14.兄妹はしばらくの時を経て
初めてダンジョンに入った日から6週間が経とうとしており2週間後にはダンジョンの一般公開が控えている。
そしてついに今日14層の探索を終えた。魔法陣を使い始めたあの日から強化された魔法を使い、調子づいた俺たちは次々とダンジョン探索を進めていった。
そうなれば当然のように武器の消耗も激しくて。ついには俺たちが12層の探索をしている途中に、鍬の柄の部分がへし折れた。仕方が無いからと、その日は探索を中断して、新しい鍬を買いに行ったのだが結局は買うことは無かった。なんとなく刃のついている部分に触った時に頼りなく感じたのだ。
浅い層の敵と戦うときには良いのだが、今探索しているような階層に持っていけば攻撃が通らずあっという間にへし折られてしまうような根拠もない予感を信じることにしたのだ。
しかしそうなると武器が無い。ということでさっさと家に帰り、庭にある自作のかまどに火をつけた。10階層のボスであった黒狼は高さ3メートルほどの巨大な黒い狼で、頭に立派な角を持っていたのだが、ハルのボムの弾幕と、その間を縫った俺の急所への攻撃で難なく倒した。
ちなみに黒狼のドロップ品は金属のカード2枚と、真っ黒のナイフ。ナイフは俺がサブウェポンとして使わせてもらっている。
そしてついに11階層。そこから先では、一気にドロップするもののレパートリーが増えたのだった。強度が高く熱に強い石をドロップする異常に硬い奴や、石炭のようなものを落とす、自爆するゴーレムなどもいて。今、庭にあるかまどは最初に作ったかまどに比べれば格段に成長している。ダンジョン産の石炭は簡単に高温まで上がってくれるのだ。
そして火の中に真っ黒の角を突っ込む。これは黒狼のドロップ品。先程ドロップしたのは金属のカードとナイフだと書いたが、ダンジョンのボス討伐は何度も行うことが出来て、1回目とそれ以外ではドロップ品が違うらしい。偶然そのことに気づいた俺たちはまるでゲームかのようにボスの周回を行った。
計、20回のボスアタックだったがドロップしたのは、爪が11個に小さな毛皮が9枚。黒曜石のような石が2個と金属のカードが2枚。そして巨大な角が1本。その角も猪の角と同様金属として使えるだろうということで、現在ハルに許可を取り、黒狼の角を鍬の柄に変えているのだ。
鍬の柄の部分を焼くことにより外して、そこにぴったりと黒狼の角で作った棒を差し込み、再びかまどに入れて叩くことで溶接する。とはいえ、この温度ではまだぎりぎり鉄は溶けないので、鉄の隙間に溶けた黒狼の角が入り固まることでつなげている状態である。
念のために柄と、刃と柄の間の部分にワイヤーを巻いて熱で固定することによって強度を上げておいた。ちなみにハルのバールは猪の角で強化され、現在は釘バットのような見た目になっている。お兄さんとしてとても怖いです、ハイ。
俺がその作業をしている間に、ハルは黒狼の毛皮で細めのリストバンドのようなものを作ってくれた。
そこには、俺が鍬の加工するときに余ったほんの少しの黒狼の角で作られたプレートが取り付けられていて、魔法陣が彫られている。
これを手に巻いておくことで素手で強化された魔法が使えるらしい。そんなこんなで武器の強化を終えた俺たちは、休憩に1日の間を空けて再びダンジョン探索に向かうのだった。
「そして俺たちは今、14層の探索をしているのだ」
「おにい、うるさい。変な現実逃避してないで片づけて。『ボム』『トリプル』」
ハルはいつの間にかできるようになったという魔法のまとめ撃ちをすると、その爆風で少なくない数のモンスターが吹き込んでいく。
「はいはい。了解ですよっと。『スピード』」
黒狼のナイフと鉈を両手に持ち、大量のモンスターの間を走り抜けるとそこにいたモンスターの首はいつの間にか断ち切られ、それを知ることもなく霧となって死んでいく。黒狼の周回をしているあたりからだろうか、どうにも感覚が機敏になり、ハルとは今まで以上の連携が取れるようになった。
モンスターの首を飛ばしながら走り回り、ふと動きを止めるとその瞬間には肌すれすれにハルの魔法が飛んでいく。
「おにい、そろそろ魔力切れそうだから突っ込む」
「おー、じゃあ一気に終わらせるか。『スピード』『チェイン』」
見た目は釘バットと化したバールを持ってモンスターの群れに突っ込むハルと自分に2つの魔法を使う。
俺が使える魔法はスピードだけだったのだが、ある日異常に強いスケルトンが出てきたのだ。スケルトン自体は12層に出てくる雑魚なのだが、そいつはその強さをはるかに凌駕し、体を軽く金色に染めていて、魔法で攻撃してきたのだ。
