはずとの考えだった。
「じゃあ、まずは俺がやるから手を出さないでくれ」
ハルと一緒にボス部屋に入ると黒狼の前に立ち、俺だけが指輪に魔力を通して大鎌を出す。
「行くぞ。『スピード』『パワー』『ガード』『チェイン』 『バインド』」
バインドだけを少し後に出しそれと同時に正面から突っ込んでいく。バインドの効果で地面にできた魔法陣から少量の茨が飛び出して一瞬だけ黒狼の動きを止める。ただ、俺たちの上がったステータスなら、一瞬あれば十分だった。
「せいっ‼」
おかしな掛け声とともに大鎌を振り抜くと、たったそれだけで黒狼の首は真っ二つになり、チェインの効果で体中が切り刻まれる。
「オーバーキルだな。はぁあ。威力がやばい」
「おにい、やりすぎでしょ。次は私だからボス部屋出るよ」
ハルに押されて部屋から出ると魔法陣を通って門の前に戻り再びボス部屋の中に入る。黒狼は元気そうにこちらを睨んでいる。ハルはモーニングスターを出し構える。
「行くよー、『インパクト』『ディカプル』あ、やば」
ハルの魔法はあっという間に黒狼に届きそのまま爆散させた。ハルはそのまま何事もなかったかのように俺のところへ戻ってくる。
「おにい、魔力使いすぎた。それとこの武器、魔法陣入ってるみたい。威力は2倍以上かな。私の作ったのより効果が高いみたい」
「そんなこともあるんだな。じゃあ、武器もあり合わせしか無いし今日は帰るか。確かあと1週間でダンジョンが解放されるみたいなこと言ってたから。それまでゆっくり工作と錬金やろう」
「そうだね。たまには息抜きする」
「じゃあ、帰りますか」
強くなっても気持ちは変わらず娯楽のために動いていく。そして誰にも知られずに到達した日本最強はしかし、本人すらも気づいていないのだった。




