131.兄妹は荒野の戦場へ
『地下室ダンジョン』コミックス2巻発売中です‼
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「なんだよ、ここ」
そんな言葉が口をついて出る。ダンジョンとは異質な別世界のようなものだ。入り口が洞窟だと思えばいきなり森の中に入り、そこを進めば人工物の遺跡のようなところに行きつく。ここはその先。
この景色を見た人が一体どれだけいるだろうか。たぶんいないだろう。このような景色を見て、誰にも言わないなんてきっと無理だ。
地面はひび割れ、朽ちた木々が根からもがれ転がっている。宙にはモンスターを殺したときのような黒い霧が絶えず漂い、されどその霧は意思があるかのようにふらふらと蠢く。
ここは荒野だ。森林よりは小さく遠くにはしっかりと壁が見える。そしてその壁までの間には荒野では無かったことを示すものが少し見渡すだけでいくつも見つかる。
遠くに見えるのは奥へ行くものを塞ぐようにある瓦礫の山。俺たちの近くにはそれよりも小さな瓦礫の山がいくつも、規則正しく残っている。
「ハル、行くぞ」
「うん」
ハルがトンファーを強く握りしめるのを見て、刀の柄に手を添える。ここにモンスターがいないとは限らないのだと、改めて気を引き締める。
俺たちの前はまるで道かのように瓦礫の山が無い。あるのは大きい物でも膝程度の高さしかないものだ。小さな瓦礫を超えて大きな瓦礫の山にたどり着く。
「これは、堀だよね」
「だな、埋まってるから深さは分からないか」
そう、俺たちが見ていた瓦礫の山はその一角にしか過ぎなかった。瓦礫は大きな溝、堀を埋めるように出来ていて、見えていたのは堀を埋めても尚余った分だったのだ。
「この瓦礫はどこから来たんだろ」
「とりあえず奥に行くか」
俺たちは瓦礫の山を乗り越えるが、半分を超えた程度のところで足を止める。
「手前と奥で瓦礫の大きさが違うな」
「掘ってみる?」
この荒野に入って来たところから見て瓦礫の山の奥の方はより細かいものが多いように見える。
上がったステータスを使い、あっという間に穴を掘り終える。大きいものも小さいものもたくさんの瓦礫をどかしその下に見えたのは、砕かれた土台のようなものだった。
「ここにある瓦礫はこの土台の上に建ってた建物が壊れてできたってことだな」
「こんな建物ってあるかな」
奥行きは庭も含めた俺たちの家ぐらい。幅は。
右を見ると数百メートルの先に見える壁。確かに瓦礫はそこまで続いている。左も同様。距離も右と同じぐらい。
「あ、そっか。これ城壁だ」
ハルの言葉で腑に落ちる。あぁそうかと。手前の堀、奥の城壁。ならばここは何かしらの侵入者を止めるためにあった場所か。
しかし、それならばなぜここに作られたのだろう。
ここはダンジョンの入り口から遥かに遠く。俺たちが最初から今の強さだったとして、道を全て知っていたとしても1日2日でたどり着ける場所では無いのだ。
それなのにここに城壁。長い道のりと厄介なモンスターという城壁に勝るとも劣らない障害があるのに。
「おにい、もしかしてあれって家だったのかな」
ハルが指差したのはここに来た時、俺たちの近くにあった数々の小さな瓦礫の山。
「かもしれないな」
生憎俺もハルも城や城下町の作り方など分からない。城壁と堀の外側に家があることがあるのかと思うが、そもそもここはダンジョンなのだ。外にある城の普通など関係ない。
どういうことなのだろうと考えを巡らせているその時だった。突然俺の肩に手が置かれる。
「君たちはここがどこか分かるかな」
刀の柄に添えていた手は掴まれ動かなかった。声音でその正体に気付きながらも首を動かし確認する。
「何のようだ。ブルランド」
そこにいたのはついさっき別れたばかりのブルランドだった。周囲を見渡すがソステヌートの姿は無い。
掴まれた手を引き剝がそうと右手に力を込めるが、ブルランドの掴む力も強くなっていく。段々と手に痛みが走り始めたその時。突如その手が強張ったように強く握られる。次の瞬間ブルランドの手は離れ、本人は数歩後ろに下がっていた。
「どういうつもりですか」
その冷めきった声は俺の後ろから。直前までブルランドがいた場所にはハルによって突き出されたトンファーが残っており、その先にはほんの少し、赤い液体が残っていた。
「あれ、ハルカちゃんってそんな怖い子だったっけ」
おどけた素振りを見せるブルランドの頬には小さくも鋭い傷が残っていた。
「おにいに攻撃したでしょ」
ハルの目がちらりと俺の手に向いたのを感じ、大丈夫だと振って見せる。手は動いているが、そこにはくっきりとブルランドの手形が残っていた。それを見たハルの目がさらに鋭くなる。
もう痛みは無いんだけどなぁ、と苦笑しながら刀を抜き左手を口に当てる。
相手が知恵の無いモンスターだったらこんな小細工必要が無いのだが。俺はブルランドから口元が見えないようにし、小声で魔法を唱える。
ハルの体が光り付与魔法を掛けたことがブルランドに伝わる。続いて自分に付与魔法。妨害はされなかった。
ブルランドは無表情でこちらを見ているだけだ。
「戦う準備はできたかな?」
俺たちが付与魔法を使ったことを見届けたブルランドは指を鳴らす。俺たちの指輪が、宝具が熱を持ち光る。それは宝具の制限が解かれた証。
「俺たちが断ったから、こうして潰しに来たか?」
「いや、僕は何もしない。言ったでしょう? 僕たちの同僚を倒して欲しいって」
ブルランドはゆっくりと後ろを向き、手を耳に当てる。
「おいで、英雄が来たよ」
ブルランドの口から放たれた言葉は魔力に乗り、どこかに飛んでいく。
次の瞬間。
ずるりと宙を舞う霧が揺れ動き、ダンジョンが揺れた。
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