その体の骨は魔法に強い耐性があるようでハルのボムは全く効いていないし物理耐性もそこそこ高くなかなか攻撃が通らなかった。スケルトンの使う魔法は簡単に避けることができるのでダメージは当たらないがこちらの攻撃も効かない。
なので地道に関節などをタコ殴りにしていき、スケルトンが死ぬ頃には軽く1時間は経っていたのだ。黒狼とあのスケルトンが戦ったら必ずスケルトンが勝つだろうというぐらいには強かった。
そしてそのスケルトンのドロップアイテムが大き目の壺と金色のカードだったのだ。
長時間戦っていて疲れたからだろうか、何も考えずに金色のカードに触れたときにはもう遅かった。
視界が動きを止め頭の中に文字が表示される。最初にダンジョンに入った時と同じ他者との相談ができない状況。そこで頭の中に表示された文字を理解し呆然とする。
魔法メイカー
種類:付与魔法(固有魔法)
属性:設定してください
名前:設定してください
効果:設定してください
まあ、つまりは新しい魔法を作れるということだった。どれほどの制限があるか分からないので、制限に縛られなさそうなスキルにしておいた。自由度が高ければどこまでも手を伸ばせるようなスキル。その結果が先ほどのチェインだ。
魔法メイカー
種類:付与魔法(固有魔法)
属性:無属性
名前:チェイン
効果:伝染させる
この魔法は思った以上に制限が広く強かった。その分魔力の消費も激しいがそれが気にならなくなるぐらいには。今回はハルの攻撃面に対してチェインを付与した。そうするとどうなるか。
結果は、ダメージが伝染する。
それこそ攻撃を当てたモンスターの近くにいる別のモンスターへもダメージが加わるのだ。ハルが軽くその武器を振るうたびに何匹ものモンスターが肉塊となり次の瞬間には霧となって消えていく。いつも通りの近づくことすら危険なその戦いに混ざる勇気はないが俺も戦わないと終わらないし経験値が入らない。
「というわけで俺も混ざりますか」
ナイフと鉈を腰に固定し鍬を取り出す。
「『スピード』『チェイン』」
残りの魔力を余裕がある範囲で使い、ハルから少し離れたところで戦闘を始める。あえて言うのならばチェインの操作は使っている本人である俺の方が圧倒的に上手い。
鍬でモンスターの首を斬り、首に斬撃を加えた。という事象を周囲に伝染させる。急所への攻撃の一点だけを伝染させることにより無駄な力を使うことなく広範囲の敵を殺すことができるのだ。そこまでしてやっと攻撃範囲はハルと同等。戦い方が違うのだから向き不向きもあるだろう。
そこからはあっという間だった。それはそうだろう。吹き飛ばす力だけが高いボムに比べたら物理攻撃の方が威力は高いうえにそれが範囲攻撃になったのだ。
もうすでに俺たちのレベルは軽々と雑魚を一撃で倒せるぐらいまでは成長している。レベルを知ることはできないけれど。そしてあっという間にそこにいた100を超える数のモンスターは数多のドロップアイテムを残して消え去ったのであった。
さて俺たちはなんでこんな状況に陥ったのか。正直に言うのならば知らん。俺もハルもまったくもって心当たりがない。となれば前にファンタジー小説でみたあれだろう。あの、魔物が一斉に暴走して襲ってくるやつ。
「スタンピードかな。おにい」
「あ、あーうんそうじゃないか。さすがにこんな大量のは初めて見たけど」
これまでにも大量の魔物の一斉強襲は何度も経験している。しかしそこにいたモンスターの数は少なくて十数匹。多くても50は超えないような数だったのだ。
しかし今回は100を軽く超えてきたような気がする。もしチェインが使えなかったら、迎撃が間に合わず撤退。最悪の場合は数に呑まれて死んでいたかもしれない。ところどころにできてしまった傷に霧吹きに入れたポーションを吹き掛けていく。
ちなみにポーションは13層の緑色のスライムが落とした。瓶に入った状態で。しかもすごいことにこの瓶は、中にポーションが入ってるときには全力で投げても割れないのに、中身が空になったりポーションではなくなると急速に劣化するようで5分でひびが入り、10分で砕け始め1時間後には砂になっていた。
そんなどうでもいいことを考えながら、モンスターからドロップしたアイテムの中から必要なものだけを拾ってリュックに詰めていく。
いくら敵を倒しても持って帰れるのはリュック2つ分だけなのだから。必要そうな物だけをリュックに詰め、とうとう15階層に降りる。勿論今日はボスには挑むことは無い。
俺たちはひそかにスタンピードのことを心配しながらわが家へ向かうための転移魔法陣に乗るのだった。
願わくば、何事もなくボスを倒すことができますように。




