121.妹は父に攻撃を仕掛ける
『“ぼっち”な迷宮製作論』を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「いででで、助けるんだトウカ‼」
俺と春香が引っ越してから俺たち以外に誰も入ったことのないこの家に今日初めて客が来た。客は人の家にもかかわらず床に寝転がり叫び声をあげている。その声に品は無く、何故かただひたすらに必死な声だ。
「ハル」
「うん?」
「やっておしまい」
「うん‼」
再び大きな悲鳴があがる。あ、悲鳴ではなく叫び声だった。
「だずげろードウガー」
「うわぁ、お父さんがゾンビになった。気持ちわるい、起き上がってこないで」
「ぐふっ、ヴォヴァー」
当たり前だが俺たちが見ず知らずの人を家に上げるわけもなく、叫び声の正体は親父だった。
俺たちが家に戻って1時間ほど。今までにないぐらい慌てた様子の親父が家の扉を叩いた。ちょうどダンジョンで聞いた『共鳴』のことを考えていた俺はすぐに親父が来た理由を察したため家の中に通した。
ダンジョンで出会った彼女により俺たちに付けられていた『共鳴』は外された。十中八九『共鳴』を俺たちにかけたのは親父であり、その親父からしてみれば俺たちが気付いたか、死んだか。どちらにせよ非日常な問題が起こったのだと思ったのだろう。
俺の顔を見てほっとしたようにため息一つ。部屋に入ってハルを見て大きく深呼吸。両手を持ち上げハルに抱き着こうとした親父は一瞬のうちにハルによって腕をひねり上げられ拘束されていた。
悲鳴を上げてはいたが顔は笑っているしゾンビのものまねをしているのだからまだまだ余裕はあるのだろう。
「女の子ストーカーして楽しいか。このくそじじいー‼」
「いででで、痛いマジ痛い。あがっ」
あ、親父が動かなくなった。
親父が目を覚ましたのは数分後。ちなみにハルは軽くだが眠っている親父を蹴り飛ばしていた。たぶん、目を覚まさせてあげようとしていたのだと思う。
「で、『共鳴』が何かはわかったしそれを俺たちにつけたのも親父だと確信してる。メイドのこともある程度察した。説明してもらえるんだよな」
「まじかー、ってことはあのメイドに遭ったのかよ。無事でよかったー」
親父は額に手を当てて顔を伏せる。そのまま、まじかよ、運どうなってんだよ、などと呟いているのが聞こえる。
「お父さん、土下座のときの手はおでこじゃなくて床だよ」
「土下座じゃねえから‼」
親父は自分の膝を、叩き顔を上げる。真面目な話だから俺への怒りをぶつけるのは後にしてくれと言った後、ほっぽり出していた鞄からタブレットを取り出す。
「2人の言う通り俺は『共鳴』というスキルを持っている。一度顔を合わせ指定した相手のステータスをいつでも確認できるってものだ。当然この家にレベルを上げる手段。おそらくはダンジョンがあるのも認識している。地下室だよな」
分かっていたことだが、親父は俺たちの置かれている状況を完全に理解している。しかし、だ。
「『共鳴』の効果ってそれだけ?」
俺たちはダンジョンで出会ったメイドから『共鳴』の効果を聞いてしまっている。それはつまり、今親父がスキルの効果についてごまかそうとしていることも分かってしまうのだ。
「当たり前だろ、ハル」
「レベルいくつ」
言葉と共にハルから親父に向けて魔力が伸びていくのが分かる。
「さあな、人のステータスを覗かないでくれよ」
ハルの魔力、『看破』は容易に弾かれる。霧散する魔力にまぎれて細く薄い魔力が親父からハルに向けて伸びていくのが見えた。
「それが『共鳴』か、親父」
ハルの前に手を伸ばし魔力を持ってそれを防ぐ。
「おー、やっぱ魔力はしっかりと見えてるんだな。さすがレベル94。俺もここまで高いレベルは聞いたことねえよ。今一番高いのがアメリカの80台前半だったよな。世界最強って呼ばれてたやつだ」
「いや、俺は70台後半って聞いたが?」
数日前に調べた限りだとそうだったはずだ。たしかアメリカの探索者がレベル80に近づいて世界最強であると書かれていたはずだ。
「あー、そうだったかもな。間違い間違い」
親父は、わざとらしくにやけながらはっはっはと笑う。
「お父さんってさ、結構おかしなこと知ってるよね。おにいからメイドの話聞いたよ。今のも、たぶん公表されてないレベル80超えがいるんだよね」
「さあな、それは俺の口からは言えない」
俺のことはどうでもいいんだよ、とぼやきながらタブレットを弄る親父。少し覗きこめばそこにはメイドのイラストが描かれてた。普通なら親父のメイド趣味にひくところなのだが、その絵に描かれたメイドの服はどうしても見覚えがある。
絵に描かれたメイド程ボロボロではなかったが、その服は俺たちがついさっきダンジョンで出会ったメイドが着ていた服と似通っていた。
「2人が見たのはこいつで間違いないよな」
親父は確信しているようで最終確認を取るように尋ねてくる、が。
「違うな。服はたぶん同じだが顔は全く違う。俺たちが見たメイドの服は同じとは言えボロボロじゃなかったし、目の下にもこんな隈は無かった。残りの2人のどちらかだろ」
俺たちが遭ったメイドはあと二人いるようなことを言っていた。おそらく、親父が見せた絵のメイドはそのどちらかだ。
「あ? 二人ってなんだ。いや、見たやつ以外に二人いるなら全部で三人だよな。強さはどうだった。2人で戦えそうか」
「無理だな。目で追うことすらできなかった。戦おうとしたら一回も攻撃できずに死ぬ」
「ってことは敵対はしてなかったんだよな。俺が知っている方のメイドは探索者に対して攻撃をしている。ただ、圧倒的な力の差があったのに殺されはしなかったらしい」
俺たちが出会ったメイド。親父が知っているメイド。そしてもう1人のメイド。その後もついでと言わんばかりに親父を質問攻めにして、親父が知っていた情報をいくつか吐かせることができた。
とは言え情報の中に直接ダンジョン攻略に関係するものは存在しなかった。
親父は必要な情報がそろい始めたらしくこれから関東を駆け回るそうだ。俺たちはいつもと変わらずダンジョンに潜ることになる。
されど、ダンジョンの中までいつも通りとは限らないのだ。
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