129.兄妹は逃げるように転移する
『地下室ダンジョン』コミックス2巻発売中です‼
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「あー、やっぱダメかな。君たちなら出来ると思うんだよ」
なるべく早い方が良いだろうと俺たちは珍しく朝からダンジョンに潜っていた。それはブルランドの依頼を断る為。遺跡の15階層、ミノたんと戦いブルランドから依頼を受けた場所。
一応ボス部屋だろうと思うので警戒して扉を開いてみればにこやかな笑顔を浮かべるブルランドが待っていた。
部屋の隅に目を向けるとそこには、前回同様縛られて動けなくなったミノたん。いや、ミノたんよりは見た目がゴツゴツしているように見える。横に落ちている武器は斧ではなくハルバードだった。
ミノたんという今までのモンスターとは全く違う名前に違和感を覚えることはあったがもしかするとミノたんはブルランドが起こしたイレギュラーだったのかもしれない。今まで見た名前は種族名や見た目の簡単な解説のようだったがミノたんはまるでペット扱いのようだ。
距離が空いている為ハルも看破を使えないのでそのままブルランドに向き直る。
「ブルランド、俺たちはその3人目のメイドとは戦わないことにする。もし、このダンジョンが戦いの場になるなら、しばらくダンジョンに入らないようにするつもりだ」
昨日決めたことを簡潔に伝えれば返答はまるでその答えが分かっていたかのようで、それでも引き留めるようなものだった。
「死なないだけじゃ足りないんだよ。出来る限り怪我はしたくないし、無駄に痛い目に逢うのも許容できない」
「んー、やっぱり私たちは楽しむためにダンジョンに来ているので」
「だよねー」
カラカラと笑うブルランド。しかしその笑い方に悲壮感などは感じることが出来ない。その笑いに何かしらの感情が籠っているようには見えないのだ。気の抜けた笑いというのか、この場と不釣り合いな笑い方に幾許かの不気味さを覚えた。
服の裾が少しだけ引かれる。見てみればハルの笑顔が引きつっている。きっと俺も同じような表情をしているのだと思う。
「じゃあ、そういうことだから。俺たちは帰るぞ。また明日来る」
しばらくはダンジョンに潜らないようにしよう。心の中ではそう呟きながら実際には別のことを口にする。とっさに機転を利かせた自分を心の中で褒めながらハルを押してボス部屋の入り口へと引き返す。
このまま明日からダンジョンに来ないと言ってしまったら万が一があるかもしれない。ブルランドが俺たちに求めたのはもう1人との戦闘。準備が必要だろうから、もし強引に戦わせるつもりであったとしても明日また来るならば止めないはずだ。
ボス部屋から出ていこうと扉に触れる。扉は微動だにしない。この扉は押したり引いたりして開けるものでは無い。取っ手は無く触れることで自動で開くものだ。
「あのー、扉開けてもらえないか」
「それは、難しいかなー。今までも出口って扉じゃなくて魔法陣だったでしょ」
ブルランドはとぼけたように笑顔で答える。
確かにそうだった。今までのボス部屋。洞窟で3つ、遺跡で2つ。すべてのボス部屋が扉から入り魔法陣を通って出る物だった。しかし。
「昨日はこの扉から出たんだが」
「そうだっけ。今日は無理なんだよね」
昨日ミノたんと戦った後、俺たちは扉を通って家に戻っている。断じて魔法陣は通っていない。
「そもそも魔法陣も無いぞ。ボスを倒さないと出てこないだろ」
「そうだった、そうだった。ほい」
ブルランドが指を鳴らすと同時に部屋の隅からガシャンという大きな音が鳴る。
そこは先ほどまでミノたんに似たモンスターが縛られていた場所。視線を向けてみれば潰れてしまい元の形が分からなくなったモンスターと、転がる頭部。
「ほら、通れるよ。どうぞ」
転がる頭部が霧に変わるとともにブルランドの後ろに魔法陣が現れる。
「あぁ、ありがとう。じゃあ、また」
がっしりと自分の服が掴まれているのを感じながらそそくさと魔法陣に急ぐ。
別れの言葉を告げるがそれへの返答は無かった。
動かないブルランドのすぐ横を通り抜け、そのまま魔法陣の上に立つ。いつもの転移の感覚にほっと一息。服に捕まるハルの手をしっかりと握り転移に備える。
視界が切り替わるその瞬間、こちらに背を向けたままのブルランドの様子が変わったような気がした。
「うん。また、だね」
ぞっと鳥肌が立つのを感じながら転移が始まる。
次の瞬間、俺たちは見覚えのない荒野に立っていた。
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