127.兄妹の親父は誰よりも早く真実へ
『地下室ダンジョン』コミックス2巻発売中です‼
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「初めまして。木崎と申します」
目的の子供を見つけるのにそこまで時間はかからなかった。最初の予想通りその子は高校生であり、予想以上におとなしい子であった。
話を聞いてみれば探索者になる気は無いらしく、今は文芸部で本を書いているらしい。読ませてもらうことはできなかったがジャンルはSFだとのこと。インターネット上で日々更新されるダンジョンの情報にインスピレーションが刺激されたらしい。
ダンジョンならば昔ながらのRPGを作りたいとかは思わないのかと聞いてみれば数か月前は思っていたそうだ。だけれど自分が思いつくような設定は今現在地球上に存在する本物のダンジョンと何故か似通ってしまうのであきらめたらしい。
先にダンジョンのことを調べてしまい、才能の無い自分には見たことを切り貼りするしかできないのだと思う、少年はそう言っていた。
しかしそれは違うのだろう。俺の推測が合っているのならばこの少年の発想はダンジョンに影響を受けたものなどではなく本人の考えによるものだ。そして俺はその推測が合っていると確信している。
子供達や日本のトップに立つ探索者達。数人の友に許可を取ったり取らなかったりしながら使用した『共鳴』というスキル。
俺の子だからと親心で、子を置いて行ってしまった俺が親心と言う権利は無いか。トウカ、ハルカへの一方的な心配で使ったそのスキルは、誰にも知られないまますさまじい成長を遂げた二人にさえ気づかせないほどの強力なスキルだった。
使用により揺れ動く魔力はよほどの実力者が全力で注意していないと気付かないほど繊細であり、一度使ってしまえばそれに気づく方法は無い、と俺は認識している。
それほどのスキルが今相対している少年には効かなかった。『共鳴』はしっかりと少年に届いた。自分と少年の間に繋がりが出来たことを認識し、ステータスを確認しようとする。
勿論、探索者になっていない。ダンジョンに入っていないこの少年はステータスを持っていない。本来人間にはステータスが存在せず、ダンジョンに一歩足を踏み入れた瞬間に現れる。
ステータスを持たない人のステータスを見ようとするとどうなっているかは簡単だ。ステータスの全てが空欄で表示される。名前もレベルもスキルも空欄。
しかし少年は違った。
レベルは28、技能は『剣』でスキルもよく見るものが3つ。無難も無難。最初は少年が探索者であることを隠したのだと思った。探索者でなくてもステータスを持っている例はある。
うちの子のように国が気付いてないダンジョンが存在する可能性があるからだ。そして俺は確認されていないダンジョン。それもあんなにも遅れて生まれたダンジョンが息子のとこに現れた1つだけとは到底思えなかった。
話が終わった後に目の前の少年が登録されている探索者であるかを調査しよう。そう思い一息をついたときステータスの一番上の欄が目に留まる。
それは名前と書かれた欄だった。その欄は名前だけのことも名字だけのこともフルネームのこともある。数は少ないが仇名であることもあった。
少年の名前の欄に書かれていたのは『サトウ』だった。日本で一番人口の多い名字であると聞いたことがある。少年を知らないときにこのステータスを見ても何も疑問に思わないだろう。
だが、断じて少年の名前はサトウではない。サトウが仇名ということも無いはずだし、名前が仇名など本名以外になる人は総じて普段から自分のことを別の名前で呼んでいる人だった。少年には当てはまらない。
「すいません、改めて聞かせていただきたいのですが今までにダンジョンに入ったことはございますか」
少年は首を横に振る。嘘を吐いている様子は無かった。俺は万人の嘘を見抜けるほど良い観察力をしていないので騙されている可能性は十分にある。他人の嘘を見抜けると思い込むことこそが危険であると俺は考えている。
それにだ。俺にはこの少年が刃物を持ちモンスターと戦っているようにはどうしても思えない。
28レベルと言えばそこまで高いレベルではない。探索者に向かない人はレベルが10になる前に辞めてしまうし、そうでなくても20までに危険を感じ止めてしまう人は多い。28となるとそれらの壁を抜けた一歩先。一歩先程度でしかないが、そこまで行っている時点でそこそこの実力があるのだ。
ダンジョンの中を駆け回り敵と仲間をよく見て普通なら振り回すことすら忌避するような大きな刃物を敵に向け振るう。探索者の一番の基本にして最初の壁。
俺には少年がそれを超えているようには思えない。
よって、俺の出した結論は。
「偽装されてるってことか」
「え? すいませんもう一度お願いします」
思わず口から出てしまったことは幸い聞かれずに済んだらしい。すぐに笑って誤魔化し、時間になったことを伝える。この時間は少年の通う高校を通して時間を取ってもらっていた。学生の放課後であるし、少年には大事な部活がある。
「本日はありがとうございました」
案内をしてくれた先生方に挨拶をし、学校を立ち去る。
トウカとハルカは確かに強い。世界で見ても息子たち以上に強いやつはいない。いても片手で数えられる程度だろう。それでもまだ弱い。
ダンジョンを安全なものにする一番のカギは数分前まで話をしていた少年だ。
「もしもし、この前話した子に会ってきた。確定だと思っていいはずだ。あ? お前の方が終わって無いのか。急がないでも、いややっぱり急いでくれ。俺の息子と娘が危なくなる前に済ませたいんだよ。悪い、迷惑かける」
ダンジョンの真実を知るものは誰もいない。ただ、それに近づく数人の男女も存在するのだった。
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『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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