126.兄妹は凡人か勇者かそれとも
『地下室ダンジョン』コミックス2巻発売中です‼
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
ソステヌートが一人で怒っているなか、俺たち同様にため息をついているブルランドに目を向ける。何となくソステヌートでは話が進まない気がしたのだ。進んだとしても、どこか大事な部分で食い違いが生まれそうで怖かったというのもある。
お前が話せとジトっとした目をブルランドに向けていれば、ブルランドは声に出さずにけらけらと笑い、ソステヌートをつつく。
「ソーちゃんの話は分かったから続き話してもいい?」
「まだ話は終わってないんですよ。その後、もう少しだけ強い人が来てですね、まるで私が悪い人みたいに」
「あー、その話はあとでじっくり聞いてあげるから。今は彼らに話をしていい?」
両掌をソステヌートに向け、数度小さく上下に揺らしたブルランドはどう、と言いながら首を傾げる。
「わかりました。後で聞いてくださいね」
「うんいいよー。さっきも全部聞いたんだけどなー」
ブルランドはハハハと枯れた笑い声を上げる。笑いながらこちらに向けた目はどこか遠くを見ている気がした。もしかすると今と同じテンションで同じ愚痴を何度も聞かされたのかもしれない。
「うん、何とは言わないけどごめんね」
まあ座ってよ。そう言ったブルランドが指を鳴らすと俺たちのすぐ後ろに立方体の石の塊が生えてくる。それはしっかり固く冷たい石の感触。座り心地は悪いが今はそんなことを言うときではない。
「そんなこともできる、んですね」
ハルの固い声を聞いて初めて自分から警戒心が抜けていたことに気付く。改めて鞘に戻していた腰の刀を強く握った。
「えへへ、すごいでしょ。ってそんなことは置いておいて、大事な話をするから聞いてほしいな」
ブルランドの笑みがいっそう深まったような気がした。
「トウカくんとハルカちゃんには私たちが3人っていうのは話したと思うんだけど、覚えてる?」
「うん、刃物系スキルと崩壊系魔法。ソステヌートさんはどっちですか?」
ソステヌートさんはハルの質問に頷くとその手に魔物を倒したときのような黒い霧が生まれ、剣に変わる。
「私は刃物系スキルの方ですね。主に『剣』や『槍』の技能の方が使うスキルを作っています」
「ソーちゃんは剣振れないんだけどね」
「戦うことは仕事じゃないのでいいんです」
ブルランドが茶々を入れ窘められる。
「そして、もう1人が崩壊系魔法、ハルカさんが使う『崩』の魔法を作っています」
「その子は頭も崩壊してまーす‼」
「だからあなたは、はぁ」
諦めたようにため息を吐いたソステヌートはブルランドへ手を向ける。向けられた方は何故か勢いよく立ち上がり胸を張っていた。
「私も最近知ったんだけどね。私達って、環境の変化に弱いけど優秀なのと、環境の変化に強いけどポンコツなのの2つに分かれててね。私とソーちゃんは頭良くないの」
「ブルランドよりは私の方が優秀なので個人差もあります」
なんとなくソステヌートがポンコツなのは分かる。ブルランドは、見たとおりなのだろう。
「それでね、今いないもう一人は優秀な方なんだよね。頭良いし戦ったら負けるの」
俺はその言葉に顔を引きつらせる。俺たちが目で追うこともできない速度で移動できるブルランドが負ける。勝てないならまだわかる。俺たちはそれを確かめることもできなかったが、もしかするとブルランドは速いだけで攻撃は弱いのかもしれない。いくら速さで上回っていても守りを固められたら勝つことが出来ない。それなら分かる。
しかし彼女は負けるといった。それは最低でもあの速度のブルランドに攻撃を当てられるということで、当然その攻撃の速さは俺たちが視認できるものでは無いはずだ。
「問題はその子が大暴れしてるってことでね。気に入らない魔物を殺しちゃったりシステムを弄っちゃったり。やっと見つけたと思ったら攻撃されて追い返されちゃうし、いやになっちゃうよね」
「ソステヌートとブルランドの二人で戦っても勝てないのか?」
「うん‼」
俺の質問に彼女は元気よく頷く。
「そもそも私はほとんど戦えないから足手まといでしょ。結局ソーちゃんが一人で戦うことになるからね」
「あれで、足手まといなんですか?」
「そー。私は追いかけることと逃げることだけなら誰にも負けないけどそれだけだよ」
ブルランドは追跡系のスキルを作ったと言っていた。逃げる相手を見つけることなど容易だろうし、自分を追いかけてくる相手を見つけ探しに来ないところへ逃げることも同じだろう。
「で、俺たちはどうすれば良いんだ? 探索者をダンジョンから追い出すとかなら無理だぞ」
そもそもそんな危険人物がダンジョンで暴れているのならば俺は探索の仕方を考えなければいけない。勿論これ以降ダンジョンに入らないようにする可能性もあるのだ。
「ううん。君たちって勇者って知ってる?」
唐突に出された勇者という言葉に思考が停止する。
「ご主人様が言ってたの。誰もやらない危険なことを成し遂げた人のことを勇者って言うんだって。でね、誰もできない危険なことを成し遂げた人のことを英雄っていうの。私は君たちに英雄になって欲しいんだ」
ブルランドは上を向き、目を閉じ数秒停止する。大きく深呼吸をすると、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
「トウカくん、ハルカちゃん。君たちには我を失った僕たちの同僚の討伐を依頼したい」
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『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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