124.兄妹は戦う、ミノたんと
『地下室ダンジョン』コミックス2巻発売しました‼
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
【崩壊】を切り裂いたのはその巨大な体によって放たれた斧の一撃。相当のステータスと相応の技術を持っていなければ自分の体が振り回されてしまうだろう巨大な斧。
俺たちの力ではその一撃を受け止めるどころか武器で防いでも武器ごと真二つにされる恐れがある。しかし、その攻撃に危険は感じない。
「速さはステータスどおりか、ハル回避優先だ」
「分かった、距離とっとくね」
大して高くも無いステータスに重すぎる武器。斧が振るわれる速度は遅く十分に見てから避けることが出来るほど。カウンターを仕掛けるのも難しくは無いはずだ。
「一回突っ込むから、補助頼む」
「分かった。魔法効くか分からないから」
ミノたんの周りを回るように近づいていく。ミノたんの目は俺に向いている。ついさっきハルの魔法を見ているのだから、ハルが遠距離で攻撃を出来るのは分かっているはずだ。
それにしては注意が俺に向きすぎている気がする。ハルがミノたんの視界から完全に外れたタイミングで勢いよく近づき、斧の間合いのすぐ外で止まる。眼前を通りすぎる斧を見届けながらハルに合図を送った。
「【インパクト】【トリプル】」
「おう‼」
3つの光がミノたんを襲う。【インパクト】の衝撃でミノたんの動きが止まったことを確認してからもう一歩踏み込む。俺とミノたんでは腕の長さも武器の長さも大きく違う。しかしタイミングを計れば、俺の速さであればそれをカバーすることが可能だった。
刀で鎧ごと切り裂くのは不可能だろうから狙うのは斧を持っている手。残念ながら顔には届かない。跳べば届くが相手の能力が分からない状態で地面から足を離すのは危険すぎだ。
既に斧を振り切った後の手、指の関節めがけて刀を振るう。あたえられたのは浅い切り傷一つだけ。
「ハル、ステータスのわりに硬すぎる。普通の攻撃じゃ通らないぞ‼」
すぐにミノたんの手が迫ってくるのでしゃがんで躱しハルのもとへ戻る。
「ハル、ミノたんの動き見てどうだ」
近距離で戦っていた俺よりも少し離れてみていたハルの方がしっかりと敵の動きを観察することが出来た。これもここ1か月の間に俺たちで組んだ作戦の一つだ。
見た目も攻撃手段もまちまちのユニークモンスターではどうしても同じ作戦で戦うことが難しい。今までのように協力しながら全力攻撃ではどうにもならない場合も出てくるから。
極々たまにしかユニークモンスターが現れなかったときは、現れてもステータスだけでどうにかなることばかりだったし、戦略を丁寧に練りながら戦う必要があったのも片手で数えられる程度だった。
今考えると甘かったと思うが、敵に合わせて戦略を練るための体制を作る必要を感じていなかったのだ。強力なモンスターと戦った後も疲労感と達成感で難しく考えていなかったのだから。
「筋力は斧を振り回すギリギリみたい。斧を振り切ってから止めるまでにある程度距離があったから。あと魔法は効かなかった。たぶん、なんかのスキルだと思う」
「俺たちの言葉は?」
「たぶん理解してる。私が魔法を叫んだときに少しだけ重心を落としてたっぽかったから。多分魔法はあんまり効かないけど衝撃は伝わるから無視はできないって感じかな」
つまりは、魔法も物理も効かないということであり、普通に戦うのならば勝つ手段がほとんどないことを意味する。
「ハル、宝具行くぞ。来い、大鎌」
「うん。モーニングスター‼」
宝具の待機状態である指輪は光り輝いている。つまりはこの1か月同様に、宝具の制限が外れているということ。十中八九あのメイドの仕業であるが宝具を使わずに勝利するのは困難だ。
次の瞬間俺たちの手には大鎌とモーニングスターが握られていた。
「同じように攻撃が通るか確認するぞ」
「私も一回殴りたいなーって」
「魔法が効かなかったらな【スピード】」
ミノたんの速さは確認したので、攻撃の速度を上げる。
「おにい、巻き込まれないでね【亀裂】【トリプル】」
回り込みはせずに真っすぐと近づく。迎え撃つように斧を構えたミノたんは走る俺に対し行動を起こさない。人化牛のような衝撃波での攻撃はできないのか、それとも今は効果的でないと考えたか。
少なくとも小さな動作かつ速度の速い遠距離攻撃はないとみて良さそうだ。遠距離で今の俺が躱せる速さならば俺たちに当たることはない。敵はミノたんだけなのだから注意が逸れることも無いのだ。遠距離攻撃に特別警戒する必要は無さそうだ。
「ハル、ついてこいよ‼」
「勿論。おにいも私の魔法にぶつからないでね」
大鎌を持った俺は素早い動きがしづらくなった。だが、それ以上に刀とは段違いな攻撃力を得ている。そして大鎌ならば速さが落ちようともその奇抜な形を利用した戦闘方法で敵の攻撃を避けることも可能だ。
刀で攻撃した位置からさらに1歩接近。ミノたんの足の真横で大鎌を横に伸ばしミノたんの膝裏に引っかける。そのまま大鎌に体重をかけて一回転。大鎌を振り払うように足が振られたせいで、余計刃が深く食い込んでいく。
鎧が、外れた。
空間に黒の線が走り、寸前まで俺の頭があった場所を駆け抜ける。俺のすぐ後を追うように動く3つの黒い線は膝から鎧が落ちると同時に膝裏に突き刺さった。
痛みかそれともバランスが崩れたからか。膝裏に突き刺さったハルの魔法【亀裂】はあっという間に膝の関節を切り離した。
ミノたんは自分の体を支えられずに崩れ落ちる。そして。
「思ったよりもはるかに弱かったな」
下で待っていた大鎌の刃に自ら首を落とし、黒い霧となって消えていった。
一度消えてしまえばモンスターが復活することは無い。俺はパチパチとなり始めた音の先を睨みつける。
「変なところもあったがこんなに弱い敵で俺たちを見極めるだと? どういうつもりだ」
ハルはモーニングスターを構えたまま惚けてしまっている。最初の魔法を無傷で耐えたのだ。今の【亀裂】はダメージを与えこそすれ致命的な影響を与える物では無かったはずだった。
それでもニコニコとメイドは手を叩き続け、十数秒。
「いーや、君たちの成長を見れて嬉しいよ。私の目的は達成できた」
「えぇ、あなた達は私達と共に戦える。私はそう判断します」
目を離していなかったはずのその場所にはもう1人のメイドが立っていた。
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