128.兄妹は決意を固める
『地下室ダンジョン』コミックス2巻発売中です‼
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「また、ここで会おう。返答はその時に聞かせてもらうね」
ブルランドからの頼みごとについて詳細を聞いた俺たちは一度、家に戻ってきていた。今日の探索は短い時間になってしまったが情報を整理しないと落ち着かない。
当然ブルランドと連絡を取る手段は無いため、ミノたんと戦ったあの部屋で会うことになった。時間は明日でも明後日でもいつでも良いらしい。とはいえ、彼女はもう一人が大暴れをしていると言っていた。もし、頼みを受けるのだとしたらできるだけ早い方が良いと思う。
「おにい、どう思う? 危険だけど安全だから。今までと同じようには決められないと思う」
「だよなー。とはいえ言葉面だけで判断もできないだろうし」
ブルランドやソステヌートでさえ歯が立たないもう一人。聞いたのがそれだけだったら悩む間もなく断っていた。たとえこれからそのメイドが大暴れしたとしても、俺たちがダンジョンに入らなければ被害を受ける確率は低いはずだからだ。
それにブルランドはすべてのダンジョンは繋がっていると言っていた。そして彼女たちメイドはそれらを自由に行き来できるのだと。親父からの情報で分かってはいたが改めて教えてもらうとそれが良くも悪くも働いてしまっていることが判る。
残酷な話であるが、世界中の誰も敵わなかったとしてもダンジョンから出てきてしまったとしても世界中のどこか。少なくともこの家の地下に出てくることは無いだろう。日本は狭い土地なだけあってダンジョンは多くない。
大抵の場合メイドが出てくるダンジョンは海外で、もしそこで大虐殺を行ったとしてもこの家まで辿り着くことはかなり後か、一生来ないかだろう。
自ら死にに行くよりはここで待っていた方が健全だし長く生きられる。
だが、ブルランドの説明にはその考えを覆すものがあった。
彼女たちメイドというのはダンジョンの管理に当たるものであり、その中でも侵入者を守ることを責務としているらしい。侵入者というのは探索者のことだろう。
探索者を招き入れ、モンスターと戦わせる。何故侵入者を守るとなるのかは理解が出来なかったが、そこは説明して貰えなかった。
ともかくその探索者を守ろうとするメイドは俺たち探索者を害することが出来ないらしい。ただ、その『害する』の基準も地球とは違い、殺そうとしてはいけないという緩いものだった。
直接殺すのは当然ダメ。モンスターに殺させるために痛めつけて動けなくするのもダメ。モンスターを用意し殺させるのもダメ。
殺すつもりはないが善意でモンスターを用意して死んでしまった場合は大丈夫。
動けないほどまで攻撃を加えた後にモンスターが偶然現れ殺してしまった場合は大丈夫。
力加減を間違えて殺してしまう、という場合は根本的な実力差からあり得ないとのことだった。もし実力がもう少し近かった場合は殺されてしまうこともあるとも。
つまり、俺たちがメイドと戦って死ぬことは無いということだ。ブルランドたちが味方してくれるならば動けなくなってモンスターに殺されてしまうということも無いはずだ。
とは言え。
「死ななきゃいいって、漫画の主人公じゃないんだよな。俺たちは」
「だよね。痛いのは嫌だし、世界救うためにって言われてもね」
俺たちは少年漫画の主人公でも魔王を倒す勇者でもない。骨が折れても腕が無くなってもダンジョンに潜るという少し狂った部分があるのは認めるが、それは自分たちの為だった。
最初ダンジョンに入ったときはお金の為が大きかった。最初の5階層は何も無かったが、それ以降は肉を手に入れることが出来、食卓が潤った。
一般にダンジョンが解放され俺たちがドロップしたアイテムを売れるようになった時、以前ほどお金に悩まされることは無くなった。
怪しまれないように売るのは少量ずつだったけれど、少し幸運な兄妹程度に売っていれば生活に悩まないですむお金は得ることが出来た。
お金に困らなくなってきた後の俺たちは娯楽にダンジョンを求めた。さらに強くさらに奥に。未知への好奇心は多少の怪我をものともしなかった。
ガン・セーンもリムドブムルも危険だったが死ぬことは無いと思っていた。実際ガン・セーン戦では怪我を負ってしまったが死の危機に瀕することは無かった。
あの気持ち悪いキメラは完全な不可抗力だったから仕方ない。さすがにあの戦いで腕を失った後はダンジョンに入らなくなったこともあった。
「うん、やっぱ無しだな。俺たちがわざわざ痛い目を見る必要はない」
「そう、だよね。私達の安全が一番大事なんだし、ね」
誰かのために。知らない大勢の為に。
危険を顧みず自らを動かすことが出来るのは美徳だ。物語の主人公のように素晴らしいことであり、きっとそれは人々の心を動かすことだろう。
だけれど、俺にとって一番大切なのはハルであって、それは知らない人の命がいくつであろうと釣り合うことは無い。
心に引っかかるものはあるが、俺の兄としての最善はこれである。そう確信している。
「早い方がいいだろ。明日、ブルランドに断ると伝えに行こう」
「そうだね。そしたらしばらく、ダンジョンは無しかな」
「だな。最近は大変な戦いが多かったし、のんびりしよう」
しかし、兄妹は忘れている。ブルランドは、彼女たちは地球で生まれ育った人ではなく、人の形をして同じ言葉を口にしているだけだということを。
問いに必ずしも、はいといいえがあるとは限らないということを。
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