125.兄妹はメイドの憤りにため息を
『地下室ダンジョン』コミックス2巻発売しました‼
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「こちらは、ソーちゃんだー」
両手を掲げたメイド、最初からここにいた方が上げた手を横に振るうようにもう1人のメイドに向ける。
「初めまして。これの同僚のソステヌートと申します」
新しく現れたメイド、ソステヌートさんは深々と頭を下げるとそのまま首を曲げ、もう一人のメイドを睨む。
「というかブルランド、私のことソステって呼んでなかった?」
「ははは、忘れちゃったソーっち」
「呼び方ぐらい統一してください‼」
俺たちを放り出して遊び始めるメイド二人。そういえば俺たちは先に会っていたメイド、ブルランドの名前すら知らなかった。まさか本人以外から聞くことになるとは。
「ねえ、おにい。ソステヌートさんがお父さんの言ってたメイドってことだよね」
「たぶんな」
傍に来たハルがひっそりと俺に囁く。
ソステヌートのメイド服はボロボロで、その顔は親父から見せてもらった似顔絵によく似ていた。ブルランドの話では活動しているメイドは3人だけということだったので、双子がもう一人いるということでない限りこの人が親父の言っていたメイドのはずだ。
そしてそれは親父が俺たちに無事でよかったというほどの存在。多分親父が言ったのは強さの部分ではない。いや、その部分もあるのだろうがブルランドと話した俺には違う意味があるように思えた。
攻撃的か否か。ブルランドは俺たちをはるかに凌駕する速さを持っていながら一度も俺たちに攻撃を仕掛けていない。つい先ほどのミノたんもブルランドがけしかけたというよりは、ボス部屋に入ってすぐ襲ってくるはずだったものを無理やり鎖でとどめていたように思える。
きっとブルランドには俺たちに対する攻撃の意志が無い。しかし親父が出会っただけで無事でよかったと考える相手、ソステヌートは違った。
おそらく俺たちの前にソステヌートに出会った人物は攻撃の意志を見せられたか、実際に攻撃をされたのだろう。ソステヌートの強さがブルランドと同等と考えた場合、攻撃された人は死んでいる。
「ソステヌート、さんは俺たち以外に探索者に会ったことはあるか?」
大丈夫のはずだ。慎重に地雷を踏まないように言葉を選ぶ。
「探索者というのは、あなた方ヒト族のことでよろしいですか? それならばありますよ。数か所の迷宮で会っていますし挨拶を交わしたこともあります」
「攻撃したことは」
「無いです」
そうはっきりと言ったソステヌートは直後首を傾げる。
「そういえば、攻撃をしたと言うのか分かりませんが、以前数人のヒト族の方に説教をしたことがありますね」
こうやって、と言いながらソステヌートは手を動かす。ビンタをするように掌を右から左へ。速度は大したことが無いと思う。それには俺たちならば、という前提がつくが。
前衛を務める技能の探索者には強度において俺たちを上回っている探索者もそれなりにいる。俺やハルのような後衛の魔法系技能は、それらの技能に比べ強度の成長が半分だからだ。
レベルが50程で前衛技能の探索者であれば俺たちと同じ強度を持っている。しかし、戦闘経験の部分ではどうか。唐突な攻撃に目が追いつくか、適切な反応ができるか。きっとできないだろう。
彼らが普段戦っているのは、その強度と半分の魔量で倒せるモンスターなのだから。避けることも構えることもできないまま、あのビンタが当たったとしたら。
「その説教した人ってどうなりましたか」
ハルの質問に、意味が分からないという表情をしながらソステヌートは口を開く。
「少し動くのが大変そうでした。何故か剣を振ってきますし、手が軽く当たっただけで壁まで跳ぶんですよね。あの方たちはどうしたのでしょうか」
あー、と俺とハルから漏れた言葉が重なる。
きっとソステヌートの言っていることは正しい、ただし認識は間違っている。おそらく探索者はとらえられない速度で手を振るわれ、吹き飛ばされた。そして攻撃を仕掛けたのだろう。
「なぜ、説教を?」
認識がおかしいとはいえ、正しいことを言っているのだとしたら説教とは何なのだろうか。探索者が見知らぬ人に説教されるというのは理由が見つからない。
「そうでした‼」
ソステヌートは手を叩き、怒ったような顔で声を上げる。手を叩いた勢いで風が起こり俺たちは一歩後ろへ押しのけられる。
「あの方たちひどいんですよ。嬢ちゃん何してんだ、そんな恰好で襲われても文句言えねえぞって。鞄から布を出して私に投げて来たんです。そうです、あれは私がすっぽり包まれるぐらいの大きさでした。きっとあの布で私を捕まえる気なんですよ。そして、乱暴を。だって私が文句言えないって言ってたんですから。文句ぐらい言えますよ。言えますとも。だから私はお説教したんです」
口を膨らませたソステヌートは地面を踏み鳴らす。どんという音と共に少しだけ地面が揺れた。
「私も女なんですよ。主から頂いた体なんです。汚されるなんて許せませんし、女性にそんな目を向けるなんて駄目です。主も言っていました。男からそういう目を向けられたら股間を蹴ってやりなさい、そしたら女になるからと。しかしそれでは可哀そうです。だから私はこうやって、こうやって」
右手の指を合わせ左右に振る。それは、そのビンタは先ほど見せたものよりも勢いがあり、横にいたブルランドは風圧で揺れる髪を押さえている。
「ね、ひどいと思いませんか‼」
まるで怒りました、とでもいうように口を少し膨らませ両手を腰に当てるソステヌート。
話からすべてを察した俺とハル、そしてブルランドは大きくため息をついたのだった。
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