130.親父は少年を連れてダンジョンへ
『地下室ダンジョン』コミックス2巻発売中です‼
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
本当に大丈夫なんですか。ダンジョンの入り口で不安そうな顔を見せる少年は周囲の雰囲気か着慣れない装備のせいか居心地悪そうに身じろぎする。
「大丈夫です。この通り許可は得ていますし、私達も高レベルです。あなたに攻撃が向かうことは無いでしょう」
少年の横に立っていた、重装備の男が懐から書類を出し見せる。そこには様々な禁止事項と共に、今日だけ許可証を持たないこの少年がダンジョンに入ることを許可することが書いてあった。
護衛と離れることの禁止、武器携帯の禁止、戦闘の禁止。それ以外にも支給された装備を外すことの禁止など、出来ることなど何もないと言えるほどにまで少年は行動を制限されている。
少年の護衛についているのは同じような装備に身を包んだ7人の探索者。テレビで見られる勇者御一行のようにあからさまに強そうな装備ではなく、無骨なデザイン。
それは高等探索隊と呼ばれ、利潤ではなく国の為に組織された探索者集団だった。
「本日はよろしくお願いします」
「話は聞いております。木崎さん。モンスターを通すつもりはありませんが、不慮の事態があったとしても、戦わずに逃げるよう願います」
俺の傍に並ぶのは以前の同僚であり、俺の部下になる可能性のあった男。休日に酒を飲みに行くような仲だったが今は仕事中。ただでさえ俺は不透明な立場なのだ。ため口を叩こうものならすぐに諫められるだろう。こいつはそういう奴だった。
「では、突入します。ゆっくり歩いてついてきてください」
前には高等探索隊4人。後ろには俺と少年、高等探索隊から2人という並びでダンジョンへ進む。2人が少年を挟むように立ち、俺は少年の後ろに続く。
悲惨な事件により5人以上で戦うことが禁止された現在では誰かを護衛する際にはこのように動くことになる。
戦闘は全て前の4人が行い、もしモンスターを通してしまった場合は後ろの3人が護衛対象を担ぎ逃げる。逃げきれない場合は前後のパーティーで距離を開け、別々に戦闘を行うのだ。
今日から向かうのは森林のさらに奥。公表がされておらず一部の人間にしか知らされていない隠し部屋。
当然今日初めてレベル1になる少年が向かうには遠すぎる場所であるため、何日かに分けて向かう予定である。隠し部屋までは最短ルートを通って真っすぐ向かうが、その途中にも調査しなければいけない地点があるので今日はそのうち2つの地点に行くことを予定していた。
ダンジョンへと足を踏み入れる少年に向けて俺は『共鳴』を使用する。見えるのは初めて少年を見た時と同じステータス。レベルは28で技能は『剣』の無難なステータス。しかしそれは少年がダンジョンに入った瞬間変化する。
レベルは1。技能は『魔法』。3つあったスキルは全て無くなり、『創造』という見たことのないスキルが現れていた。
名前からして生産系統の素質スキル。それもかなり強力な部類である可能性が高い。BかAか、俺のようにSランクの可能性もあるだろう。
「技能の決定はできましたか」
ステータスを強制的に見ることの出来るスキルを持っていることは教えていない為一応尋ねる。少年が頷いたのを確認してから先頭にいるやつに手でサインを送る。
すぐにダンジョンの奥へと進んだ俺たちは最初の角を曲がる。そこにあるのは転移陣が置かれた部屋。自然な流れで少年を誘導し、一緒に魔法陣の上に立つ。
「探索者はこの魔法陣から以前探索した場所まで転移し、また探索を終えた後はこの部屋に戻ってきます。試しに15層と言ってみてください」
少年は小さな声で15層と呟く。魔法陣が光らないか、魔力の動きが無いかなどを確認するが一切の変化は見慣れない。
転移において、この少年だけが自由に使えるということは無さそうだ。
「このように1人でもその階層に行ったことのない人がいる場合には転移は使えません」
転移できないことを見せたかのような言葉で少年を魔法陣の外に出し、それから自分も魔法陣の外に出る。
少年1人ならば魔法陣を動かせる可能性もあるが、それは安全の為にも確かめることはできなかった。
「これから、5階層まで歩きますので疲れた場合は遠慮せずに教えてください」
今ここにいるのは少年を除き全員が森林でも傷一つなく戦える精鋭。本来ならスキルや魔法1つだけで攻略が出来る5階層までに危険なことなど何ひとつなく、階段で休憩をはさみながら数時間後には5階層についていた。
ボス部屋に入る前に魔法陣に触れ、1階層と同様の実験を行うが何も起きなかった。
「この部屋に入るとボスとの戦闘が始まりますが、私が対処いたしますので、下がってお待ちください」
8人でボス部屋に入ることはできないので、前の4人はボス部屋を通り過ぎ俺たちだけがボス部屋に入る。
少年に血を見せないよう、ボスは首の骨を折ることで倒した。慣れていない人にとってはそれでも十分衝撃的な光景なので、少年の視線を遮っておくことは忘れない。
ホブゴブリン戦で少年がいることでの変化は見られなかった。
一度しか手に入れることのできない少年の『自己鑑定』のスキルカードだけを回収しその日は帰還した。
次にダンジョンに来たのは一週間後。その日は10階層のボス、黒狼を倒すところまで進んだ。ホブゴブリン同様に変化は見られなかった。
そして次の週。15階層のボス、人化牛。やはり変化は見られない。
最期は隠し部屋だと。そう考えながら森林に入った翌週。
俺たちは思わぬ場所で異変を目にすることとなったのだった。
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『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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