表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
1章 貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ
16/132

16.兄妹は関門へとぶつかる(2)

「じゃあ、第二ラウンドと行きますか」


 折れてしまった鍬を諦めて右手にナイフ、左手に鉈を構える。


 知能がある生物ならば本能で動く生物とは違い、敵の動きに対して思考する。俺たちは先程まで作戦の1つ1つを声に出して人化牛に伝えてしまっていた。

 それにより人化牛は俺たちとの戦い方を声を参考にしたものにした。そうやって戦い方を決めてしまえば臨機応変に動くのは難しい。特に、前より自分に入る情報が少なくなれば猶更。

 それに対して俺たちは作戦を口に出さないで連携を取ればいいだけだ。普通ならばそれは難しいのことなのかもしれないが。ずっと支えあって生活してきた俺たち兄妹ならばさほど問題はない。


「じゃあ、行くぞ」


 最初にそう宣言し口を閉じる。これ以上の言葉は必要ない。

 人化牛が息を吐いた直後にすり足で距離を詰める。合気道時代に軽くやった歩法で、上下運動が少ないために近づいてくることに反応しづらいそうだ。

 まずはナイフで軽く突き、そこからは先程と同じように目と筋肉と呼吸を見て攻撃を躱していく。リーチが短いため喉や顔には届かないがその分手数は増えている。

 避けながらさらにフェイントを混ぜ入れていく。知能のないモンスターはフェイント以前に相手の動きを見て攻撃などしてこない。しかし知性があるからこそ騙される。力があるだけで戦闘経験のない人化牛なら尚更だ。

 どんどん攻撃回数を増やしていき攻撃の時に負担がかかる部分を傷つけていく。大きなスキを見つければ後方からハルが殴り飛ばし、離れる。俺のインファイトとハルのヒットアンドアウェイ。筋肉の詰まった重い体を支える足や武器を支える手には傷が増えていき、人化牛でさえも疲労が溜まっていく。


「『チェイン』」


 人化牛が一瞬ふらっとしたのを見計らいハルに付与を掛ける。そのまま人化牛の横を走り抜けバットを振りかぶり走りこんでくるハルとすれ違う。ハルのポーチからポーションを1本抜き、人化牛の少し前に投げ捨てる。


「うーりゃっ‼」


 ジャンプしたハルの掛け声とともに人化牛の頭部に放たれた殴打はチェインで何倍かに膨れ上がり、重い音を響かせる。

 さすがの人化牛でさえもふらついた瞬間に脳が揺れるほどの強打を頭部に加えられれば倒れこむだろう。しかしそれでも倒れないのが人化牛。倒れる寸前に片足を前に出し強く地面を踏み込むことで転倒を耐える、はずだった。

 強く踏み込んだ足が落ちた場所は先程俺が投げたポーションが転がっている。そしてポーションの瓶は中にポーションが入っている限り途方もなく硬い。そして瓶の形は円柱だった。

 踏み込んだ足は瓶で転がり股を割るようにして倒れこむ。


「ギャァアーー‼」


 自重により思いきり足を開くことになった人化牛は初めて悲鳴のようなものをあげる。


「うわー、痛そ」


 あまりの痛みからか人化牛の手から零れ落ちた斧を足を痛めないようにするために押すように蹴飛ばして人化牛が武器を拾えないようにする。


「せーいっ」


 ハルが追い打ちとばかりに後ろから後頭部を殴り飛ばすとあっさりと人化牛は転がっていく。そしてそこに待つのは俺のナイフと鉈。人化牛が防ぐ前に両目を斬り飛ばす。これで視界は奪った。機動力と視界を失った人化牛にはもう勝ち目はない。

 音をたてないように回り込み、全力で人化牛の首にナイフを差し込む。浅くしか刺さらないナイフを人化牛から距離を取るついでにナイフの柄を踏み込み、首に深く差し込む。


「うりゃぁ」


 深く刺さったナイフに向かいハルは思いきりバットを振りかぶり、ナイフの柄を打った。


「ガァァ、ァ」


 バットによって吹き飛ばされたナイフは人化牛の首を半分ほど切り離し、床を転がる。

 こうなればさすがに生きてはいられない。開かれた首から血が噴き出し、断末魔の叫びをあげることすら許さない。


 数秒ほど痙攣したようにぴくぴくと動き、そしてあっさりと霧になって消えていった。


 人化牛が死んだ場所にはいくつかのアイテムが転がり、入り口とは反対側の端っこには魔法陣が現れる。


「「終わったーーー‼」」


 二人そろって武器を投げ出し両手をあげて勝利の雄叫びをあげる。

 と同時に膝から崩れ落ちた。膝が震える。いや、膝どころじゃない。節々が震えている。それだけの疲労が溜まる戦いだったのだ。落ち着いてから汗が滝のように噴き出てくる。いつの間にかインナーは汗でびしょびしょになっていた。


