122.兄妹は挑む?
『地下室ダンジョン』コミックス2巻発売しました‼
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
ダンジョンとはとても不思議な存在である。宇宙人の侵略とか、異世界との融合だとかどこかの国の化学兵器だとか。ダンジョンが現れてから今日までたくさんの推測が生まれてきた。
ダンジョンの正体が判明などと嘯いた本もあったし、小さな宗教団体も生まれた。それは未だダンジョンの正体がさっぱり分かっていないからであるし、完全に物理法則の外側にあるからとも言える。
法則性すらも分からないユニークモンスターやスタンピードの発生。いつの日かダンジョンは不思議なものであると人々の深層心理まで染みついて、異変に気付かなくなってしまう。あぁ、いつものことだと。
日本ではほとんどいないとは言え死者が出ているし、世界的に見ればかなりの数の探索者がダンジョンで命を落とし遺体すらも見つからない。唐突にダンジョンに入った人が帰ってこないことがある。人々はそれを事故であると認識するのだ。
モンスターにやられたのだろう。ダンジョンとはそういうものだ、と。探索者は皆そういうのだ。もしかしたら事件かも、予測していないことが起きたかも。そんな言葉を発するのはいつもダンジョンに入ったことのない人間であり、往々にしてそのような声は無視される。
所詮現場を、ダンジョンを知らない人間の言葉だと。
ダンジョンを想像の範囲外と考え続け、考えることを止めてしまった人は何故かとても多い。だからこそ、気付かないのだ。ダンジョンの奥に淀む悪意に。
「おにい、また光ってるー」
「またかよ。あ、俺もだ」
あのメイドと出会って早1か月。帰っていった親父からの連絡も特になく俺たちは通常どおりダンジョン探索へと勤しんでいた。少しずつ遺跡の探索を進め、レベルを上げている。
とは言えダンジョンの中では通常通りと言えないことが何度も起こっていて、怪我をしてポーションを飲むことが何度もあった。
遺跡に出現するモンスターは総じて特殊な能力を持っている。スライムなら分裂であるし、ゴブリンなら剣さばき。狼は仲間を呼んでイノシシは岩を飛ばした。しかし、それさえも勝る特殊性を持つモンスター、ユニークモンスターがダンジョンには稀に現れる。そう、稀に。
「今日はトカゲ、昨日はモグラ。一昨日はなんだった?」
「一昨日は無くて、その前がコウモリ。その前の前の日が、蛇?」
「あぁ、そうだった。火を吹く蛇だったな」
俺たちの前には2回に1度程度のペースでユニークモンスターが出現していたのだ。しかもその強さもおかしかった。本来ユニークモンスターとは強さも見た目もまちまちだ。そこらにいるモンスターと大きくは違わないものもいるし、勇者御一行を追い詰めた黒騎士のようなものもいる。
そして俺たちが出会ったのは黒騎士のような例。俺一人でも、ハル一人でも勝つことは難しいと言えるほどの強さだった。2人が宝具を使い全力で戦うことでやっと安全ではないが安定して倒せる敵。異変を感じるが撤退するほどではない敵。
現れるユニークモンスターは何故かアイテムをドロップしなかったが俺たちは順調にレベルを上げることができた。
さらにもう一つ。ユニークモンスターが現れるときには決まって宝具の指輪が光っていた。まるで早く使えとでも言っているかのようにギラギラと。その状態で一度宝具を使えば、戦っている間は時間制限など無いかのように起動し続けた。
残念だったのはその状態での宝具の起動もしっかりと1日分に換算されてしまうこと。戦いを終え指輪に戻った宝具を再び起動するのは不可能だった。
「今、ユニークモンスターを相手にする余裕は無い。すぐに行くぞ」
「おっけー。これで宝具も自由に使えるから都合がよかったんじゃない?」
そして今、俺たちは遺跡15階層。ボス部屋の門の前に立っていた。洞窟の15階層に初めて入ったのはもう1年以上前。中にいたのは今となってはもう何度倒したか分からない人化牛。俺たちに美味しい肉を提供し続けてくれた。今でも2日に1度は人化牛の肉を夕食に出している。
「よし、行くか」
「行こう‼」
扉の先はいつも通りの大きな部屋。しかし、その先に立っていたのはあの時のメイドだった。
「やっほー、ハルカちゃんにトウカくん。ひさしぶりだねー」
メイドは1か月前となんら変わりない笑顔を浮かべながら大きく手を振っている。
俺とハルは部屋の入り口に立ったまま武器を構えた。彼女が俺たちの認識できないほどの速度で移動できることは分かっている。本気で攻撃しに来られたら抵抗が無意味であることも分かる。
だがユニークモンスターの現れる頻度がおかしくなったのは彼女と出会ってからだったのだ。警戒しないわけにはいかない。
「名前教えたか?」
「んーん、ステータス見たら分かるもん。2人ともレベル99だね。スキルはー、ふむふむ」
俺たちを見ながら顎に指をあてて頷いている。相変わらずステータスを覗かれているような魔力の動きは無い。『共鳴』か、ダンジョン運営側の能力かを使っているのだろう。
「さてと、私がここにいるのはね。君たちがどれだけ戦えるかを見極めるためなんだよ。えーっと、私と戦うってことはないから安心してね」
そう言ったメイドは真っすぐと左手を部屋の隅に向ける。
「君たちと戦うのは彼だよ。紹介しよう。彼がミノたんだ‼」
その手の先には、人化牛をさらに一回り大きくしたようなモンスターが全身を鎧で覆っている。角はより鋭く長く、横には俺の体よりも大きな斧と盾が落ちている。
そう、落ちていた。
「なんであんな状態なんだ」
「だってうるさかったんだもん」
彼女の言うミノたんは鎖でぐるぐる巻きにされ部屋の隅に転がされていたのだった。
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『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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