132.兄妹は強敵と出会う
お久しぶりです
段々と大きくなるその揺れは足場を崩し、地響きをもたらした。耳を塞ぎたくなるほどの地響きでハルに声が届かなくなるのを危惧し、ハルに背を合わせるように立つ。
この揺れがただの地震であるはずが無い。そもそもダンジョンの中で地震があるということも聞いたことがない。ダンジョン内で揺れを感じたのならば、とてつもない量のモンスターが駆けているか、強力な攻撃が地面に当たったかしか無いのだ。
今俺たちの周りにあるのは瓦礫の山。いつの間にかブルランドは姿を消している。モンスターの姿は無く、『把握』に何かが反応することも無い。この大きな階層にいるのは俺とハルの2人だけだった。
ゆらりと目の前の魔力が不気味に揺れ動くのを感じた。見えない敵かと揺れた魔力に刀を振るうが、何事もなく通り過ぎる。揺れ動く魔力は地面に伸びていて、よく見れば瓦礫の隙間からゆっくりと大量の魔力が沸き上がっているのが見えた。
偶然かそれとも兄妹の絆か。俺はハルの手を掴み、ハルは俺の腕をつかむ。声を発する間もなく、互いに引っ張るようにして同じ方向に跳んだ。
間一髪、たった一秒でも遅れたら駄目だったかもしれない。俺たちが跳んでコンマ数秒後、つい数瞬前まで立っていた地面が爆発するようにして吹き飛んだ。空中で体を捻ることで、爆発で飛んでくる瓦礫からハルを守る。大きなものも何とか刀で振り払い、その勢いでさらに爆発元から距離を取ることができた。
「おにい、大丈夫⁉」
ハルが慌てたように駆け寄ってくる。
「問題ない、ハルは大丈夫だよな」
「守ってもらったから。瓦礫を止めるなら私の方がむいてた気もするけど」
ジト目でこちらを見るハルに言われて初めてそのことに気づく。ハルの武器はトンファーで俺は刀だ。瓦礫のように固いものを弾くだけならば断然打撃武器であるトンファーの方が行いやすい。
「悪い、気を付ける」
ハルを守ったことに後悔はしていないが、今の行動は良くなかったと反省する。2人だけでダンジョンを探索している俺たちは、他の4人パーティーの探索者より役割分担をはっきりする必要がある。
ここ1か月のユニークモンスターラッシュで役割分担にも慣れてきたつもりだったがまだ拙い部分が多い。
あの爆発とともに揺れは収まったようで、残っているのは先が見通せないほどの土煙と濃密な魔力。
先ほど下から感じた魔力よりも強い魔力が土煙の中から噴き出している。
「大鎌、無形の鎧、【スピード】【パワー】【ガード】」
「出て、モーニングスター、『看破』」
自分とハルに付与をかけ、宝具を召喚し、できる限りの戦闘態勢を整える。ブルランドと会ったとき同様に宝具の指輪は光り輝いている。この光がこのまま続くのなら、時間制限を気にする必要はないだろう。
ほぼ確実に、宝具の時間制限を管理しているのはブルランドかソステヌート。俺たちが彼女にこの場所に送られたのを考えるとここでいきなり宝具の時間制限を解除されるというのは考えづらい。
「おにい、『看破』が弾かれる。強さがわかんない」
「分かった、攻撃はしないで回避優先で様子を見るぞ。防御はできるだけするなよ」
土煙の向こうの相手が人型ならば、敵の速さを見ておおよその攻撃力は予想することが出来る。問題は何かしらのスキルや魔法を使われた場合。【パワー】や『強斬』などと、剣を振るった速度以上の攻撃力を生み出すことは可能だ。ましてやこれから戦うのは未知の敵。
威力を上げる以外の攻撃を強化する魔法が無いとは言えない。
「あら、お前も私の邪魔をするの? お前たちもその程度の強さで、ステータスで。魔物風情が、魔物じゃない? 侵入者、殺す。殺さなきゃ?」
土煙の中から声がした。少し低めの落ち着いた声。きっと以前は美しい声だったのだろう。そう思ってしまうほどにその声は掠れ、その言葉は狂気を纏っていた。
「私は、ワタシは? あ、あぁ。殺さなくては、魔力を、再生を、フッカツヲ」
薄くなっていく土煙の奥にあるのはやはり人影だった。かつてはブルランドやソステヌート同様メイドの格好をしていたのかもしれない。しかしその人影は服と言えるのかも怪しいほどボロボロになった黒い布を身にまとっている。
よく見ればその黒は、元の布の色ではなく、洗われなかった血や汚れによって染まったものだと分かる。
土煙が晴れていく。見開かれた目は充血し、天高く上げられた両手は骨が浮き出るほどやつれて見える。
突如、魔力が吹き荒れる。砂が、瓦礫が宙を舞い、竜巻の中にいるかのようで。たった一瞬、されど一瞬。
無意識のうちに行われた瞬き。
一秒にも満たないその間に。
俺たちの視界は高速で降り注ぐ無数の魔法で埋め尽くされていた。
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