「怖かったぁ」


 ハルがこちらに這いよって抱きついてくるので抱きしめて頭をポンポンと叩く。しばらくそうしていると落ち着いたようで、だんだん震えが収まってきた足を必死に動かして、ドロップ品の確認を始める。

 ドロップしていたものは、いつもの物より綺麗な銀色の金属のカードが2枚。それの黒色バージョンが2枚。金色バージョンが1枚そして紫色の装飾の入った指輪が2つだった。

 とりあえずということですべて回収し、魔法陣に乗ると選択肢なしに見覚えのある部屋に転移する。ボス部屋の奥の部屋。作りは前回と全く同じだった。ここにモンスターが来ないことは分かっているので、アイテムを置いていつも通りに処理していく。

 カードはやはり持っても霧にならないものがあり、そういう物はハルが持つと霧に変わる。結局霧になったのは、俺は銀と黒1枚ずつ。ハルはそれ以外なので金色のカードが1枚多い。

 次に、とはいえ残りはこれだけなのだが指輪を手に取る。適当に中指に通してみると、だんだんと大きさが変わりしっかりと嵌まった。ハルの方も同様に俺より細い指なのにすっぽりと嵌まっていた。


「うわぁ‼」


 ハルがいきなり驚きの声をあげたので見てみるとハルは今まで武器として使っていた釘バット以上に狂暴そうな武器を抱えていた。とげの生えた球体に持ち手が付いた武器。現実で見ることは無いがファンタジーではたびたび用いられる武器。モーニングスター。


「おにい、これ重い」


 ただし今までの武器に比べるとかなり重いらしく、体力を消費しきったハルでは持ち上げるのが精いっぱいだった。


「で、その武器はどっから持ってきたんだ?」


 とまあ、疑問はモーニングスターではなく、それがどこにあったのかなのだ。周囲にはそんなものはなかったし。ハルもその場から動いていない。


「指輪に小さな魔法陣が付いてたから。魔力流してみたら武器が出てきた。こうやって、あ」


 ハルが再び実践するように魔力を指輪に流すと先程までハルの手の中にあったモーニングスターは霧となって指輪に吸い込まれていった。さすがにハルもこれは予想していなかったようで驚きを見せている。


「じゃあ、こっちはなんだろうな」


 立ち上がってから手を前に軽く出し指輪に魔力を流す。


「おー。おにい死神」


 ハルの言う通りだ。俺の指輪から出てきた武器は大鎌だった。刃がどでかく柄も長いまるで死神が持つかのような大鎌。

 刃がでかいためか重心が圧倒的に前に寄っていて柄の真ん中あたりを持たないと使うのは難しそうだ。再び魔力を流してみると大鎌は指輪の中に消えていった。


「はぁーいつも通り収穫はこれだけか。後はよく分からない金属のカードっと。じゃあ、帰るかハル。武器は仕方がないけど鉈だな」


「うん。それ以外の武器はもう使えないからね。おにいは武器なし?」


 ハルが言うように俺たちの武器は人化牛との戦いで壊れてしまった。俺の鍬はへし折られたし、俺のナイフとハルのバットは最後に人化牛の首を切り離すときの衝撃で、ナイフは根元から刃がぽっきりと折れて、バットもその衝撃で砕けてしまったのだ。

 今では芯として使われていたバールが無残に折れ曲がっている姿になってしまっている。


「俺は武器無しだな。まぁモンスターがいたとしても1階層しか通らないんだから平気だろ」


 ドロップ品をさっさと回収すると、ハルと手をつなぎ帰還の魔法陣の場所まで向かう。ただし体力が尽きかけていてハルが立ち上がることもできなかったのでポーションを俺とハルで半分ずつ飲んだ。

 裂傷などは無いためその回復力は俺たちの体力を回復するのに回る。歩くのが容易になるほどまで回復したのでさっさと転移の間に転移した。目の前にはゴブリンがいたので軽く回し蹴りをすると吹き飛んで霧となっていった。

 また強くなったみたいだな。人化牛戦でまたレベルが上がった気がする。

 俺たちはいつものように地下室に戻り装備を脱いでいく。


「おにい、話があるの」


 ハルが装備も脱がず唐突にこちらを振り返り真剣な表情をこちらに向ける。


「色々分かっちゃったから。ちょっと相談。聞いて」


 ハルは俺に向かってちょっと困ったような。しかし自信がある表情で首を傾げ、いつも通り薄く笑うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